だんます!!

慈桜

第八十一話 王様は友達?

  ムカつくわぁ。 むっちゃムカつく。 モモカ好きになったけど、あのボケとカスだきゃほんまに。
『関西弁うまくなりましたね』
 語尾とイントネーションが違うだけとね。簡単ばい。
『それは博多弁です』
 いや、それは今はいい。 ムカつきすぎてコアと方言のお勉強してたとか意味わからんすぎて冷静になってしまった件。
 挑んで来たら辛酸舐めさせまくって悔しさにハンカチ噛み千切りまくらせてやる。
 俺はあいつらの喧嘩を心配して、ずっと格好良く止めに入るタイミング探してたのに、結果モモカにいいとこ取られてイラついて帰ってきただけになった。
 折角この機会に仲直り的なイベントにしてやろうって思ったのに、きっちり敵対フラグ立てやがりましたよ、はい。
 けど庭師ランドスケーパーが権能持ち殺したらどうなるんだろうな? 過去に例が無いからわからんぞ。 コア的にどう思う?
『検討もつきませんね。本来葬儀屋アンダーテイカーは死とは無縁の者ですし、権能持ちギルドそのものが、我々の処理負担を軽減する為に、私とマスターの能力権限を一部譲渡している者達とも言えますので、ジンジャーが死滅した際の負担は大きなモノになるかと』
 知ってた。 それぐらいは想像できるんだけどな、けどそうなりゃ新たに葬儀屋アンダーテイカーの枠が空くから手札が増えるわな。
 もれなくコッチにも飛び火するけど、敵対組織を掃除するには最高のルン○だからな。 今回みたいにモモカに素面にさせららたのは予想外だったが。
『あれは裏技ですね。しかし仮の守護者であるのに、見事なクレセントガーゴイルでした。モモカは、もう立派な守護者ガーディアンかと』
 その辺もこそこそ裏でコアが動いてるんだろ。 あそこまで権能を使えるようになってたら、次は激痛で守護者ガーディアンの扉を開けざるを得ない。 んで、先手を打ってるわけだ。 この阿国遠征の冒険者のミユキさんってモモカのババアだろ?
『おばあちゃん、ですね』
 うーん、コアの優しさって偶にわからん時があるよな。 確かに合理的に考えれば、モモカのババアはモモカの足枷になってたし、守護者ガーディアンになる決断を鈍らせてたかもしれんが、旦那にも息子にも先立たれた老い先短いババアをそっとしておいてやるのも優しさだと思うぞ? いくら当人の願いとは言え、どの道長くは無かったんだから。
『老人や障害者、寝たきりの病人に関して、冒険者としての打診をするようにと仰られたのはマスターです。それに彼女は彼女なりにモモカの為を思っての決断をしたのです。打診した手前、願われては断る事が出来ませんでした』
 とは言ってもなぁ。 死を偽装する必要は無いだろうに、こうやってモモカが泣きまくってるの見たら胸が痛くなってくるわ。
『それは前回、命の森にてモモカがマスターの味方をしてくれたから感情的になっているだけだと思います。ミユキ殿はミユキ殿の思う自身の正しい道を選んだのです』
 さて、論破されそうだから本題に入ろう。 ジンジャー、ハクメイの元警察コンビにはすこぶるムカついているが、それの対処は俺なりにするとして今は忘れよう。
 俺はラビリのアバターで珍しくスーツを着込んで、インテリ眼鏡を掛けて会議室のホワイトボードの前に立っている。
 今回貴族システムを実施するに当たって、商工会の会議室を時間レンタルしたのだ。
「だんます、そろそろはじめましょう」
「お前ちょんまげのせいでギャグ線ひた走りしてるからな?」
 殺戮大臣信長様はちょんまげでスーツを着込み、俺の助手をしている。大自然で動物達と共に戯れた結果、何を思ったか俺の舎弟として生きるらしい。 無駄に議事録を作成してくれている。
 俺は眼鏡をクイッと上げて、50名の冒険者に向き直る。 我ながら中々様になっていると思う。
「てなわけで、お前らには冒険者であり貴族である、特殊な冒険者になってもらう。次々進めて行くが、質問があれば挙手してくれ。次の頁」
 先ずは本来の冒険者システムを図面化したものを見せる。
