Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

Request of the shadow and the future

「貴方に私のクローンを作っていただきたい」

急に来たその依頼人に俺は目を丸くした。
確かに俺はクローン研究の第一人者で、成功例も多い。現にここで働いている多くが俺の作り出したクローンでもある。

「...いや、それよりあなたは...」
「申し遅れました、私、警察庁警備局特別公安五係係長の一嶋晴海と申します」
「...サクラの人間か」
「えぇ、よくご存知で」

特別公安五係。この国のスパイ組織。
どうやって俺の事を嗅ぎつけたのかは知らないが、どうせ闇ルートで聞き出したんだろう。

「...詳しく話を聞かなければお引き受けはできません」
「そう言われると思いましたよ」

仕方なく一嶋を部屋に入れる。滅多なことがない限り部屋に入れないが今回ばかりは特例だ。

「...で、あなたのクローンが必要な理由はなんですか?」
「理由は簡単です。私がいなくなっても、チャーチが存続するように優秀な人材を作るのが必須でしてねぇ」
「...は?」
「第2の一嶋晴海が必要なんですよ」
「...サクラに優秀な人間はごまんといる。百瀬多々良、雛森雪、加々美いつき、有賀涼...それ以上に欲しいと?」
「彼らは彼らで優秀です。しかしながら彼らでは第2の私にはなれない。私のDNAを持つ者が必要なんです」
「...子を成せばいいだろ」
「そうも言えません。子どもは時間がかかりすぎる 」

あぁ言えばこういう...。
めんどくさいやつだな…。こういう人間は特に嫌いだ。

「...仕方がない、クローンは作りますよ。ただし、時間がかかる。早くて1年、長ければそれ以上。完成してからもここでしばらく俺の保護下でいてもらわなければならない」
「構いませんよ」
「何せクローンだ、何らかの形で欠陥は必ず出る。それがどんな欠陥になるか、俺にもわからない。それでもいいのか」
「えぇ」

とうとう根負けした俺は一嶋からDNAを採取して取りかかった。最初は小さな肉片から始まったそいつに、俺は「伊織」と名付けた。名前をつけちゃいけないなんて言われていない。成長は早かった。
半年で成人男性並みまで成長した伊織にたくさんの教育プログラムを施した。それはもちろん一嶋から出されたプログラムで、かなりの情報量がある。様子を見ながら流し込んでいく情報は、伊織をとてつもないものにしようとしていた。
時たま名前を呼んでやると分かっているのか反応するまでになり、状態が安定するまでにそこから1年かかった。
培養槽から出てしばらくは俺が付きっきりだったし、まずこんな状態でチャーチに送り出せるわけがない。慣れてきた頃には、俺の手伝いをするまでになった。だが、その頃から体調を崩すようになった。

...出てきたか、欠陥が。

必ず何かしら欠陥は出る。でも、伊織は最高傑作に近かった。

「...結局こうなるのかよ...!」

完璧じゃないことは知っている。でも、限りなくゼロに近くは出来たはずだ。

それでも残る欠陥バグ

それが伊織は薬が手放せないという欠陥。放っておけば組織自体が崩れて崩壊する。
実験で薬を打っても拒絶反応を起こされる。それで崩れても困る。
調整しながら薬を試して行った。嘘の思い出も植え付けた。それが罪悪感に苛まれても、そうするしかないのだと俺に言い聞かせた。

伊織が落ち着いた頃、また一嶋が来た。

「何の用ですか、伊織ならまだ無理ですよ」
「いえ、その事ではありませんよ」
「じゃあなんですか」

そう言うと一嶋は小瓶を取り出して目の前に差し出した。

「...これは?」
「私のメサイアのDNAです。クローンを作っていただきたい」
「...は?何を言って...」
「クローン同士でメサイアを組ませるんですよ」

耳を疑った。この人は何を言ってるんだ?

「...本気か?」
「えぇ、もちろん。ただし、少し注文がありましてね」

その注文は感情のない伊織を守るためだけの人形であること、戦闘に長けていること、死なない事。

「俺にただの木偶人形を作れって言うのか」
「できなくはないでしょう?」
「...分かったよ」
「そう言うと思っていました」

容姿にまで注文をつけてきて、その通りに遺伝子を組みかえた。そうして出来たのが衛だ。
衛には全てを教えた。どうして出来たかも、なんのために生まれたのかも、どんな存在なのかも。もちろん一嶋のプログラムにはない。後から怒られることは覚悟しておこう。

衛が培養槽から出て、しばらくしてから一嶋が衛に会いたいと言い出して会わせた。

「これは...注文通りですね」

衛をまじまじ見つめていた。
そんな一嶋を衛はずっと警戒していた。

「衛、確かに怪しいけど大丈夫、俺の知り合いだ」

一嶋の命令で衛は動く。これもプログラムにあったし、教育済みだ。

「...一嶋晴海」
「そうです、私は一嶋晴海です。衛、命令です、死んでも草薙伊織を守りなさい」

命令を受けた衛は頷いていた。こいつは何も知らないあいつと違う。全てを知っていて、全てを受け入れている。

「...分かった」
「頼みましたよ」

そう言って一嶋は満足そうに出ていった。

「...伊織は?」
「研究室にいるよ」
「...わかった」

衛はたまに白衣を着て研究室に潜り込んでいたりする。
まぁ見た目は派手だがそんなに目立ちはしない。
白衣を着て出ていった衛を見送って、1人ため息をつく。
虚空に消えたため息は2人のこれからを表しているようだった。

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