褐色男子、色白女子。

もずく。

黒川くんと早乙女さん。

まずい。非常にまずい。
「聞いてんの?」
「うっす。」
俺は今、白崎の友人でありトガの幼馴染の早乙女さくやに殺されかけている。目で。
「さっさと答えてよ。」
目をそらせば本格的に死ぬんじゃないか、俺。俺は、早乙女に昼放課に突然拉致された。そして、開け口一番こう聞かれたのだ。
「小糸を名前で呼んだだけじゃなくて名前で呼ばれたってどういうことなの?」
な ぜ お ま え が し っ て い る?
「いや、あの、なんていうか、こう、流れで…?」
しどろもどろ答えるとより一層強くなる眼光。女って、こんなに怖いものだっただろうか。
「流れってなに?どんな流れ?」
「帰り道に、そのまま…っていうか、なんで早乙女が知ってんだよ。」
俺だってお前がなぜ知っているか知りたい。
「…小糸に、言われたの。初めて男の子に名前で呼ばれたし、呼んだって。あんた、あの子に告白してからまだ今日で4日目だよ?急にこんな、親しくなるなんてあり得ない。特に小糸に限って。あんた何したの?」
…俺、この人からの信用というものが全くないのだろうか。
「何って…特になにも…。あ、でも中学の話を少し聞いた。俺の告白されてるところに偶々居合わせて…トラウマ抉ったらしかったから。」
素直に言うと早乙女の目がこれ以上ないくらい鋭くなった。
「…あんた、あの子に中学のこと聞いたの?」
一瞬怯みそうになったが、女子に怯むわけにはいかない。俺は努めて冷静に答えた。
「いや、あいつから話してくれた。俺には知っといてほしいって。多分、全部じゃねーけど。」
「自分、から?」
「友達には話しときたいって。」
「友達…」
なにかを噛み砕くようにゆっくりと呟いた早乙女に俺が首を傾げたときだった。
「おっ、二人してなにしてんだ?俺もまぜろ〜!」
廊下の向こう側からトガが突撃してきた。
「っ壮士…じゃない、戸賀!?」
「おお、さく!なんか校内で話すの久しぶりだな!登下校は一緒なのになー!」
軽快に笑うトガに早乙女は眉をひそめた。
「あんたが付いてくるんでしょ?」
トガはそれにさえ嬉しそうに笑う。
「やっぱりつれねーなー、さく!今日も一緒に帰ろうぜ?」
語尾にハートがつきそうなくらい甘ったるい声。こんな声は聞いたことがない。いや、聞かされても困るんだが。
「…鬱陶し。」
早乙女は興醒めだとでも言いたげに俺を一瞥して踵を返した。そのピンと伸びた背中が見えなくなってから俺はトガに聞いた。
「…お前、嫌われてないか。」
「んんにゃ?そんなことないぞ?さく、俺が一緒に帰ろうぜって言ったらぜってー正門の外で待っててくれるもん。ツンデレなんだなー、あいつ。」
ふっふっふと楽しそうに言うトガを見て、俺は気付いてしまった。
「お前、早乙女のこと好きなのか。」
「…内緒な。」
安心しろ、トガ。多分本人以外にはバレバレだからな。

「お帰り〜、さくちゃん!…?顔赤いよ?」
「ただいま。ちょっと走っただけ。大丈夫。」
もう一つの恋の物語が、動き出す。

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