「見ての通り冒険者は、自らの手で迷宮を踏破し、その迷宮の心臓部であるダミーコアの権限を獲得し、後に冒険者が魔物を倒した際に取得できるDungeon Money、所謂DMの利益の一部を自分の物と出来る。 はい君」
 夜爪達の所為で増殖している猫耳冒険者が挙手をしたので指名。 すかさず発言させるのは俺の優しさだ。
「以前掲示板で、DMは万物の購入が出来ると読んだことがあるのですが、それは限定のトレカなども含まれるのでしょうか?」
「いい質問だね。もし、そのトレカを冒険者の誰かがアイテムボックスに入れた事があらば、購入は可能になる。購入の検索に引っかからず、それでもどうしても欲しい場合は、お店のショーケースのカードなどを手に取り、アイテムボックスに入れ、そしてDMで購入する方法などもある。注意としては、アイテムボックスを利用して盗んだりしてはいけないよ?」
「ありがとうございます。長年の夢が叶いそうでワクワクしてます」
 テカテカもしてるな。 初々しく可愛い新人冒険者だ。 さて、此処からの説明が難しい。 何故ならドン引かれてしまう確率が非常に高いからだ。
「それでは次の頁」
 次は簡単に貴族システムを図面化した物を見せる。
「君たちには冒険者の中でも選ばれた冒険者、貴族になって貰いたい。システムとしては、君達はダミーコアの権限を獲得すると、限定的ではあるが、ダンジョンマスターと同等の能力を得られる。迷宮と連動した領土を自領として獲得、その土地の管理、そして現地民を冒険者に育て、迷宮を攻略してもらい、その利益の全てを領地経営に回す事が可能になる。はい、そこのガチムチ」
「利益の全てと言う事は、此方が冒険者に仕立てた現地民は、DMの恩恵を受けられないって事ですか?」
「その兼ね合いも君達に全て任せよう。人をいかに使うかも領地経営の醍醐味であるからね。恐怖で縛り付けるもよし、多大な報酬を支払うもよし、全ては君達の腕次第だ」
 ガチムチ君はありがとうございますと一言残すと座る。 何故あんなガチムチのアバターにしたのか気になって仕方が無いが、今は頑張って放置しよう。
「はい、そこのおかっぱちゃん」
「はい、此処に特産ダンジョンとありますがこれは?」
「それもまたいい質問だ。ダミーコアの権限を獲得すると同時に、その領地での特産ドロップをするダンジョンを1つ俺からプレゼントする。それは宝石であったり、宝石のように煌く肉であったり金属のインゴットであったりと様々だが、当たり外れもあるので過度の期待は禁物だ」
 やはり直接行って実地説明の方がいいかもしれないな。 この調子だと会議室レンタルの時間が過ぎてしまうかもしれない。
「この現地民の冒険者は、冒険者って言うより、奴隷的な感じがするのですが」
「それは先程言った通りだ。冒険者として丁重に扱うも、奴隷として使い潰すも君達次第だ」
 マニュアルは渡しているので、うまく活用してくれるとありがたい。 コアのヘルプ機能を使ってもいいが、全てを記してるので、学習してもらいたいものだ。
「はい、そこのホリカワ君」
「ちげーし! リザードマンだからってやめろ! この領地経営って具体的に何をするんだ?」
「迷宮経営物とか読んだ事あるか?あれのアナログ版だよ。お前達は、自領で稼ぎ出した利益で購入する亜人種の職人を養い、領地を発展させていく。現地の職人を雇ってもいいが、あまりお勧めはしない。ふっかけられまくる上に途中で国の介入で揉めたりもするからな」
「ふぅん、ポイントで建造物建てたりとかできねぇのかよ」
「お前らが扱うのはマネーだからな、一からちゃんと領地経営をするんだ」
 下手にストラテジーゲームみたいにポンポン建造物作れたら、それこそ混沌とするからな。 ゆっくりと発展するのが好ましい。
「これは侵略行為と同時ですよね?阿国の周辺国家や大国が乗り出して来る場合はどうするのですか?」
「余すことなく冒険者にしてあげなさい。領地はダミーコアの加護で守られるから折角作った街が壊される心配もない。空襲されても汚ぇ花火だと笑ってやればいいんだ。所謂結界ってやつだな。それに来客が銃ぶっぱなしても冒険者には意味がないのは知ってるだろ?」
