Bouquet of flowers to Messiah
新たな幸せ
—僕はもう、二度と離さない。
電脳世界を自由に行き来できるようになってからというもの、僕は度々結月の端末に忍び込んだ。
その時の結月の顔は暗くて、目も暗くて、返り血だらけで痩せ細った結月がいつもいた。
結月の任務が終わるまでは。
それまではチャーチに戻りたい。
帰ってきた結月を抱きしめたい。
電脳世界と肉体を行き来しながらは大変だった。だけど、結月とまた生きられるのなら頑張れた。
あれだけ動かしていた体も思うように動かなかった。手の動かし方、話し方、歩き方。全部元に戻すなんて難しい事だったけど、結月がいるから頑張れた。
任務が終わって結月に帰還命令が出たのは数週間後の事。でも、僕は体が間に合わなかった。電脳世界には定着できたのに元の体が動かせないなんて嫌だ。
そうワガママを言ってチャーチに僕は帰ることをやめて、結月の休暇中はずっと結月の端末にいて、一緒にいた。
たまに結月は布団をかけずに寝ることがあった。
『...もう、布団かけないで寝るなんて...』
そこで僕はとあることを思い出した。
—この姿になっていいこともあったけど、でも、僕は手が欲しいな。
手が欲しい。
あの人はそう言った。
僕も手が欲しい。
結月を抱きしめられる手が欲しい。
布団をかけないで寝る結月に布団をかける手が欲しい。
結月を助けられる手が欲しい。
そのためには頑張るのが、僕の今の仕事だ。
そして、とある日の事。僕は雪斗さんのPCに呼び出された。
『雪斗さん!』
「よぉ、有明。久しぶりだな」
『はい!なんの用事ですか?』
「残念ながら、用事があるのは俺じゃない」
『...へ?』
すると、雪斗さんの後ろから黒咲さんが申し訳なさそうな暗い顔をしていた。
『...黒咲さん?』
「...お前に伝えておこうと思って...」
そして聞かされた。
結月の左肩には十字架の焼印が2つついていること。それを押したのは黒咲さんだと。
「...もっと早く言うべきだったんだけど...」
『いえ、僕も色々ありましたから。...結月、何か言ってましたか?』
「『…俺の犯した罪と、使命を忘れない為に』、と...」
それは、僕が背負わせてしまったものだ。
僕が死ななければ結月はそんなのを押さなくてよかったはずで、背負わなくてもよかったんだ。
『...そ、っか…』
「...ごめん」
『大丈夫です。僕の責任、なので』
焼印なんて入れるものじゃない。
あれは...かなりの痛みを伴う。
安定するまでにも時間がかかるし、安定しても消えることは無い。
安定する前に結月は任務に行ったと言った。
「...バカはするもんじゃないんだよ…?」
でも、分かってる。
結月は僕が死んだことと、朝陽を殺してしまったことに罪と咎を持ってる。
それは僕が受け入れなきゃいけない。それに、そうさせたのは僕だ。
だから尚のことわかって当然なんだ。
やっと体が自在に動かせるようになったのは六十三日後だった。
チャーチに戻って久しぶりの部屋に入る。何も変わってないその部屋はどこか懐かしくもあり、そして、どこか寂しくもあった。
ドアが開いたら、僕はあの時言えなかった言葉を言うんだ。
「...おかえり、結月!」
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