その魔法は僕には効かない。

FU

名前 4

自動ドアを前にして
僕は久しぶりに緊張をしている。

この自動ドアの先に
あのサラダとビールの男がいるのだろうか…

興味本位で来ただなんて言えないから、
僕は会社の知識をある程度のところまでは
勉強した。

この間は私服だったから、
スーツを着た僕のことは、わかるだろうか。

いや、そんなに変わらないか。

そんな風に思いながら
僕は、エレベーターに乗り営業所まで向かう。

すれ違う爽やか風の男は、
営業所に取りに戻る途中に、

「もしかして、OB訪問?」

笑顔で声をかけた。

「あ、そうです、はい。」

自分のことをドジだと言う彼は、
忘れ物を取りに来たのにも関わらず、
僕を営業所まで案内してくれた。


来るエレベータの中でも、
忘れ物をした話を無関係の僕に
話してきた。


一つ分かることは、
この人が僕の緊張を少しでも
解いてくれようとしてくれていること。

この人は、お人好しで、
優しい方なんのだろう。
きっと職場でもそうなのだと思った。


「OB訪問の方、来ましたよー!」

男は担当の職員に伝えると、
忘れ物の存在を思い出して、
僕に頑張ってね と伝えて外回りへと向かった。








「こんにちは、さぁ、座って!
名前と学校をここに書いてね。」

そう声を掛けて紙を出した女性は、
紙コップに入った飲まれることのないお茶を
僕の近くに置いた。

「…書きました。」

僕は、紙をその女性に提出すると、
少し待っているように伝え、
この場から立ち去った。

担当は優しい人がいいな、
怖いと面倒くさいし。

そう思いながら、僕は担当の職員を待つ。

しばらくしてやってきたのは、
サラダとビールの彼だった。

僕は、ハッとした。

可能性は無くはないが、
ある程度人数がいる中で
まさかこの人に当たるなんて思わないだろう。

「こんにちは、OB訪問だね。」

まるではじめましての様子だ、
いつもコンビニでは店員と常連の関係、
公園でも話したのに。

覚えていない…のかな…

僕は、サラダとビールの男の名前をそこで、
初めて知った。

武川政宗…

彼は、バリバリのエリートサラリーマンで、
営業成績も良くて、
会社からの信頼もかなりあるようだった。

僕は、手に汗を流し
言葉が出てこない感覚を覚えた。

普段といる場所が違うだけで
こんなにも緊張してしまうことが
あるのだろうか。


「聞いてるのか?」

その返事にもまともに返せなかった。


「あ、えーっと、その…」

丁度15分たった頃だろうか。

「何なんだ?貴重な時間を割いてやってるんだ、お前にこの仕事は向いてない、さっさと帰れ。」

緊張で何も言えなかった僕に
武川さんは、あきれて、
仕事に戻ってしまった。




「その魔法は僕には効かない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

  • 水精太一

    OB訪問には当たり外れがあるものです。何の屈託もない人に当たり自分も何らかアピールさえ出来れば僅かではあるものの合否判定の良い材料となる事もあります。しかし世の中には他人を蹴落としてでも自分の居場所を守りたいと思う人が少なからず存在します。当たれば最後。ましてや良いアピールをすればする程自分のエントリーシートは後ろへ回されます。優秀かも知れない人物を自分の近くに置きたくは無いからです。凌太くんが出逢った最初の男性は前者。太陽のような明るさで緊張を絵に描いた凌太くんを和ませようとしてくれました。次にお茶を煎れた女性。潔癖症なのかも知れない凌太くん。出されたお茶に一度でも口を付ければ良かった。目の前に誰もいない時温かい飲み物は精神を落ち着かせます。対応した男性は凌太くんが興味を持った彼でした。緊張と緩和を繰り返して動揺した凌太くんは殆ど話しも出来ず。収穫は名前を知れた事だけ。落胆如何ばかりか。

    1
コメントを書く