 似たような質問を何度か繰り返し、大まか伝わったようなので締めにかかろう。
「では最後に、貴族では無く冒険者として活動したい者は手を挙げてくれ」
 ちらほらと手が上がるが、予想よりも少ない事に安心してしまうが、これはまだ気を使わせてるだろう。
「心配しないで欲しい。約束通り阿国には渡ってもらうが、拒否したからと言って冒険者じゃなくなるわけじゃない。ちゃんと冒険者として活動できる。更に言えば高額だが、5万DMを支払えば、転移ゲートで日本に戻って活動してもいい。それを踏まえた上でやるかどうか決めてくれ」
 僅かに人数は増えたが、やはり会議室の魔力が説得力を生み出したようである。 50名中38名の冒険者が貴族として、活動を開始する事となる。 上々のスタートを切る事ができたと言うべきだろう。 コアが中の人であるサポートアバターに連れられて、冒険者達を転移ゲートのある建物に案内するべく、ぞろぞろと会議室を後にして行く。 俺の隣ではいそいそとジャージに着替える大臣だけが残っている。
「大臣、お前も貴族やってみるか?」
「えっ?殺戮大臣・フォン・信長ですか?」
「いや、フォンがどうかは知らんけど」
 横でうーむと悩んでいる大臣。 冗談で言ったのだが、こんなにも悩む必要はあっただろうか。 とりあえずズボン履いて欲しい。
「動物達の保護が一番ですよね。だんます、そう思いません?おい、聞いてる?」
「確かにあいつらは可愛いな。ちょいちょいタメ口挟むな、指で突つくな」
 こいつは本当に馴れ馴れしい。 いきなりハリセンで殴ってきたりもするからな。 オニギリ食ってたらなんでやねん!とか言って。 こっちがなんでやねんだわ。
「うん、じゃあ俺ちゃん王様になります。だってみんな貴族なら王様いりません?俺それやりますよ」
「は?いや、お前何言ってんの?そんなシステム無いから」
「いや、俺ちゃんガチでだんますの眷属的な感じにしてくれません?絶対服従とかで大丈夫っすから。言わば王様はだんますだよね?でもこの前みたいに出掛けたりすんじゃん、だからリアル舎弟の俺がいたら安心でしょ?」
「完璧に敬う心置き去りにしてるのは気のせいか?」
 だが大臣の申し出は悪くないかも知れんな。こいつ自体容赦無い性格してるし、合理的に物事を考えてくれ…いやそれは無いな。
「あっ、またごちゃごちゃ考えてる系?単純明解で良くないっすか?だんます友達いないから、俺ちゃん友達になってやるってことだよ」
「いや友達いるから」
「それマジで友達っすかぁ?結局尊敬されてたり、ビビられたりしてません?」
「いや、それは、どうだろうか」
「それ詰まってたら友達じゃねぇー。俺ちゃんが信用できなくてビビってんならさっき言った通りに隷属でも服従でもなんでもいいけど、ここらでガッツリなんでも任せられる友達作っとけって。俺ちゃん絶対後悔させないぜ」
「はぁ……それについては保留だ。直ぐには返事は出来ん」
「まぁ、それでも俺ちゃんはだんますの力になるけどな」
 何故こうもグイグイ来るのだろうか。 過去にこんな経験が無いので対応に困ってしまう。
『彼は冒険者の志望理由に唯一無二の親友が欲しいと書いていました。これまでの人生において、彼は真に友人と呼べる人物はいなかったようですので、サバンナで共に過ごした時間が掛け替えのないモノになっているのかも知れません』
 なるほどね。 けど、王様か。 一つの案としては面白いかも知れないな。
『携帯フォルダのカテゴリ友達に、初めて登録されるかも知れませんね』
 コアちゃん、それは他所で絶対言わないでね? しかし友達か。 久しく忘れていた感覚だが、悪くないかもしれんな。
「よし友達候補、阿国に戻るぞ」
「候補ってなんだよ!」
 ハリセンでしばかれた。 俺ってば結構すごい奴のはずなのに。

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