銃と剣の演舞

切々琢磨

第二話

 まだ何か言いたげなマルタだが、ここにいる限り永遠に売り込みされると思い、逃げるように席を立つカミール。新しい仕事でもないか一階へ行こうとしたとき、出入り口が勢い良く開き皆の視線が集まる。
 泥臭い傭兵たちとは対象的な、磨かれた鎧を着た二人の衛兵が堂々と集会所へ入ってきた。二階の酒場にいる傭兵達も何事かと手すりから一階を覗き見る。

「静粛に! これよりモーリッツ伯爵からの声明を読み上げる」

 モーリッツ伯爵。この街と周辺の村を統治する貴族の男だ。ここらは魔族の勢力圏が近くにあり、傭兵はひいきにしてもらっているのでカミールらは顔ぐらい知っていたがこのように直接声明を出すのは初めて見る光景だった。

 酒飲みの熱が冷めていくのを確認して衛兵は持っていた紙を広げる。

「先日ポーラリーチの集落が憎き魔族の侵攻を受けた。幸い死傷者こそ微々たるものだったが、住む場所を奪われた民は今も路頭に迷っている。国王陛下の領土を汚す正当性など存在せず、我々はなんとしてでも奪われた領土を奪還しなければならないため、魔族に対する組織的な攻撃を行うことを決定した。パイク、ライフルを扱える傭兵諸君は志願し魔族共に血の記憶を植え付けよ。正当な報酬は我が名に誓い約束する。モーリッツ・ベルンハルト」

 声明を読み終え室内は静まり返る。しかしそれもつかの間、
「はい! 私参加します!」

 マルタは我先にと手を上げ大きな声で参加を表明した。

「いや、お前は傭兵じゃないだろう」

 ぎょっとしたカミールは思わず突っ込みを入れるが、衛兵は特に反応する様子もなくマルタを一瞥する。

「子供か? まあいい。一般人も銃兵として募集する。詳しくは広場の掲示板を確認するように。以上だ」

 衛兵は身を翻すと集会所から出て行く。次第に喧騒が戻っていくが、傭兵らの話はもっぱら戦いに参加するかしないかといったものだった。

「わ、私掲示板を見てきます!」

 マルタはエプロンを脱ぎ捨てると脱兎の如く駆けて行った。残されたカミールとカールは顔を見合わせる。

「俺たちは参加すべきだろうか」
「それはリーダーのお前が決めることだ」
「……そうだよな」

 カミールは懐から銀貨を一枚テーブルへ置くと集会所を後にする。少し歩き、街の中心部に出ると掲示板の前には人だかりができていた。その中にはマルタもおり、文章を読もうと群がる大人たちの中必死に背伸びをしていた。

「願っても無い大仕事だが、リスクが高すぎるな……」

 今まで生き残ってこれたのは少数の相手に万全な態勢で挑んできたからだ。集団で魔族の領域に入るとなれば向こうも集結し戦術的な動きをしてくるだろう。それに今回は素人も参加するのだから、なおさら何が起きるかわからない。

「だが明日から仕事の予定が全く無いんだよな」

 もしかしたら報酬につられてここらの傭兵が全員参加し、仕事の手が足りなくなっているかと思いギルドに戻り書類整理をしている受付嬢の元へ行く。

「ちょっと確認したいんだが、さっきの依頼に参加するで一般の」
「ごめんなさい。上の人から三日間仕事を受け付けないよう言われてて……」
「三日……? あぁ、そういうことか」

 そういえば三日後が反攻作戦の参加期限だったな。なるほどよく考えてやがる。

「ここの傭兵はどれぐらい参加するんだ?」
「ほとんど全員ですね。みんな張り切ってますよ」
「わかった。ありがとう」

 何年もしのぎを削ってきた歴戦の兵士たちも参加するのなら多少はマシな結果になるのかもしれない。だが素人達……マルタとかいう少女。彼女は激しい戦いになれば戦死してしまうだろう。
 カミールの脳裏に、幼い頃、グレーテルが疫病で寝込んでいる時に何もしてやれなかった記憶がちらつく。
 まるでマルタのことを気にかけて参加しようとしているみたいだ。正当な理由をいくつも考えながら、彼は邪念を振り払うと早速打ち合わせのため本部へ向かった。


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