その魔法は僕には効かない。

FU

変化 10

一次試験、二次試験と
通過することのできた僕は、

最終面接日を目前としていた。


ここで落ちるわけには行かない。
落ちたら武川さんに
会えなくなってしまうと思うと、
僕の胸を締め付ける。
 


二次試験後、
家に帰る途中に僕は、
自然に公園へと足を運んでいた。

ベンチに座り、夕日を見つめる。


はぁ

大きなため息をついて、 
今日重ねた強いプレッシャーを
全て地面に捨てた。


ここに来てしまうと、
帰りたくなくなってしまう。


僕は、スーツのネクタイを緩め、
袖まくりをした。


通り過ぎる人を
見ては、違って、
見ては、落ち込むの繰り返し。


武川さん…


そんな簡単に会えるとは、
思っては思っていないのだけれど…










ベンチに座る彼の姿が見えるのがわかった。
ここで話しかけたらどう思うだろう。


俺は、敬意を持たれているだけだ。
恋愛感情なんて彼にはないんだ。

だから俺は、この気持ちを
ぐっと抑えること…
それしかできない。


公園の入口で立ち止まる。


入る勇気は、もちろんなかった。



いつも強気な俺は、
どうして…こんな時に…



帰ろうとしたその時、
遠くの方から声がする。


「た、武川さん?」


駆け寄る彼に、
今すぐ逃げてしまいたい気持ちになった。


「こんにちは!」

元気よく挨拶をする彼に、

「お、おう」

答えることで精一杯だった。


ベンチに腰をかけた俺たち。

彼の入社試験の話を聞き、
助言をして、
「最終試験も頑張れよ」

と言葉にする。


「ありがとうございます」

と元気に返す彼の瞳は、
若々しくてイキイキとしていた。


最初に会ったときの姿とはまるで違う。


「なんかお前、変わったな。」


「え…?」


「堂々としているというか、
俺を前にして、びくともしていない。
みんな怖がるのに…」


「武川さん、僕は、変わってますか?
変われていますか?
変われていると思ってくれるのなら、
それは武川さんのお陰なんです。」

こんなに眩しい程の姿を見たのは、
初めてだった。

「僕は、武川さんに出会えてよかった。」


俺は、彼からのその言葉を聞いて、
確信してしまったんだ。


俺は、牧が好きなんだ。


気付かない方がよほど楽なのに、
できれば気付きたく無かった。










今、会いたかった人が目の前にいる。

見つけた途端、声を掛けて呼び止めた僕は、
図々しかっただろうか。

ベンチまで呼び寄せ、
武川さんに試験の話を
聞いてもらい、助言をもらう。

確かにそれは、僕の聞きたいこと。


でも僕は何故か、
武川さんの誕生日や、
好きな食べ物、休日は何をしているのか、

聞きはしなかったけど、
本当は、そんな事ばかり聞きたくなっていた。


「なんかお前、変わったな。」


僕は、変われた…?
全ては武川さんのあの言葉があったから。

だから頑張れている。

武川さんのそばにいれば、
いつも救われる。

助けてくれるのは、武川さん。


僕は…僕は…


それまでは敬意のはずだった感情が、
なんだか自分では抑えられないほど
変化していくのがわかった。


「武川さん…」


僕の言葉に武川さんが振り向く。


「僕、武川さんが好き…」


我に返った瞬間には、もう遅かった。



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コメント

  • FU

    お茶は、精神を安定させるという意味があるのは私も小耳に挟んだことがあります。本当にそうなんですよね。一呼吸したい時なんかには、もってこいです。しかし、あの場に行くときっと飲めなくなってしまう。緊張で手にもつかない。そんな光景が私の中で浮かんだので、書かせていただきました。(あとがき)

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  • 水精太一

    凌太くんは武川さんへの想いを「愛」と自覚しないまま彼の後ろ姿を追い掛けて小さな歩を進めています。まるで生まれたばかりの小さな命が、最初に見たものを親だと思うように。一方の武川さんは誰かを「愛」すること自体を諦めています。凌太くんを公園で見掛けた時彼は逃げ出したい思いに駆られます。遠目からでも判る眩しい姿。広い世界へと歩き出した彼の側に、自分が近付くなんて出来やしない。けれど、高揚した嬉し気な声で自分の名を呼ぶ青年に振り返らずにはいられなかった。同じベンチに間を開けて座り大人な対応をしても、武川さんの心は早鐘を打っている。認めたくない「愛」がこんなに近くにある。凌太くんに話し掛ける時でさえまともに相手を見ることすら出来ない。「愛」を自覚した武川さんにその奇跡が突然訪れます。発せられた言葉は何処へ向かうのでしょう。気付いたら溢れてしまった凌太くんの想い。蓋をした武川さんの想い。未来は果たして?

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