アルミと藤四郎の失敗無双

しらいさん

都条例と失敗

「また失敗か……」
 コンビニから追い出されるなり藤四郎は駐車場のブロックに座り込んだ。
「ふぇ~……も、もしかしてわたしのせいですか?!」「ううん。結局僕がやらかしちゃったのが原因だし。アルミちゃんは悪くないよ」
 心配をかけまいと優しく微笑みかける藤四郎。 しかし内心ではかなり参っていた。
(こりゃ誤解解くまでここにはこれないなあ……)
 アパートから徒歩十分圏内のコンビニだ。 それが使えないというのは車を持ってない自分にとって中々面倒なのだ。
「というか、どうしてアルミちゃんがここに?」
 まずそれが気になっていた。 道路でぶつかって、履歴書を物体Xに変えて貰って、そこで彼女とは別れたはず。
「もしかして付いてきちゃったの?」「はいっ!」
 こんなに小さいのに元気は一人前だ。 ついつい甘やかして何でも許してしまいたくる。 しかし藤四郎はあえて心を鬼にして厳しく接した。
「駄目じゃないか。知らないおじ──お兄さんについていったら」「どうしてですか?」「もしもその人が悪い人だったらどうするの? 連れ去られて悪いことされちゃうかもしれないよ?」「悪いことってなんですか?」「うっ……」
 ピンポイントで藤四郎の言いたくないことを聞いてくるアルミ。 しかし藤四郎も迂闊には口にできない。 何せ下手な事を言ってしまえば都条例に引っかかってしまうかもしれないのだ。
「ええっと──そう。悪い人に捕まると、人体改造を受けちゃうんだ!」「ジンタイカイゾー!?」「うん、そうなるともう運命からは逃げられない。仮面〇イダーとして世界征服を企む謎の国際的秘密組織と戦い続けることになるんだよ」「へ~! トーシローは物知りなんですねっ!」
 嘘は言っていない。 ただ子供の頃にみた再放送の記憶なので、現代っ子には通用しないかもしれない。
「でもトーシローは良い人なので大丈夫ですっ」
 無邪気な笑顔で笑うアルミ。 大人には眩しいくらい自分が信用されているのが伝わってくる。 とはいえアルミには大人しく帰って貰わなくてはならない。
「それでも駄目なものは駄目。お父さんとお母さんが心配するよ?」「うちはホーニンシュギだから平気なのです」「うーん。でもなあ……」
 このまま一緒にいれば自分が不審者として通報されてしまうかもしれないのだ。 藤四郎がどう説明すればいいものかと腕を組んで悩んでいると、
「実はトーシローに聞きたいことがあるんです」「そうなの?」「はいっ。わたしが錬金くっきんぐしたリレキショが役に立ったのか教えて欲しいんです」「あー……」
 脇に抱えていた物体Xのその後を聞きたかったらしい。
「ごめん、僕の頑張りが足らなくて、駄目だったみたい」「あう~……」
 しょんぼりと肩を落とすアルミ。 だが直ぐに立ち直ると、
「あのっ! もう一度やって見てもいいですか?」「あ、うん。活きがいいから気をつけてね」
 そう言って藤四郎はピチピチと跳ねる物体Xを手渡した。 しかしその活発な動きに驚いてアルミは思わず手放してしまった。
「あっ……!」「あー……」
 物体Xは陸揚げされた魚以上に勢いよく跳ねると、コンビニ裏手の川へと飛び込んで旅立ってしまった。
「すみません……トーシローのリレキショが……」「びっくりしちゃったかな? 大丈夫、履歴書はまた書けばいいから」
 それに物体Xにとっては明日の燃えるゴミに出されるよりも大海原で元気に泳ぐ方が幸せだろう。 それは自分もだ。
(ずっとここでしょげててもしょうがない。明日からまたやり直そう)
 藤四郎は立ち上がると、アルミに声をかけた。
「そろそろ帰るとしますか」「はいなのですっ」
 そして再び藤四郎はアルミと別れると、一人帰路に就いた。 当然だ。自分にも帰る家があるように、彼女にも帰るべき場所があるのだから。
 スタスタスタ。
 ひたひたひた。
(何かがおかしい……)
 アルミとは別れたはずなのにずっと後ろから足音が聞こえていた。 怪しい神様にでも後ろを付け回されているんじゃなかろうか。 勇気を出して振り返ると、
「あちゃ~、バレちゃいました><」「……なぁんだ。アルミちゃんか」「そうなのです」「アルミちゃんもこっちの方なの?」「えへへ」「へえ、偶然だね」「そうですねっ」
 わざわざ別れるまでもなかったようだ。 藤四郎は歩く速さを緩めるとアルミの隣に並んだ。
(一人ぼっちは寂しいもんな……)
「というか小学生が平日の昼間から外でブラブラしてるって、もしかしてアルミちゃんって不良なの?」「ショーガクセー? フリョー?」
 首を傾げるアルミ。 見た目から小学生だと思っていたが違ったのだろうか。 いや、きっと海外から来ていて日本語が不慣れなんだろう。
「トーシローは平日の昼間にブラブラしててもいいんですか?」「うっ……」
 グサッと突き刺さる鋭利な質問だ。
「大人はいいんだよ……」「はぇ~。うらやましいのですっ」
 多分世の中のお父さんも羨ましがってると思います。 真面目に働いている社会人に申し訳なく思いつつ、そうこうしている内に藤四郎は自分の住むアパートに到着した。 にもかかわらず、
「アルミちゃんまだついてきてたの?」「はいなのです」「アルミちゃんの家ってどこなの?」「秘密なのです。ところでトーシローの部屋はどれなんですか?」「二階のあそこだけど……」「じゃあ今日からそこがアルミのおうちなのですっ」
 精一杯の笑みを作るアルミ。 その天使の笑顔を藤四郎は、
「いい加減にしなさいっ」「ふぇえ~~」
 むにっとほっぺを両手で引っ張った。 柔らかい。 藤四郎はその感動に負けないよう真剣な表情を作ってアルミを諭す。
「いいからちゃんとおうちに帰りなさい」「ふぇぅ……」「アルミちゃんが帰らないとご両親も心配するだろうし」
 いくら女の子が可愛くても、それを勝手に持ち帰る訳にはいかないのだ。
「──ふぁいふぉへふ……」「分からないなら、一緒にお巡りさんに行って、迎えに来てもらおう?」
 そう言ってようやく手を放した。 もしも警察まで同行した場合、自分が悪いおじさんに間違えられて二十日間程度家に帰れなくなるかもしれないが、アルミを第一に考えればやむを得ないだろう。
「違うのです……勘違いしてるのです……」「えっ?」「ここにアルミの家はないのです……」
 どういう事、と藤四郎が尋ねる前に、 ぎゅっと自分のスカートを握り締めるとアルミは声を震わせて告白した。
「アルミは異世界から来たのですっ……!」

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