だんます!!
第七十八話 逃げる鬼子達?
『もうやめよう。ねぇ、ジンジャー、そんなのジンジャーらしくないよ』
「ごめんリリー、ごめん……。あいつらは絶対に消さなきゃならない」
鎧の姿となってまでも最愛の者と共に生きる決断をしたリリー。 彼女に触れる事すら出来ず、その声が聞こえる度に胸が掻き毟られるジンジャー。
2つの愛の形は同じである筈なのに重なり合わない。 彼は怒り狂い、その怒りを敵の死を持って洗い流して行くが、生を奪い取るは彼女の体である黒い鎧と彼女の姿を思い出させる十本の鎖である。
その矛盾に怒りのまま、同じ過ちを繰り返す度に彼は壊れて行く。
「あぁあぁあぁあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛」
彼の涙は枯れ果て、嘆きの悲しみと共に流れるはずの涙の代わりに、その両手から伸びる鎖から赤い血が流れ続ける。
「何故……何故リリーが死ななければならないんだ……」
『ジンジャー大丈夫だよ。私はここに居る。ここに居るんだよ』
数多くの亡骸の山を築き上げ、黒い鎧を纏う悪魔の慟哭に八人の戦士達は、その手に握る得物をより一層強く握り閉めた。
その中で剃髪した大柄な男が大薙刀を振り回し前に進み出る。
「此処からはワシが食い止めよう。お前達は先に行け」
「嫌だよ剛鬼のおっさん!一緒に行けばなんとかなるって!!」
勇み足の男の槍を柄を引っ張る紺色のスウェット姿に金髪細眉のDQNのような見た目の若者を振り払い、スキンヘッドの男は首を振る。
「そんな事はわかっている!此処からは交代で奴の猛攻を捌き、体を休めて行かねばハクメイ殿の元に辿り着けん。あと僅かだと言うのに」
「それなら俺もオッさんと一緒にやるよ。一応これでもチョコデバイス山盛り食ってんだ。簡単にはやられねぇよ」
「蒼鬼、死ぬなよ」
「おっさんもな!よっしゃ!みんなは先に行っとけ!ここは剛鬼と蒼鬼が受け持つ!!」
スウェットの若者が髪をかきあげると、其処には角が伸び始め、肌を青く染めて行く。 その姿は青鬼そのものである。
「そう言う事なら四四で別れたらいいじゃない。私もあんたらの援護に回るわ」
タイトミニの赤いドレスに、アップに1つまとめにした長い金髪、濃紺の瞳に赤い紅を引いたコールガールのような妖艶な女は、赤いエナメルのピンヒールを脱ぎ捨て、唇を指でなぞる。
「艶鬼、其方と彼奴の相性は良くないように思うが?」
僧侶のような袈裟を着込んだ短髪の厳しい男も立ち止まる。 その目付きは目尻が吊りあがり獣のような凶暴な面構えである。 一昔前なら顔面凶器と馬鹿にされたであろう貌である。
「そう言って私を守ろうとしてくれる蜃鬼が好きよ」
「何を勘違いしているかは知らんが、そこ危ないぞ」
仲間達との時間など、知った事では無いと鎖が降り注ぐ。
艶鬼はそれを紙一重で躱すが、空を舞っていた黒い鎧は、遂に地に降り来る。
「これは流石にまずそうだな」
スキンヘッドの大柄な剛鬼は、首から面の皮を剥ぐように引くと、白面の筋骨隆々の鬼へと姿を変えて行く。
「剛鬼さん!やっぱり僕達も戦いますよ!」
「そうだよ!私達も戦いたい!」
前に出た4人よりも若い少年少女の4人が共に戦おうとするが、白面の鬼は大薙刀を地に叩きつけ陥没させて、その者達の歩みを止める。
「お前達はまだ若い。それに次はお前達に戦ってもらわねばならんからな。先に行って体を休めておけ」
「剛鬼さんっ!死なないで下さいね!!」
ニット帽を被った少年は泣きそうな顔で、その白面の鬼の背を見つめるが、白面の鬼は凶悪な笑みを浮かべる。
「ワシらだけで倒してしまうかもしれんぞう?」
少年は涙を堪えながら大きく頷くと、仲間達と頷きあい背を向けて走り出す。 白面の鬼はそれを見届け、黒鎧に向き直った。
「ふむ、デバイスが薄い。まだ力が足りぬが、抗わせてもらおう」
白面の鬼は大薙刀を振りかざし、その膂力あるがままに振り下ろすが、黒鎧に当たるや否や、大薙刀は飴細工のように砕け散る。
「お前らの安い友情劇見せる為にリリーを殺したのか?」
