アルミと藤四郎の失敗無双

しらいさん

失敗転じて禍と成す

 初めての戦いを制して以来、日中外に出かけるのがすっかり藤四郎とアルミの日課になっていた。 町中を散歩と称して見回り、もしもクリーチャーと遭遇すれば戦い、見つからなければそれはそれで町が平和なのだからいいだろう。
 アルミの錬金術の成功率はまだまちまちだ。 成功したと思えば失敗が続き、かと思えば実際の戦闘であっさりと成功する。 肝が据わっているのか自分と違って幸運に恵まれているのか、結果的に出会ったクリーチャーは全て退治して、今は元の姿で藤四郎の部屋に帰ってきている。 意外と本番に強いタイプなのかもしれない。
 いざ戦闘になると藤四郎のやる事はないに等しい。 全く戦力にならないので家で留守番していても問題ないと言われているのだが、保護者という名目で付き添っていた。
 クリーチャーと戦う事への恐怖はないと言えば嘘になる。 しかし幼いアルミだけ危ない目に合わせるという訳にはいかないだろう。 だから藤四郎がアルミと一緒に出掛けているのは単に大人としてのプライドと責任の問題だった。
 そうして藤四郎がアルミと一緒にヒーローを続けて一週間が経過しようとしていた。
「ぷはー今日もいい天気」「なのですっ」
 午前中の見回りを終えた二人は公園のベンチで一休みを入れていた。 膝の上には花凛特製の弁当だ。
『はあ? あの幼女と毎日デートがしたいから二人分の弁当を用意しろですって? …………賞味期限切れのヨーグルトで腹を下せばいいのに』
 ぐちぐちと文句を言われながらもなんとか理解を頂いたおかげで、こうして二人揃って外で昼食ができている。 そのおかげかアルミは毎日ピクニック気分で花凛と反比例して機嫌がいい。
「今日のお弁当は何なのです?」「なんだろうねー楽しみだねー」
 ぱかっと蓋を開けると、アルミの方は子供好きのするキャラ弁だった。 悲壮感漂う表情のモンスター達がまるで嫌がっているかのような雰囲気を出していて胸が痛む。
「トーシローのはなんですか?」「うーん何かなー?」
 藤四郎も続けて蓋を取ると、一段目は火の丸弁当だ。 日本人らしい白米と梅干、ではない。 容器にヨーグルトがミッチリ詰まっていて中央にさくらんぼが添えられていた。
「わあっ! 美味しそうなのですー ^-^」「本当に期限切れじゃないよな……」
 顔に危機感を募らせる藤四郎。食べる前からお腹が痛くなりそうだ。 しかしヨーグルトはメインディッシュではなくデザートだろう。 期待せずにもう一段を開けると、またもや火の丸弁当。
「お豆腐に、プチトマトなのですっ」「うん。ヘルシー……」
 花凛の藤四郎に対する栄養管理の危機意識がよく分かる構成だった。 毎日の散歩とこれを続ければかなり健康的になりそうだなあ、と嬉しいような悲しいような複雑な心境の藤四郎だった。 そして、
「「ごちそうさま」なのですっ」
 二人揃って食べ終えたその時だった。
「げげっ……お前はご主人と、さては噂の錬金術師ぶひ!?」
 突如として後ろから聞こえだす異様な口調。
「クリーチャーか!?」
 反射的に二人はベンチから距離を取って身構えた。 垣根の茂みから姿を現したのは、黒い豚のようなクリーチャー。 その頭部には見覚えのある黒いコントローラーが、左右の持ち手を耳のようにして体から浮き出ていた。
「アルミちゃん!」「せ、戦闘準備なのですっ!」
 藤四郎の一声で慌てて駆け出してれんじくんと合流するアルミ。 しかしその隙が致命的だった。
「甘いぶひっ! 」
 クリーチャーは背中を見せたアルミ目掛けて、尻尾のケーブルを狙い撃つ。
「なっ……!」
 速い。 鈍足だと侮っていた二人は反応できず、伸縮自在のケーブルはあっけなくアルミの体に突き刺さった。
「ぶひいいいいいいいいいッッ!!」「あ、あれ……?」
 狂気の叫びをあげる敵に対し、予想外にもアルミは平然としていた。 出血も痛みもないらしく、むしろ拍子抜けして不思議そうにケーブルを突いているくらいだ。
「だ、大丈夫なの? アルミちゃん……?」「はいっ、全然痛くないのです。まだまだアルミは戦えるのですっ」「よ……よし! 今度はこっちの番だ!」「はいなのですっ」
 気を取り直してケーブルと格闘しながらクリーチャーに向き直るアルミ。 だがクリーチャーは攻撃が通用しなかったにもかかわらず、何故か余裕の表情。 胡乱げに警戒しているとその横でアルミが、すとん、と。
「あ、あれ……?」「え……?」「だから甘いぶひよ……」
 振り返るとアルミは無防備にも座り込んでいた。
「あ、アルミちゃん……?」「あれ、あれ、あれ……っ……! トーシロー、動けないのですっ!」「えっ……?!」
 悲鳴に近い声で助けを求めるアルミに藤四郎は唖然とした。 必死になって両手を動かして起き上がろうとするが、力が入らないのか小さな手は表面の砂を軽くなぞるだけ。
「な、なんでだ……?」「親切に教えてやるぶひ。このコントローラーから生まれたおかげで、我はケーブルを挿した相手を意のままに操ることができる力を手に入れたぶひ!」「なんて卑劣な……!」「豚だからと甘く見たのが運の尽きぶひ。豚は豚でも我は黒豚ぶひ!」「くっ……!」
 勝ち誇った表情で意気揚々に語るクリーチャー。
「まだこっちのバトルフェイズは終了してないぶひ! このまま速攻で能力発動、幼女を一人生贄に捧げ……前、下、斜め下、パンチ!」
 コマンドを叫びながら触れずして頭部のコントローラーを操作すると、
「体が……勝手に……なのですっ!」「なっ……一体アルミちゃんに何をした!」「簡単ぶひ。古今東西女の子を好き放題できるなら、えっちな踊りをさせるものと決まっているぶひ」「何ィ!?」
 藤四郎が黙って様子をうかがっていると、アルミは羽織っていた物をゆっくりと脱ぎ始め、まるで見ている一人と一匹を焦らすかの様に少しずつ肌をはだけさせた。 そして筆舌に尽くし難い何とも色っぽい魅惑的なポーズを見せびらかし始めたのだ。
「は、恥ずかしいなのですぅ……」「ブッヒイイイイイィィィィィィィィィィィィィイイイイイッッッ!!!!!」
 羞恥に赤く染まる踊り子に歓喜で身を震わせるクリーチャー。聞くに堪えない下品な鳴き声を高らかに叫び出した。
「もう止めろこの豚野郎ッ! アルミちゃんをは・な・せ!」「駄目ぶひね……そして我はここで錬金術師を仕留める好機を逃さないぶひ! ユクゾッ!」
 クリーチャーは掛け声とともにずんぐりむっくりな見た目に似合わず高く跳躍すると、アルミに尻を向けて落下攻撃を開始した。
「『秘儀・豚落としピッグドロップ』……!」「アルミちゃん……!」
 それは咄嗟の行動だった。 藤四郎はゆっくりと感じる時間の流れの中で、クリーチャーとアルミの間に飛び出していた。 クリーチャーの攻撃は止まらず藤四郎に激突──
「っ! トーシロー……!」

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