その魔法は僕には効かない。

FU

風船 12

僕は武川さんを探す。
ただでさえも苦しいのに、
走ることで更に呼吸を苦しくさせる。

何処にいるのかもわからない。


そして今、
武川さんに会ったところで、
どんな顔をして、
何を話せば良いのだろう。


武川さんは、僕を軽蔑するだろうか。
あっちに行けと言うだろうか。


僕の中でどんどん
膨らむ武川さんへの気持ちは、
風船だったらもう既に
割れてしまっているだろう。


武川さん、
今僕は、貴方に会いたいです。


貴方の側にいたいです。


武川さんを見つける事が出来たら、
僕は武川さんを諦めない。


そう心に決めた。









会社の周りや、駅周辺、
様々なところを走ったが、
武川さんは居なかった。


まさか…


僕は、残された力を
振り絞って、勢いよく走り出した。



公園。


武川さんと出会ったあの公園。


もしかしたらそこに居るかもしれない。


最後の希望だと、
僕は、階段を駆け上がり、
公園へと走る。


そこに居たのは、
Tシャツに黒いズボン、サンダルを履いた
武川さんだった。


スーツを着ていない武川さんを
初めて見たものだからとても新鮮に感じた。



「……見つけた…。」


僕が小さな声で言う。


「…お前に1番…見つかりたくなかったよ。」


武川さんは、僕だということに
すぐ気付いたが、
真っ直ぐ前を見たまま、
こちらを振り返ることは無かった。



「何で平川さんに、連絡をしなかったんですか?物凄く心配していましたよ。僕だって、どれほど心配したか!」


僕は怒鳴った。
目上の人なのは分かってるけれども…


でも今は、武川さんのことが
心配だったその気持ちが
全面に出てしまう。


「今朝、起きたら目の前が真っ白になったんだ。夢かと思ったよ。そうしたらいつの間にか、本当に夢を見ていたんだ。夢の中にお前が出てきて、俺を見て何かを言うんだ。でも何を話しているのか全く聞き取れなかった。」


僕は、黙って武川さんの話を聞いた。


「お前が俺に話している途中から、俺の姿がどんどん消えていったんだ。手先から足先から順番に…その時、牧の前から姿が消えてしまう事が怖くなったんだ…」

僕は、前に見た夢のことを思い出した。
あれは、武川さんだったのか…

普通なら不思議なことなのに、
冷静に分析している僕がいる。


武川さんは、気づいた時には病院にいて、
入院することこそ無かったが、
過労が原因だったそうだ。


「もちろん会社には連絡をした。ただ心配されるのが面倒で部長にだけ伝えたんだ。まさか俺が無断欠勤なんて有り得ないと思った平川は、焦って色々な人に連絡をしたんだろうな。申し訳ない事をしてしまったな。そしてお前にも…」


僕は、怒りが治まらなかった。


「心配が面倒って、何ですか…」


武川さんが何かを言おうとしたが、
僕は話し続けた。


「心配をかけたっていいじゃないですか。心配だって迷惑だってかけてくださいよ。僕は、頼りないと思います。でも僕は、武川さんが好きだから、武川さんの為なら何でもしたいです。疲れたなら支えるし、嫌なことがあったら話を聞くし…僕は、武川さんの側に居たいんです。」


僕は溢れるばかりの言葉を
武川さんに伝えた。


ぎこちない手を小さく震わせ、
僕は武川さんを抱き締めた。

拒絶されるかと不安に思ったが、
武川さんは優しく受け止めてくれた。

武川さんの大きな手が僕の背中に触れる。

夏の暑さに負けた汗が
僕達を更に熱くさせた。


「俺は、ずっと心を閉ざして生きてきた。俺の気持ちを素直に話すことで、軽蔑されてしまうと思っていた。好きな人を見つめるという事だけで良いと思った。それなのに今、牧を見るだけで胸が苦しくて、自分でもどうしようもない気持ちになるんだ。これが恋だということを気付いていたのに、気付かない振りをしたんだ。」



武川さんが少し心を
開いてくれたように感じた。



「俺と…付き合ってくれないか…?」



武川さんのまさかの言葉に
僕は、今まで感じたことの
ない気持ちになった。

心臓の動きが早くなるのがわかる。
それと同時に、
武川さんの心臓も早くなるのがわかった。



「…はい、よろしくお願いします」



僕は、泣きながら笑顔でそう答えた。



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コメント

  • 水精太一

    拙文失礼致しました。次章を楽しみにしております。
    第12章につきましては、なかなかの急展開につき、400文字以内ではお伝えしきれません。心を落ち着かせてから、何度かに分けたいと思っております。ですがひと言だけ。想いが通じた瞬間に、リアルタイムで立ちあえてとても嬉しいです。二度とない機会ですので、自分も幸せのお裾分けを頂いたようでした。ありがとうございました。

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  • FU

    コメントありがとうございます。指摘して頂いたところ訂正を致しました。

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  • 水精太一

    1話読み忘れた…?と思ってしまいました。急に掛かって来た武川さんの同僚の方からの電話。武川さんの台詞「上司と部下…」発言に、いつの間にか凌太くんは武川さんの勤める会社に内定していたのか…と。ふたりがお互いの愛を確かめ合う大事な章なのに、些末なことが気になる、自分の悪い癖。もう一度、行間から疑問が解消されるか、読み直したいと思います。

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