十本の鎖は白面の鬼を包み込み、なんら躊躇いなど無く、一瞬で挽肉に変える。
そこに残るは物言わず肉塊だけであり、その様子を見ていた蒼鬼はガクガクと震え始めてしまう。
「よくも!!よくも剛鬼のおっさんをっ?!」
全身を青く染めた鬼は、怒りに歩を進めようとするが、ずるりと上半身だけが地に落ちる。
白面の鬼を潰したと同時に、ついでと言わんばかりに切り裂かれていたのだ。
ジンジャーの鎖は刃にも鈍器にもなる。
いとも容易く、これまでの時間はただ弄ばれていたのだと理解するには時間を必要としなかった。
「リリー、ごめんよ。君の声が聞こえない方が簡単に殺せてしまう事に喜びを感じてしまった。もう自分はおかしくなってしまったのかもしれない」
『…………』
橙色と藍色の鎖は、元の色がわからない程に血で染まりドス黒くなっている。
その姿はまるで、地獄と鎖で繋がれている悪鬼のようである。
「ねぇ蜃鬼、私結構あんたの事好きだったよ」
「奇遇だな。某も艶鬼を慕っておるよ」
妖艶な雰囲気を醸し出す艶鬼と蜃鬼、双方が角を伸ばし、鬼化をしようとするが、黒い鎧の姿をした暴虐の嵐は待ってくれないし、待つ義理もない。
艶鬼、蜃鬼双方は、互いに迫る死を理解し、口付けを交わそうとするが、鎖で象られた拳が容赦無く叩きつけられる。
「続きは天国でどうぞ」
システマが集めた冒険者の中でも、多々羅、ヒルコ、カルラを除き、最も戦闘力が高い八人が選出され、ヒルコカルラ両名の親衛隊として幹部待遇で君臨している八部衆の4名は、ジンジャーが地に降り立ったと同時に肉塊の亡骸となった。
八名での連携あってこその絶妙に保たれていた均衡が一瞬で崩れ落ちてしまったのである。
「逃がさない。絶対に殺す」
ジンジャーは4名の少年少女が走り去った方向を見据えてゆっくりと歩み始めた。 視認できるかと錯覚する程の殺意を漲らせながらに。
その頃、一早く先に進んだ八部衆の少年少女達は、一度も勢いを止める事無く走り続けていた。
「はっ、はっ、はぁはぁ。一回…休もうよ…」
青と白のストライプ柄、コンビニ店員の格好をしたショートボブのゆるふわ系女子が肩で息をしながら、とうとう足を止めてしまう。
「樹鬼、足止まってる!もっと走れ!!」
それに喝を入れるのは、赤い毛糸のニット帽を被り、黒の襟付きジャケットにジーパンスニーカーとシンプルな格好の少年である。 眉間に皺を寄せながら、立ち止まった樹鬼の背を押すと、再び一同は動き出す。
「で、でもぉ、もうずっと走ってるよ。それにすごいペースだし。狗鬼もふらふらだよぉ?」
「おっさん達が足止めしてくれてるんだ!一刻も早くハクメイ様の所に行かなきゃ、それこそみんな死んじまうだろ!」
強引に腕を引かれ、致し方無しと再び走り出すが、樹鬼が言うように既に夜通し鬼化の力で全速力で走り続け、既に鬼の姿を保てない程に消耗してしまっている。
「喧嘩いくない」
キツいパーマをかけたように、グリングリンのトイプードルの毛並みのような癖毛、肩口に掛かる黒混じりのキャラメルを連想させる駱駝色のミディアムヘアに、鮮血を思わせる赤い瞳が特徴的な少年が2人の仲を取り持つように間に入る。
彼の特筆すべき点としては、見た目は整ってはいるが、パーカーの背中に顔面騎乗上等とプリントされている事に尽きるだろう。 何処で買うのだろうか。
「綾鬼も放っておけばいいのに」
「紗鬼が歌えば喧嘩なくなるンゴ」
「けんかぁはぁやめぇてぇえ!って人の音痴を笑うな!!」
色白でゴスロリ的な黒いフリルのついたワンピース、黒ベースに前髪だけが白い風変わりなツインテールの赤眼少女が大きく音程の外れた歌を唄えば、満身創痍であった4人の少年少女に僅かだが笑みが浮かぶ。
ただただ4人は互いを励まし合い、その足が止まりかければ背を押して、走り続けた。
そして、遂に丘の上から、光が溢れ出す命の森を見渡せる位置にまで辿り着く。
彼らは、それまでの疲れを忘れて、その視界に捕らえた命の森を目指し一目散に走った。
「ねぇ、狗鬼、やっぱり剛鬼さん達…」
「今は考えんな、今はあの森に辿り着く事だけかんがえよう」
