褐色男子、色白女子。

もずく。

白崎さんと過去。

今でも思い出すと、海の底に沈むような重たい感覚が体にのしかかる。私は静かに目を閉じた。
「私ね、中学のときいじめられてたの。」
そっと目を開けて黒川くんを見つめると黒川くんは目を見開いていた。
「女の子たちにね、気に入らないって。ある男の子に告白されたのが始まりで…その人、すごくモテる人だったの。もちろんお断りしたよ、でも、それじゃ納得してくれなかったみたい。毎日無視されて、物をとられて、罵倒されて。私、それから人と話すのが怖くなっちゃって。黒川くんとお話しするときも、あんまり目が合わなかったでしょう?」
「白崎、俺は…」
「分かってるよ。黒川くんは優しいって。だって、ほんの数日しかお話ししてないのに、私こんなに沢山お話しできるようになったもん。どもってばっかりだったのに、スラスラ言葉が出てきて…男の子とお話しするのも、女の子とお話しするのも、もしかしたらまた前みたいにできるかもって。でも、やっぱり怖いんだ。さっきの女の子みたいに、また、中学みたいに、また、私、」
「白崎?」
「私、私、そんなつもりじゃなくて、ごめんなさい、私、」
止まらない。あの時の光景がフラッシュバックして、もう違うのに、さっきの女の子と重なって、また、
「白崎!落ち着け、白崎。大丈夫だから。」
「く、黒川くん、」
「無理して話そうとしなくていい。少しずつでいい。俺は、お前を苦しめたくない。」
黒川くんの大きな体にすっぽりと包み込まれてしまった私の体は、震えていたことにようやく気が付いた。
「あ、ありがとう。…黒川くん。私、頑張るから、もう少し、だけ、付き合って?」
「…もちろんだ。」
黒川くんの優しい声に安心したらしい私の心臓は、ようやく通常の速さを取り戻してくれた。
「私、あの子に叩かれたとき、すごく怖かったの。中学の色んなこと思い出しちゃって。叩かれたり、殴られたり。でもね、黒川くんがあの子の手を離させてくれたとき、すごく…すごく安心したの。黒川くんは私を守ってくれるんだなって。さくちゃん、いるでしょう?さくちゃんはちょっと過保護だけど、私のことすごく考えてくれてる。そう思うとすごく安心できる。きっと、黒川くんが大事なお友達で、お友達が私のこと一生懸命考えてくれてるってわかったから安心したんだよ。だからね、あの、ありがとう。」
私が話し終わるのを静かに待っていてくれた黒川くんは再び私を抱きしめた。
「お前に、そんな辛いことがあったなんて知らなかった。きっとまだ全部じゃないんだろ?俺に全てを言える時がきたら、言ってほしい。俺は、白崎のことを全部知りたい。」
「…うん。また、話すね。」
私が頷いたとき、茜に染まった空から風がふいた。
「そろそろ帰るか。」
「そうだね、帰ろう。」
わざわざ家まで送ってくれた黒川くんが去り際に、
「じゃあ、また明日な。…小糸。」
小さな置き土産をしていったから私は、それにお返しをするしかなくなったのだ。
「うん、また明日…。レオンくん。」
二人揃って赤面してるなんて夕焼けに隠れて誰も見つけられなかった、はずだ。

「レオン…か。ははっ。」
帰り道、一人で笑う黒川くんがいたとか、いないとか。

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