だんます!!

慈桜

第五十二話 貪欲に勝ちに行くスタイル?

 「ちくしょうあの鳩共どこいきやがった」
「まーつおかくんっ。なんでそんなに怒ってるの?」
「あぁ、花火たん。ごめんよ、怒ってないよ、本当に」
 松岡君は貧乏揺すりをしながらタバコの煙を吹かす。 ワンコと名付けられたワンコが煙たさにワンワンと吠えるが、眉間をグリグリと撫でくり回されると、コテンとお腹を向けて甘え始めてしまう。
 松岡君を止められる者はいないのだ。
「そんなにマーズたんがいいの?」
「そんなことないよ。花火たんが一番だよ?ただ少し説教をしようと思ってな」
 普段物言いがキツイ松岡君だが、やはり家宝とも言える花火たんのミスリルホムンクルスには激甘である。 魔力が無ければ動かないガラクタであるのに、愛を持って連れ添っているのだから当然と言えば当然かも知れないが、魔力を注ぐ場面は中々に滑稽である。
「うぇーい、おあよ。どしたの?こんな朝から」
「昨日鳩共が来なかった」
「来てんじゃん。全軍待機してんじゃん」
 龍王は公園に群がる魔物達を横目に確認する。
「12時まで待ち伏せしてたんだがな、その後に来たんだろう」
「うひょー、超不良じゃん。1発家裁コースじゃん」
 龍王は器用に毛繕いをしながら、寝癖を嘴で直していく。 トサカのアホ毛を一番に直せとも思うが、直しようがないのだろうなと納得する。
「はぁ。バカ鳥、しゃがめ」
「む!?松岡君が優しい?羽はあげないぞ?」
「いるかバカ。俺の品格が問われるだろう。最低限の身嗜みはしとけ」
 これもいつものやり取りである。 ブラシで梳かし、フサフサのトサカに銀の手シルバーハンドの紋章を括り付けると、いつもの龍王アルガイオスの完成である。
「バカ鳥、鳩共の魔物だが、一部おかしくないか?」
「え?えぇぇ!?うひょー、見事にごんたくれファイブの魔物だけ冒険者クラスじゃん」
「あいつら迷宮に潜ったんじゃないか?」
「まさか、いくらなんでも…いや、ありえるかもしんない。昨日ジンジャーが魔物とられたって泣いてたらしい」
「じゃあ一線級の魔物を手にしたらって考えられるよな?これはゲンコツだけじゃ済ませられんぞ」
 松岡君が行儀悪くタバコを指で弾くと、龍王はシュタッと嘴でキャッチして灰皿へと走る。
 これもいつものやり取りである。
「でも松岡君、マーズたんのパンツ渡すって言われたらどうすんの?」
「愚問だな。許すに決まっているだろう?」
 これでもかとドヤ顔で返事をすると、龍王もニヤリと笑うが、突如として頬に平手が打ち抜かれる。
「松岡君さいってい!!」
「あぁ!花火たん!違うんだ!冗談なのさ!!」
「どんな設定だよ。きめぇ」
「設定とか言うな!!きもいとか言うな!!」
 暫くポコスカと殴り合いの喧嘩が始まるが、これもいつものやり取りである。
 やんちゃくれ5人組の待ち伏せと称して、松岡君とワンコのスケボー訓練を欠伸をしながら見守る龍王。
 いつもは迷宮に潜る時間なのに、一向に行く素振りを見せないので「どんだけパンツ欲しいんだよ」と呟きウトウトと船を漕ぎ始める。
 すると微かにチャイムが鳴り響き、チラホラと子供達が集まってきている事に気が付いた。
 そこでアルガイオスはだらりと大粒の冷や汗を流した。
 いつもならば、この小一時間でラブブレイブのカード入りチョコウエハースを買い占めに奔走している時間であるのに、陽光に照らされて爆睡してしまっていた事に気が付いたのだ。
 すっかりドエスの松岡君のせいで、パシリ根性が身に付いてしまっている事は幸いな事に当人は気付いてはいない。
 しかし、それに気が付けてない故に、彼は大事な商談で商材を忘れたかのような言葉に出来ない焦りを胸に抱えていたのだ。
「さて」
「びくぅっ」
「どうしたバカ鳥、効果音を口で言うなんて」
「わりぃ、松岡君。チョコ買い忘れた」
「ふふふ、そんな事もあろうかと!!」
 流石の松岡君である。 ルーティンを乱すまいと、彼は常にストックを持ち歩いているのだ。