「ごめんリリー、ごめん……。あいつらは絶対に消さなきゃならない」
鎧の姿となってまでも最愛の者と共に生きる決断をしたリリー。 彼女に触れる事すら出来ず、その声が聞こえる度に胸が掻き毟られるジンジャー。
2つの愛の形は同じである筈なのに重なり合わない。 彼は怒り狂い、その怒りを敵の死を持って洗い流して行くが、生を奪い取るは彼女の体である黒い鎧と彼女の姿を思い出させる十本の鎖である。
その矛盾に怒りのまま、同じ過ちを繰り返す度に彼は壊れて行く。
「あぁあぁあぁあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛」
彼の涙は枯れ果て、嘆きの悲しみと共に流れるはずの涙の代わりに、その両手から伸びる鎖から赤い血が流れ続ける。
「何故……何故リリーが死ななければならないんだ……」
『ジンジャー大丈夫だよ。私はここに居る。ここに居るんだよ』
数多くの亡骸の山を築き上げ、黒い鎧を纏う悪魔の慟哭に八人の戦士達は、その手に握る得物をより一層強く握り閉めた。
その中で剃髪した大柄な男が大薙刀を振り回し前に進み出る。
「此処からはワシが食い止めよう。お前達は先に行け」
「嫌だよ剛鬼のおっさん!一緒に行けばなんとかなるって!!」
勇み足の男の槍を柄を引っ張る紺色のスウェット姿に金髪細眉のDQNのような見た目の若者を振り払い、スキンヘッドの男は首を振る。
「そんな事はわかっている!此処からは交代で奴の猛攻を捌き、体を休めて行かねばハクメイ殿の元に辿り着けん。あと僅かだと言うのに」
「それなら俺もオッさんと一緒にやるよ。一応これでもチョコデバイス山盛り食ってんだ。簡単にはやられねぇよ」
「蒼鬼、死ぬなよ」
「おっさんもな!よっしゃ!みんなは先に行っとけ!ここは剛鬼と蒼鬼が受け持つ!!」
スウェットの若者が髪をかきあげると、其処には角が伸び始め、肌を青く染めて行く。 その姿は青鬼そのものである。
「そう言う事なら四四で別れたらいいじゃない。私もあんたらの援護に回るわ」
タイトミニの赤いドレスに、アップに1つまとめにした長い金髪、濃紺の瞳に赤い紅を引いたコールガールのような妖艶な女は、赤いエナメルのピンヒールを脱ぎ捨て、唇を指でなぞる。
「艶鬼、其方と彼奴の相性は良くないように思うが?」
僧侶のような袈裟を着込んだ短髪の厳しい男も立ち止まる。 その目付きは目尻が吊りあがり獣のような凶暴な面構えである。 一昔前なら顔面凶器と馬鹿にされたであろう貌である。
「そう言って私を守ろうとしてくれる蜃鬼が好きよ」
「何を勘違いしているかは知らんが、そこ危ないぞ」
仲間達との時間など、知った事では無いと鎖が降り注ぐ。
艶鬼はそれを紙一重で躱すが、空を舞っていた黒い鎧は、遂に地に降り来る。
「これは流石にまずそうだな」
スキンヘッドの大柄な剛鬼は、首から面の皮を剥ぐように引くと、白面の筋骨隆々の鬼へと姿を変えて行く。
「剛鬼さん!やっぱり僕達も戦いますよ!」
「そうだよ!私達も戦いたい!」
前に出た4人よりも若い少年少女の4人が共に戦おうとするが、白面の鬼は大薙刀を地に叩きつけ陥没させて、その者達の歩みを止める。
「お前達はまだ若い。それに次はお前達に戦ってもらわねばならんからな。先に行って体を休めておけ」
「剛鬼さんっ!死なないで下さいね!!」
ニット帽を被った少年は泣きそうな顔で、その白面の鬼の背を見つめるが、白面の鬼は凶悪な笑みを浮かべる。
「ワシらだけで倒してしまうかもしれんぞう?」
少年は涙を堪えながら大きく頷くと、仲間達と頷きあい背を向けて走り出す。 白面の鬼はそれを見届け、黒鎧に向き直った。
「ふむ、デバイスが薄い。まだ力が足りぬが、抗わせてもらおう」
白面の鬼は大薙刀を振りかざし、その膂力あるがままに振り下ろすが、黒鎧に当たるや否や、大薙刀は飴細工のように砕け散る。
「お前らの安い友情劇見せる為にリリーを殺したのか?」
十本の鎖は白面の鬼を包み込み、なんら躊躇いなど無く、一瞬で挽肉に変える。
