褐色男子、色白女子。

もずく。

戸賀くんと早乙女さん。

階段に着いても俯いて目も合わせてくれないさくに俺はとてつもなく悲しい気持ちになった。今までさくとした喧嘩より、何よりも辛かった。
「さく、ごめん。」
俺が小さな声で謝ると、さくは絞り出したような掠れた声で言った。
「何が。」
ああ、もうダメかもしれない。俺の一方的な「大事にする」がこんなにも空回る結果になるなんて。そんなのあんまりだ。
「…俺、さくのこと何も考えてなくって。昨日だって、帰り道一回もさくのこと見てなくって。きっと俺の態度にすごく傷付いたんじゃないかって…」
思って。俺が言葉を紡ぐより前に、今度は大きな声でさくが叫んだ。
「ちがう!!」
「…え?」
「私は、壮士に怒ってるんじゃないし、傷付けられたわけじゃない!」
じゃあ一体なんだと言うのか。まさか、嫌じゃなかったとか。確かに爽やかイケメンって感じだった。普通の女の子ならあんなイケメンにキスされたら即落ちするだろう。
「私が、嫌だったのは、」
またさくが話す。途切れ途切れ。
「私は壮士に大事にされてて」
それでもしっかり
「あんな風に手の甲でもキスされたことなんてなくて」
ゆっくりと、俺に伝えるために。
「初めてされるキスは、あんたが良かった…」
その愛しい唇を動かすんだ。
「さく…」
「壮士と一緒に恋をしていきたいから、あんな形で他人にキスされて壮士も怒ってるって思ったらどうしていいか分かんなくて。目も合わせられなかったの。」
…俺は、さくに嫌われてなかった。それどころかさくは俺を求めてくれていたんだ。
「さく、キスしていい?」
「は?」
可愛すぎる俺の彼女。手の甲だろうが何だろうが、他の男が一度でも触ってキスしたのに彼氏の俺がキスしちゃダメなんて、不公平だろ?
「っ、壮士、」
赤くなって逃れようとしたさくが俺の名前を呼ぶと同時に俺はさくの唇を塞いだ。
「壮士…本当にあんたって…馬鹿。」
俺がさくを解放すると同時にさくはそう言って睨みつけてきた。それでも顔は真っ赤だから逆効果なんだけど。
「さく、もっと早くキスしとけば良かった。これから毎日するからな!」
「しなくていい!」
恥ずかしくて死にそうなさくを俺がニヤリと笑って見つめる。さくをもっともっと見ていたい。さくをもっともっと感じていたい。さくをもっともっと照れさせたい。さくを、もっともっと俺に溺れさせたい。
「もう私教室戻るから!!」
「おー、俺も戻る!」
立ち上がったさくに合わせて俺も立ち上がり、それぞれの教室へと帰っていった。

「…。」
頬を染めたさくが1人唇を押さえていたなんて、俺は一生知ることのない話。

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