だんます!!

慈桜

第六十八話 あふたーの愚痴?

  あぁーあぁぁ、あーぁぁぁあー。 なんで太郎ちゃん家で寛いでるのって? そんなの決まってるじゃないか、ナージャとマースカとクルイロの魔族の3人は既に多々羅の庇護下に入っていて、数多くの元冒険者から泣きながら罵声を浴びせられて何も出来ずに帰って来ましたよ全く。 しかも多々羅のクソ野郎、あいつ目も合わせないとかどんだけ。 罵声ってか罵詈雑言だわ。 不特定多数にきんもきんもしねしね言われまくって気絶しそうになったから省略。 以後無かった事とする!
『彼らの新しい世界式、面白いですね。マスターに攻撃を仕掛けて来たスコルピオを投げつけた瞬間に、此方に痛みが来るとは思いませんでした』
 殺さなくてよかったよな、あんな場所で倒れてたかもしれん。 けどごめんな、コア。 もう4個目の世界なのに嫌な思いさせて。 システマの世界式なら全員心置きなく殺せたのにな。 いや、新しい世界式もシステマが考えたんだろうけど。
「で、さっきからポンポンしてるそれなんだ?」
「え?システマのデバイス。異世界に転生させて赤ちゃんシステマ拉致って来て多々羅達嵌めてやろうかなって考え中」
「言っても無駄かもしれんが、命はもっと尊いものだろうに」
「うーん。だよなぁ」
「うん?ちょっとお前らしくないな、なんかあったのか?」
 ジジイめ。 肯定したら肯定したで逆を行きやがって。
 とりあえずシステマのデバイスは切り札として大事に保管しておこう。
「ギュイーン!ドカーン!ズガァン」
「こらミュース!!家のもの壊すな」
 ミュースは俺の庇護下に置いたからキッチリ矯正済みでなんら心配ないんだが、ナージャ達をどうにかできないかが悩みの種だ。
 コアがバグってなかったら単純に事は進んだのに。
『マスター?私はバグを起こしてなんかいませんよ?』
 ミスリル人間ミスリリアムは鉱脈系に属されるタイプの魔族で、ミスリルの魔導生命体の生みの親にして、結構優秀な魔王の類に成長する魔族だ。
 露国の研究所で魔石の投与とミスリルの採集に精を出していたのは、コアが時たま動物かわいそうと愚痴を溢していたので知っていたが、ある日突然ミスリルの産出量に異変が起きた。
 同時にミスリリアムの顕現だと驚いた。 そしてレアルが殺された。 何もかも上手くいかないものである。
 彼女は絶対に依存者を必要とする不死の生命体であり、彼女を祖とする魔物達の王となるが、その中でも自身のミスリルの適合率の高い者は、彼女の眷属として産まれ変わる。
 その眷属が厄介だ。
 魔族は眷属として産まれた者達を害した者には一切懐かなくなる。 そんでもって今回に至っては不死属性、ややこしいにも程がる。 だからこそ、俺はミュースを必死で庇ったのだ。 あわよくば露国の研究者達が眷属を殺めたりしてくれないかと放置したりもしたが、冒険者が交戦し始めた頃から俺のコアへの土下座交渉が開始された。 希少価値があり、冒険者を害する事が出来るミスリルを無限に生み出すミスリリアムを容易に手放すわけにはいかない。
 それは忽ち脅威と魔王を敵に回す事になるからだ。 皆が皆魔王と聞けば最終的に殺される噛ませ犬的なイメージを抱くかも知れないが、実際そんな弱い奴なんていない。始祖は死なずに何度も何度も軍を率いて何百年かかろうと復讐しようとするからな。流石に魔族の王を冠するだけあって、強烈な奴ばかりだ。
 最悪のケースで敵対してしまった。そうなったらそうなったで心置きなく滅ぼせば良いのだが、周期的な大震災の種を抱え込むのも馬鹿らしいし、何よりもダンジョンマスターとして、その星で産まれた魔族の種全てを降すのは、何にも変えられない娯楽の一つである。 失敗して滅ぼしただけで、トロフィーも壁紙も両方失ったようなやるせなさに襲われるのは耐えられない。
 だからこそ魔族は俺のプライドそのもの、だからこそ俺の管轄なのだ。
 しかし困った。 今現在ナージャは多々羅の庇護下にある。 世界式の庇護下にあると言う事は、ナージャは魔素をミスリルに変換する術を持っている事になる。
 やっぱりやっつけたらダメかな?
