Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

It becomes strong for you

俺は、あの日初めて誰かの為に泣いた。
全てが終わったあの日、冷たくなっていく伊集院さんの体をどうすることも出来なくて背負ってチャーチに戻ったあの日。
伊集院さんはチャーチの為に戦った。
1度、手を貸そうとした。

「...俺は...あなたの相棒です」
「...だからだ!」

そう言って突き飛ばしたあとに俺を見た目は緩んでいて、悲しそうで、諦めたような。
何とも言い表し難い目をした伊集院さんはそのまま1人で戦っていた。
それを俺はただ見守るしかできなかった。
それが悔しくて、何度も何度も飛び出して行きそうになった。

伊集院さんを死なせたくない。
伊集院さんと一緒に生きたい。

いつの間にか芽生えていたその感情を押さえつけて押し殺し、泣くのを堪えた。
全てが終わって、伊集院さんがゆっくりと崩れ落ちて行くのが見えて急いで駆け寄った。
テレビで見るような、本当にスローモーションだった。

「伊集院さん!伊集院さん!」

彼は薄ら目を開けて俺を見た。

「...どうして泣くの」
「だって...!」
「...これで僕はやっと終われるのに」

あぁそうか。

彼は元から死ぬつもりだったんだ。

「嫌だ...!どうして...!」
「...君のため、って誰かは言ったのかもしれない...。けど、これは僕のためだ」
「...伊集院さんの...?」
「...チャーチを...ひいてはこの国を...そして君を守って、僕の死ぬという願いが叶う...」
「...俺は...!伊集院さんに何もしてない...!」
「...僕には...充分過ぎるくらいだった...」

充分...?どこが、何が。
俺は何もしてない。ただ見守るしかできなかった。ただ足を引っ張るしか出来なかった。

それなのに。

「...もっと...!もっと色んなことしてあげたい...!なのに...!」
「...もういいんだ」

待って。

「...え...?」

その先は言わないで。
やめて。

「...僕を殺せ」

聞きたくなかった。
その言葉だけはあなたから聞きたくなかった。

「...嫌です」
「...明乃」
「嫌だ...!俺に...伊集院さんは...殺せない...!」

名前を呼ぶその声が弱々しくて。
消えてしまいそうで。
俺はあなたを名前で呼んだことがないのに。
あなたはずっと名前で呼んでくれたのに。
あなたから聞く俺の名前は...もう聞けなくなるなんて...!

「...君しかいないんだ」
「嫌です...!どうして...どうして殺さなきゃならないんですか...!」
「…僕1人だけが被るものでなければならないから。君が疑われたら…僕の全ては無駄になる」
「俺だって被ります...!伊集院さん1人に背負わせるわけには...!」

伊集院さん1人が被って、俺だけがのうのうと生きるなんて、そんなことはしたくない。できない。
俺は伊集院さんと逃げる生活でもいいとさえ思った。

「...サクラじゃ居られなくなるんだぞ。最悪死ぬ事だって...。それだけはやめてくれ」
「伊集院さんがいなかったら俺はいる意味なんて...!」

俺に生きる意味を与えてくれたのは伊集院さんだ。
その人がいなくなるなんて、考えられなかった。

「...君は、僕が初めて守りたいと...」
「...え...?」

伊集院さんはそれだけ言うと俺の肩を掴んだ。

「...頼むよ」

見つめてくる目は真剣そのもので、応えなきゃと思う反面、それに応えてしまったら、俺はどうする?

伊集院さんに銃を向けられるか?
伊集院さんを殺せるか?

俺には到底無理な話だった。

この人を手にかけることは出来ない。
俺は...俺は伊集院さんを殺せない。

俺は首を横に振って否定した。

「...無理です...!俺に...伊集院さんは...!」

悔しくて腹立たしくて泣いて否定するしかできなかった。

「一緒に...一緒に生きてください...!伊集院さん...!」
「...君は、君の...暁を...」

そう言って伊集院さんの手が肩から重力に逆らうことなく落ちていった。

「伊集院さん...?ダメです伊集院さん...!起きて...!」

急いで連れて帰る間にも、伊集院さんの体は冷たくなって、重くなっていった。
その重みがただただ悔しくて。
守れなかった悔しさと、自分に対する腹立たしさがあった。

チャーチに連れ帰り、俺の手元には伊集院さんが使っていた武器が残った。
最初はタグがよかったが、多分貰えはしないだろう。
手元になにか残っただけでも幸いだと思うしかない。
数日は部屋に帰っても伊集院さんがいない生活が酷く孤独に感じた。

「...あ、また持ってきちゃった...」

伊集院さんに羊羹とお茶を持っていくのが習慣になっていて、その癖はまだ抜けなかった。
伊集院さんの為に作っていた羊羹は沢山あった。種類も研究したりして好みを知りたくて作っていた。

「...もう、持ってこなくていいって...わかってるのにな...」

位牌も写真もない、あるのは伊集院さんが使っていた武器だけ。棚に置いてある武器の前にそっと羊羹とお茶を供える。

「...伊集院さん、また持ってきちゃいました。今日はウグイス豆の羊羹です。上手くいったんですよ。...伊集院さん...食べて欲しかったな...」

棚の前にしゃがんで手を合わせる。

「...伊集院さん、僕は強くなります。あなたが守ってくれた命を、伊集院さんの分まで生きて、戦って...理想の世界を作って、そして会いに行きます。...その時までにはもっと色んなの作れるようになっておきますね。今度は...今度会う時は...あんな寂しそうな目をしないでください。笑ってまた名前を呼んでください。今度は僕も名前で呼びます」

すると部屋のドアがノックされ、百瀬さんが入ってきた。

「訓練の時間よ?...いけそう?」
「はい、もちろんです!...行ってきます、藤さん」

こうして僕は藤さんの武器を扱うべく、今日も色んな人に訓練を手伝ってもらうのだった。
あの日僕の横を横切っていった優しい風が外の藤棚の藤を揺らしていた。

きっと、どこかで見てくれている。

そう信じて。

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