褐色男子、色白女子。

もずく。

白崎さんとトラウマ。

見てしまった。褐色肌の彼が女の子に告白をされている現場を。黒川くんは興味なさそうに頭をかいて断っているようだった。
「…悪い、好きなやついる。」
「どうしてっ…!っ、誰!?私の知ってる人!?」
大きく心臓が揺れた。これ以上見るのはよせと脳が警報を鳴らしている。何かが、何かが迫り来る。はやく行かなくては。後ろに後ずさったとき、カタリと音を出してしまった。背中にあったゴミ箱に踵がぶつかったのだ。女の子がギョロリと光る目で私を睨みつける。だめだ、だめだ、だめだ。思い出してしまう。体が動かない。荒い呼吸を繰り返す私の頬にピリッとした乾いた痛みが弾けた。
「あんたね!あんたがレオンくんのことたぶらかしたのね!最低!最低!」
「やめろ!こいつは関係ない!白崎に触るな!」
黒川くんの大きな手が女の子の手をはたき落した。そのまま体が硬直したように動かない私を、俗に言うお姫様抱っこで黒川くんは抱き上げた。
「白崎、行くぞ!」
そのまま軽々と走り出した黒川くんは、唇を食いしばっていた。私は涙の膜がはった瞳を隠すように下を向いた。きっと色々聞かれるのだろう。いや、優しい黒川くんは何も聞かないかもしれない。それでも迷惑をかけてしまったことは事実だし、いつかは言わないといけない日がくるだろう。だって私たちは「お友達」なのだから。こんなツギハギだらけの関係でも、お互いのお互いを想っている気持ちにズレがあっても、少なくとも私の中では今は「お友達」だから。

「…落ち着いたか?」
「う、うん…。あの、ごめんなさ…」
「悪い。」
「え?」
私が謝るより先に黒川くんが口を開いた。真剣に私を見て、いつもの低い声とは違う、深い声で。
「怖がらせたよな。いつもああやって断ってたんだ、俺。好きなやつがいるって。今回のことでお前にも迷惑がかかるって知った。これからは別の方法で断るようにする。白崎、悪かった。」
凛としているのに、その満月が悲しそうに見えるのは私だけなのだろうか。
「…あの、黒川くん。私、平気だよ。だから、謝らないでほしい、です。」
「でも、あんなに怖がってただろう。俺はもう、白崎を傷付けるようなことはしたくない。怖いんだ、お前を失うのが。俺とお前の気持ちの差は分かってる。でも、俺は白崎が好きなんだ。好きな女の子を怖がらせるなんて、男としてしたくない。」
寂しそうに言う黒川くん。なんだか彼がとても小さな男の子のように見えた。
「黒川くん。私、黒川くんに言わないといけない…ううん、知っておいてほしいことが、あるの。」
彼も怖いんだ。私と同じように怖いことがあるのだ。そう思ったら、彼には話してしまっていい気がしてきたのだ。茨に覆われた、灰色の中学時代を。

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