『あの者達は冒険者の選考をクリアしています。敵性となったのはマスターの落ち度です』
 こうなったら発狂モードのジンジャーが如何に追い込んでくれるか願うしかないけど、間違っても魔族が殺されないように監視しておいてくれよ?
『それは重々承知しております』
 しかし露国すげぇよな。グランアースなんかの初期の頃のミスリリアムは生贄に差し出された人間に直飲みさせてたから死者も半端無かったが、魔石と交互に投与するとは中々考えたものだ。 魔石で進化するのは魔物であって魔族にはならないが、こんな裏技でミスリリアムが生み出せるとかヤヴァイ。 流石地球だわ。 ファンタジーへの妄想力鬼だわ。
 でもさ、コア。多々羅達めっちゃ俺の事恨んでたじゃん?また冒険者が犠牲になるかもしれなくない?やっぱりやっつけたらダメ?
『ここでマスターが多々羅を殺せば、リリーは本当の無駄死にになります。リリーは本当に可愛くて本当に良い子でした。いつも寂しくなると私に話しかけてくれました。私の可愛いリリーの死を無駄にしないでください。せめて多々羅だけでもジンジャーに任せるべきです』
 はい、すいませんでした。 反省してるから怒らないでコアちゃん。
「そういやダンマスが日本中に放ったモンスターいるだろ?かわいいやつ」
 話題を変えてくれたのは太郎ちゃんだ。 この時ばかりはナイスジジイ。
「あぁ。そんな太郎ちゃん家の庭にいっぱいいるよな。仕事しろよ」
「どうやら全種類日本の固有種として登録するらしいぞ?日本の生態系を乱さないから固有種登録してから、生態調査、最終的に絶滅危惧種にして輸出制限かけて海外からの客人に関しては密猟扱いにするんだとよ。とりあえず固有種登録が先だとかなんとか」
「ふーん、それでいいんじゃないか?俺は日本のちびっ子達が本気で外遊びするように始めたのがきっかけだしな。チカラ達はもう知らんけど。って太郎多いなこれ」
 コアがバランス良く自然発生するシステムを組み込んでくれてるから、絶滅危惧種とか鼻で笑いそうになる。
 軍事利用の関係で1発かました感じだろうな。 諸外国にモンスター輸出で一財産築くのも平和なジャパンの手段だったろうに、最近世界各地がきな臭いから軍備に気合いいれまくってるもんな。
 てか冒険者にも政治家にもプライザーにもタロウタロウタロウってウルトラ○ンかよ。 今のご時世で太郎は珍しいだろうに、なんで身近に3人もいるんだよ。
「けど、あいつら草食いまくるだろうに。虫とかの生態系崩れそうだけどな」
「あれ?なんだ知らんのか。あいつら雑草を好き好んで食うし、根っこは食わんから芝刈り代わりに重宝されたりしてんだぞ?」
「そうなるようにしたの俺だからね?」
 どうやら大丈夫のようで一安心だ。 あぁ、ジンジャー早く多々羅しばきまわしてくんないかな。 早送りするのもなんか違うしな。 もどかしいけど、とりあえず吉報を待とう。
「ミュースちょっとこい」
「うん?なになにー?」
「これ食え」
「おぉ!銀色のチョコレート!ありがとうダンマス!!」
 ただのデバイスだけどね。 魔族はデバイスを摂取すると、僅かながらに位階が上昇する。 だからデバイスの見た目をチョコレート型に弄り、オヤツの時間にミュースに食わせている。 着実に強くして、ナージャ達が僅かにもこっちに来たがるようにする工作だ。 こんな事しかできないダサい俺…泣きたくなるよ。 まぁ、一番の理由は死なないようにするだけなんだけどな。
「なぁ、ダンマス。お前んとこのデカイ猫、うちの子達を押し退けて一部占領してるんだが」
「ジャリすげぇかわいいだろ?ふっこふこやぞ」
「俺のソファを占領してるお前への揶揄だったんだがな」
「細かい事は気にするな、老けるぞジジイ」
「いきなり真面目にDISったなおい」
 とりあえず寝たふりしよう。 最悪のケースを考えて先手を打たなきゃならない。 システマが居なくなった今なら次の世界式が出てくる可能性は低い。 ここで多々羅達を叩き潰しておけば、後はゆるりと進めていくだけになる。
 筈だ、多分。
「なぁなぁダンマス。おいら冒険者達に謝りに行った方がいいかな?」
