俺と彼女とタイムスリップと

淳平

28話「ダブルデート」中編その1

石田からの突然のダブルデートの誘いの翌日、俺は遊園地へ向かうため電車に乗っていた。

 どうやら現地集合現地解散らしい。

 今俺が乗っているのは市内の移動が便利なローカル電車。

 この電車に乗るのもめちゃくちゃ久しぶりな気がする。

 大学で上京してからあまり帰省することなく都内での就職を決めたからな。

 地元にいてもあまり乗る機会はなかったが。

 ボディを青く塗られたその電車は地元の人からは「青電」と呼ばれている。

 この青電も11年後には高架線の上を走っている。




 時が経てば人も電車も変わっていく。

 俺がこの11年で変わったことといえば歳をとったことと、学生から社会人という肩書きに変わったことくらいだ。

 社会人になって数年経っても大学生気分は抜けなかったし、人生の惰眠を貪っていた。

 そんな俺も自分を変えたいと思った。

 そう思い、真柴に相談したのだ。

 すると真柴はいいアドバイスをくれた。

 真柴は高校生のくせにどこか大人びているところがあって、身体も大人びていて思わず甘えてしまった。




 とにかく俺の薄っぺらい濃くするにはこれからの自分次第。

 大抵のことは自分自身で面白くもできるし、つまらなくもできると夜の校舎の帰り道に真柴が教えてくれた。

 だから俺は前を向いて自分自身で人生を濃くしていくと決めた。

 といっても何をすればいいのかは分からないが。

 とりあえずは一日一日を無駄にしないようにしようと思う。




「あ、淳一くんもこの電車乗ってたんだ!」




 誰かの声がして、つけていたイヤホンを外し隣を見ると真柴が座っていた。




「おう。 真柴も乗ってたんだな。 全然気づかなかったわ」




 真柴は水色のワンピースを身にまとい、女の子らしい格好をしていた。

 夏場はタンクトップとかドデカイTシャツを着ているのでワンピース姿は新鮮だ。

 普通に可愛いと思ってしまった。




「淳一くん何聴いてるの?」




 真柴は俺が答えるのより先に俺がさっき外した右のイヤホンを自分の耳につけた。




「おー、安定のDAWNだねー。 「サンデーモーニング」いいよね。 ちょうど今、日曜の朝だ!」




 真柴はニカっと俺に微笑む。

 一つのイヤホンを二人で共有してるから自然と物理的な距離が近くなる。

 真柴ら俺の肩に顔を乗せ目を瞑りながら幸せそうな顔で音楽を聴いている。

 ま、まったくこいつはこういうことを平然とやりやがって……きっと真柴は男慣れしてるんだろうな。

 情けないことに少しドキドキしてしまう。

 こういうのにも慣れないとな。

 経験値を積むんだ俺よ。




 ……それにしても女の子というのはいい匂いがする。

 こうして隣に座っているだけでも感じることができるほどだ。

 真柴は俺と違って髪もサラサラで……ちゃんと……女の子なんだよな。




 DAWN SPEECHの曲「サンデーモーニング」は、その名の通り日曜の朝だ。

 遠距離恋愛をしているカップルの話だ。

 この曲の主人公の「僕」は彼女である「君」にそれはもうベタ惚れで同じように「君」も「僕」にベタ惚れである。

 いわゆるバカップルとは違い彼らは年に数回しか会うことができない。

「まるで織姫と彦星みたいだね」って歌詞にも歌ってある通りに彼らは中々会うことができない。

 そんな遠距離恋愛中の彼らの話。

 場面は前準備の電話から始まり、二人で計画を練り、楽しみな気持ちが高まるといったところまで一番で歌われる。

 そして二番からは約束の日曜の朝、気持ちが最高潮に高まり、彼女が住む街へと何時間もかけて、電車の中で「君」に会えたら何をしようかとニヤニヤしながら向かうという何とも微笑ましい。

 中学生の時、初めてこの曲を聴いた時に一発で好きになった。

 微笑ましい二人への憧れから俺の中でDAWNの中でも結構特別な曲だ。
 曲が終わり自動的にプレイヤーは次の曲を再生した。

「うーん、やっぱりサンデーモーニングは名曲だねぇ〜」

「名曲としか言えないな」

「この後二人はどうなったんだろうねえ」

「まあラブラブだろこの二人なら」

「だよねえ、私もこんな微笑ましい恋愛したいなあ〜」




 真柴はそう言うと俺の顔をじっと見つめた。




「どうした?」




 俺が聞くと真柴はニコッと笑って、




「何でもなーい」




 と言った。




「何だよ言えよ」

「ピーッ! 淳一くん、女の子にしつこくしたら嫌われるぞ〜」




 真柴は笛を吹く仕草をする。




「くっ……それは困る」

「ふふふっ。 淳一くん単純だなあ」 

「うるせ」

「女の子は秘密が多いのだよ〜」




 真柴はそう言って笑った。

 何か真柴の方が上手な感じがして悔しい。

 が、まあそれくらい真柴には魅力があるんだよな。




 遊園地の最寄り駅に着き俺と真柴は下車し、遊園地へと向かった。











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