そこに残るは物言わず肉塊だけであり、その様子を見ていた蒼鬼はガクガクと震え始めてしまう。
「よくも!!よくも剛鬼のおっさんをっ?!」
全身を青く染めた鬼は、怒りに歩を進めようとするが、ずるりと上半身だけが地に落ちる。
白面の鬼を潰したと同時に、ついでと言わんばかりに切り裂かれていたのだ。
ジンジャーの鎖は刃にも鈍器にもなる。
いとも容易く、これまでの時間はただ弄ばれていたのだと理解するには時間を必要としなかった。
「リリー、ごめんよ。君の声が聞こえない方が簡単に殺せてしまう事に喜びを感じてしまった。もう自分はおかしくなってしまったのかもしれない」
『…………』
橙色と藍色の鎖は、元の色がわからない程に血で染まりドス黒くなっている。
その姿はまるで、地獄と鎖で繋がれている悪鬼のようである。
「ねぇ蜃鬼、私結構あんたの事好きだったよ」
「奇遇だな。某も艶鬼を慕っておるよ」
妖艶な雰囲気を醸し出す艶鬼と蜃鬼、双方が角を伸ばし、鬼化をしようとするが、黒い鎧の姿をした暴虐の嵐は待ってくれないし、待つ義理もない。
艶鬼、蜃鬼双方は、互いに迫る死を理解し、口付けを交わそうとするが、鎖で象られた拳が容赦無く叩きつけられる。
「続きは天国でどうぞ」
システマが集めた冒険者の中でも、多々羅、ヒルコ、カルラを除き、最も戦闘力が高い八人が選出され、ヒルコカルラ両名の親衛隊として幹部待遇で君臨している八部衆の4名は、ジンジャーが地に降り立ったと同時に肉塊の亡骸となった。
八名での連携あってこその絶妙に保たれていた均衡が一瞬で崩れ落ちてしまったのである。
「逃がさない。絶対に殺す」
ジンジャーは4名の少年少女が走り去った方向を見据えてゆっくりと歩み始めた。 視認できるかと錯覚する程の殺意を漲らせながらに。
その頃、一早く先に進んだ八部衆の少年少女達は、一度も勢いを止める事無く走り続けていた。
「はっ、はっ、はぁはぁ。一回…休もうよ…」
青と白のストライプ柄、コンビニ店員の格好をしたショートボブのゆるふわ系女子が肩で息をしながら、とうとう足を止めてしまう。
「樹鬼、足止まってる!もっと走れ!!」
それに喝を入れるのは、赤い毛糸のニット帽を被り、黒の襟付きジャケットにジーパンスニーカーとシンプルな格好の少年である。 眉間に皺を寄せながら、立ち止まった樹鬼の背を押すと、再び一同は動き出す。
「で、でもぉ、もうずっと走ってるよ。それにすごいペースだし。狗鬼もふらふらだよぉ?」
「おっさん達が足止めしてくれてるんだ!一刻も早くハクメイ様の所に行かなきゃ、それこそみんな死んじまうだろ!」
強引に腕を引かれ、致し方無しと再び走り出すが、樹鬼が言うように既に夜通し鬼化の力で全速力で走り続け、既に鬼の姿を保てない程に消耗してしまっている。
「喧嘩いくない」
キツいパーマをかけたように、グリングリンのトイプードルの毛並みのような癖毛、肩口に掛かる黒混じりのキャラメルを連想させる駱駝色のミディアムヘアに、鮮血を思わせる赤い瞳が特徴的な少年が2人の仲を取り持つように間に入る。
彼の特筆すべき点としては、見た目は整ってはいるが、パーカーの背中に顔面騎乗上等とプリントされている事に尽きるだろう。 何処で買うのだろうか。
「綾鬼も放っておけばいいのに」
「紗鬼が歌えば喧嘩なくなるンゴ」
「けんかぁはぁやめぇてぇえ!って人の音痴を笑うな!!」
色白でゴスロリ的な黒いフリルのついたワンピース、黒ベースに前髪だけが白い風変わりなツインテールの赤眼少女が大きく音程の外れた歌を唄えば、満身創痍であった4人の少年少女に僅かだが笑みが浮かぶ。
ただただ4人は互いを励まし合い、その足が止まりかければ背を押して、走り続けた。
そして、遂に丘の上から、光が溢れ出す命の森を見渡せる位置にまで辿り着く。
彼らは、それまでの疲れを忘れて、その視界に捕らえた命の森を目指し一目散に走った。
「ねぇ、狗鬼、やっぱり剛鬼さん達…」
「今は考えんな、今はあの森に辿り着く事だけかんがえよう」
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