 黒髪天パのくりくり頭で、黒い肌がより一層引き立てる蒼い目で俺を見上げながらミュースがなんか言ってる。 やっぱり魔族と言えど、見た目通りに子供なんだな。
「ミュースがそうしたいと思ったならするといい。謝罪は自分の気持ちでするものだ。謝りたい仲良くしたいって思ったなら謝ればいいし、悪くないと思ったなら謝らなくていい。現にミュースの金玉の一つを潰したタロウは今でもその話題で爆笑してるからな?」
「あいつにはもう会いたくない」
 金的ぐらいで済ましておいても良かっただろうに。 ガタガタ震えだしてしまったじゃないか。
「あ、そうだそうだ。忘れねぇうちに言っておくわ。あの名古屋の冒険者の殺戮大臣?あいつなんとかしてくれねぇか?」
「俺は冒険者には不干渉だ。またなんかあったのか?」
 ミュースがガクブルで固まってしまっている横で、太郎ちゃんがウェッジウッ○のティーカップを差し出してくる。
 立ち込める湯気から広がる鼻腔をつくコーヒーの香り。
 うん、うまそうだ。
「よっしゃソファゲット!」
「子供か!」
 相当俺が寝転がっていたソファに座りたかったのだろう。 俺は別に対面の硬めのソファでもいいんだけどな。
「本題だが、その殺戮大臣とやら、どうやらトロフィーハンターハントをしようとしているらしいんだ」
「トロフィーハンターハント?まず何かすらわかんない」
「トロフィーハンティングってのは、今米国で流行ってる狩りの一種でな。アフリカの経済を支える一大産業なんだ。高額の狩猟免許と動物の殺害許可で年間1000億以上の経済効果を生んでる」
 意味わからんのでとりあえずコーヒー飲む。 うん、うまい。 けどコーヒー牛乳の方が好き。
「狩りなんだから食用だろ?人口過多で食糧不足なんだ、自ら狩猟をする事は悪い事だと思わないが?」
「意外とまともで助かるよ。実はトロフィーハンティングの対象は食用じゃない。ライオンやキリンやらカバやらと希少な動物を一頭何百万で殺す許可を出して、ハンターは動物を撃ち殺しての記念撮影と、トロフィーとして頭部や毛皮を持ち去る。って仕組みなんだ。これには世界中がやめさせるべきだと騒いでいる、米国のネガティヴは隠しておくべきなんだが今はSNSで地球が狭くなっただろ?」
 太郎ちゃんがパチンと指を鳴らして手を翳すと、ホログラフィーでライオンやキリンの死体と笑顔で写真を撮っている者達が映し出される。 なんかめっちゃむかつく。 不思議だよな、横のおっさんぶち殺したいって思うんだから。
「ライオン最強にする?グリフォンとかマンティコアもいいけど、ウィンガルムって言う二対四枚の翼が生えたライオンの魔物とかやばいよ?それか魔法系統でガチガチにして白銀の獅子ジィルレオとかもクソ強い」
「やめて?!もうライオンとか2〜3万頭しかいないからね!?」
「わかってるよ。そんな事しない、けど殺戮大臣とやらは好きにさせとくよ。むしろ手伝いたいぐらいだし」
 太郎ちゃんは両手で頭を抱えてあぁーと嘆いている、このおっさんに関しては何処までが本心で何処までが腹芸かわからないので話半分で聞くぐらいが上手に付き合う方法だ。
「最近日本はやっとこさ冒険者との共同路線で話が固まって来てるんだ、これでもし米国民に手を出したりでもしたらテロ扱いされて良くない結果になる」
「それは日本の都合だろう?結果はどうあれ殺…彼は彼の求む自由の元に、己の正義を貫こうとしているんだろう。冒険者ネームが殺戮大臣ってのがマイナスだけどな」
「だから彼に言い換えたんだろ?」
「皆まで言うな」
 しかしそうなると上手は種の保全か。 迷宮で広大な自然を創り出して保護してもいいし、太平洋の日本から近場に方舟を作ってもいいな。 手押しポンプで湯水の如く石油ラッシュとかしたらみんな発狂しそうだな。
 何はともあれ。 コア、アフリカに飛ばしてくれ。
『よろしいのですか?お忙しいのでは?』
 なんか無性にライオンもふりたい。
『かしこまりました。それでは転移致します』
「んじゃ太郎ちゃん。ジャリとミュース預かっといてね」
「えっ!おい待て!!おう、消えちまったよ」

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