俺と彼女とタイムスリップと
30話「修学旅行」 前編
「よーし、じゃあ点呼取るぞー。 お前らみんないるなー? よーし、それじゃあ出発」
山田先生の適当な点呼と共に俺たち二年三組を乗せた観光バスは出発した。
タイムスリップしてきた俺にとっては二度目の修学旅行である……本来はそのはずなのだが、当時の俺は修学旅行直前にインフルエンザにかかり、自宅療養を余儀なくされたのだ。
過去の失敗を踏まえ、今回は予防接種もしたし、手洗いうがいもかかさずした。
そして今日、俺は万全な状態で修学旅行に参加しているのである。
「なあ淳一聞いてるのか?」
俺の隣に座る石田が俺に問う。
どうやら俺はボーっとしていたらしく石田の話など全く耳に入ってこなかった。
「だからよー、何でうちの学校はクラスごとに行き先が違うんだよ。 せっかく真由美ちゃんと別行動しようと思ってたのによ」
そうなのだ。 うちの学校はクラスによって行き先が違うのだ。
富田さんのクラスは沖縄で、俺たちのクラスは京都だ。
「まあしゃーないだろ」
「ちぇっ。 まあメールとかするからいいけどよー」
けっ。 リア充め。まあ石田は石田で自分で手に入れた幸せだからな。
俺が文句は言えたもんじゃない。
……俺だってこの修学旅行で唯との距離を少しでも縮めるつもりだ。
この二泊三日の修学旅行。
二日目の自由行動。 俺は唯を誘って二人でお寺とかを回るつもりだ。
*
俺たち二年三組を乗せたバスは昼の12時すぎに京都のホテルに到着した。
俺たちは一旦荷物を部屋に置き、ホテルのロビーに集合した。
「おーし、みんな揃ったな。 そんじゃあ今から歩いて清水寺に行くからなー。 班ごとはぐれずに行動するように」
山田先生がそう言うと俺たちは班ごとにまとまった。
ちなみに俺の班は俺と石田と他、女子一人だ。
唯と相川は同じ班だ……
圧倒的くじ運のない俺は唯と同じ班になることができなかった。
まあ、石田と同じ班になれただけ良しとしよう。
「唯と同じ班になれなくて残念だね」
俺にそう話しかけてきたのは同じ班の一員である沢村奈津子さわむらなつこだ。
こいつは俺たちと中学が一緒でまあ友達までもは言えないが唯とは仲良く、俺たちの関係をよく知っている。
綺麗な長い髪が特徴的で顔もそれなりに可愛い。 まあ唯ほどではないが。
「うっせ。 別に違う班で全然いいけどよ」
「まあまあ素直になりなって。 唯も淳一と同じ班になりたかったってぼやいてたよ」
「え、嘘まじで?」
「嘘。 淳一ってバカだねー、中学の時の修学旅行の時も同じ嘘に引っかかってたじゃない。 将来マルチ商法とかに引っかかるやつだよ」
沢村はそう言って腹を抱えて笑う。
おい沢村。 何で8年後にマルチ商法に引っかかったことを知ってるんだよ。
お前もしかしてタイムリープしてね?
「お前なあ」
「ごめんごめん。 まあでも私は淳一と唯のこと、応援してるからさ。 協力してほしかったらいつでも言ってよ」
「それが本当なのかわからんがまあなんかあったら頼むわ」
「任せて~」
*
班に分かれた俺たちは清水寺に行った後それぞれ班ごとに行動した。
昔から別にお寺なんて興味なかったが案の定、今もない。
だが、秋の紅葉は綺麗だと思った。
こういうところに来て楽しいと感じることができるのは一緒に行く人によると思う。
たとえば好きな人とか。 ……唯とかな。
そんな中、石田ときたら「真由美ちゃんに写メ送る!」とか言って俺に携帯を渡してきてお寺をバックに写真を撮らせてきたり……
べ、別に羨ましくなんかないからな!
「おい淳一! お前も見にこいよ、山崎のとこで皆で有料チャンネル見るってよ!」
そして今は午後23時45分、ホテルの部屋の中。
俺は石田と相部屋だ。
ちなみに消灯時間はとっくに過ぎている。
「いや、いい。 俺はパス」
「なんだよー、まあいいや。 俺は行ってくるわ」
そう言うと石田は部屋から出て行った。
ホテルの有料チャンネル。
確かテレフォンカードみたいなのを千円ぐらいで買うと見れるんだっけな。
懐かしい。 俺も中学の修学旅行で買った覚えがある。 だけど何故か見れなかったんだよな。
今となっちゃそういうエロいのはスマホで見れる時代になったんだよな。
まあどうでもいいが。
……やっぱり俺も見に行こうかなと思い寄りかかっていたソファーから立ち上がると携帯のバイブ音が響いた。
携帯を開き確認すると唯からのメールが届いていた。
 「一階のロビーで待ってる」
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