「うぇーい!松岡君!やっぱあんたすげぇよ!!」
「いつも迷惑かけているからな!これぐらいは当然だ」
「うぅ…まっちゃんいい奴。おいらまっちゃんのおかげでランキング2番手突っ走れてるのに」
「持ちつ持たれつって奴だからな!」
 松岡君と龍王アルガイオスは肩を組んでぴょんぴょんと飛び跳ねる。 結局仲の良い2人である。
 いつものように鳩の餌やりタイムが訪れる。 たが、何時の間にか悪ガキ5人組の魔物達が消えている事に気が付く。
「あいつら逃げてやがるな」
「ぶふふっ!逃げられてやんの、案外昨日も寝ちゃってたんじゃないのん?」
「だまれクソ鳥なぐんぞ」
「待って、クソ鳥はひどい」
 即座にメニューを開き、掲示板をくまなく探すが、目撃情報は何処にも上がっていない。
 ならば此方から出向いてお説教の時間だと立ち上がった所で、近頃めっきり鳴らなくなったスマートフォンがけたたましく着信音を鳴らした。
 そこには無料通話アプリを介してのマーズたんからの着信が表示されており、横から画面を覗いた花火たんがジィーッと目を細めている。
「御免!!」
 松岡君は花火たんから魔力を抜き取り、物言わぬ人形へと姿を変えると、応答ボタンをタッチする。 それでいいのか松岡君。
「コホン、もしもし?」
『あー!松岡先輩ですか!マーズですわかりますっ??』
「ん?あぁ、勿論だ。どうしたんだ?」
『あっ、良かったらなんですけど、新しく出来た冒険者酒場にセーラーのみんなで行こうって言ってるんですけど、良かったら松岡先輩もどうかなって!イキナリすぎますよね…』
「肉がうまいらしいな。いいじゃないか、行こうじゃないか!」
 電話を切った後、松岡君はベンチの上に立ち上がり両手を掲げた。
「我、今ここに春の訪れを宣ずる」
「うひょー!なんかきめぇ」
 唯一のストッパーである松岡君が、思わぬトラップに仕掛けられ、戦線を離脱。 悪ガキ5人組を止める者は居なくなってしまうのだった。
 その背景では、悍ましい駆け引きが繰り広げられていたとも知らずに。
「よゆーよゆー。松岡釣れたわ」
「じゃあ迷宮潜ろうぜ!」
「はい姉ちゃん達のパンツ返すわ」
「また頼むから電話出てよ?じゃなかったら次はえっちぃ写真ばらまいちゃうから!」
「うわっ、マル悪い!!」
 ぺったんこのランドセルを背負った子供達の前には、セーラー服の戦士的な美少女達がうんうんと頷いている。
 こうして、子供達は着実に魔物の強化を進めて行くのだ。 ただ貪欲に勝利への渇望を満たすが為に。
 魔物を嗾けられて下着を剥ぎ取られていたセーラー戦士達は、立ち去った小学生の背を見ながらにホッと息を吐いていた。
「マーズ?なんで少し嬉しそうなの?」
「なんかすっごいドエスだなって思って…ちょっと濡れちゃった」
「あんたマジで変態だね。わからなくもないけど」
「わからなくもないのかよ」
 冒険者の闇は、予想以上に深いのかも知れない。
 一部では、この小学生達を百鬼夜行ならず百獣昼行と名付け、某有名掲示板などでは注意喚起がなされていた。 それは既に、一個人が持つ武力の域を優に超えている為である。
 少年達は、冒険者への攻撃しか行わない為に、人の生き死にの心配は無いが、結構のダメージを喰らうだけでなく、現状では強靭に育てあげた迷宮探索のパートナーですら奪われる可能性があるので戦闘を避けるようにとまで勧告される程である。
 だが、そんな事を言われては盛り上がってしまうのが、上位冒険者達である。
 いくら強いと言えど、いくら危険と言えど、冒険者様が負けるはずがないだろうと1人の男が立ち上がった。
「トップクラスの冒険者が育てた魔物がどれだけ強いかって見せつけてやるぞガキ共」
 名乗りを上げたのは凶悪な面構えのリザードマン。
 罪喰いシンイーターホリカワであった。



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