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Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

Saving is the light of the Moon 3

「…晴れないんだ、闇が…」

雪が語り始めると、雪の目に涙が溜まりだした。
涙、と言ってもそれは赤かった。血の涙、だ。
それを見て瞬時に僕は悟った。

雪は僕に全てを伝えようとしてくれてる。痛いことを教えてくれようとしてる。

「俺は...何も無い闇をさまよった。何も見えない、何も聞こえない…声すら出せない。けれど、突然目の前に見覚えのある光景が蘇る。あの日…律と背中合わせで敵を殲滅していた時…律が俺を撃つ。俺は倒れる、律は俺の頬に手を添えると離れていく...」

ゆっくりと血の涙が白い雪の頬を伝う。
握りしめた僕の手にその血は雫となって落ち、伝う頬には血の跡がくっきり残る。

「痛みを堪えて、血が溢れたってあいつを呼んだ。…あいつは振り返らなかった、戻らなかった…!そのまま俺は力尽きる、そして虚無に戻されてまた律に殺されての繰り返し…それを数え切れないくらい繰り返した…それから目が覚めても、律がした事は消えない...」

僕はそっと指で血を拭う。
さっきから心が痛い。雪が抱えてきた痛い棘が僕にも刺さってくる。

「…どうして俺を撃った、どうして俺を捨てた…?それだけがただひたすらに俺の心を突き刺した。何度も…やめてくれって言うくらいに。それでも、お前がいたから大丈夫だと…思ってた…ごめん、尋…」

雪が俯いて嗚咽をこぼし始める。血の涙が僕の手を赤く染める。聞いているうちに僕も自然と涙がこぼれた。
涙が止まらなくて、痛くて、どうしようもなくて。
分かってほしい、わかって欲しくない。言いたい、言えない。たくさんの気持ちが溢れすぎて、雪も自分の事が分かっていない。
あの時、九条さんのお墓を見ていた雪の目は優しいんじゃない、果てしない虚無だったんだ。
どこを見つめるでもなく、ただただ虚無だったんだ。

「...ごめん、ごめんね、雪...僕...」
「尋...」
「ずっと、ずっと...分かろうと思えば出来たことなのに...分かろうと努力すれば...出来たはずなのに...!1人でこんなに痛いのを抱えてたんだね、苦しんでたんだね…分かるの遅くなってごめんね…」

雪が顔を上げる。僕は雪を真っ直ぐ見つめる。
いつの間にか雪の涙は透明になっていた。血の涙じゃなく、普通の涙。手を握ったまま立ち膝をする。雪の額に自分の額を合わせた。

「...ねぇ、雪」
「...ん?」
「...僕達、1からやり直そうよ」
「1から...?」
「そう、1から。お互いのこと、ちゃんと全部話そう。抱え込むのやめて、隠すのやめて、痛い部分も、そうじゃないのも全部、全部話をしよう?」

...分かりたい。理解したい。この人の全部を。
抱えてきたもの、隠してること、全部全部。受け入れたいんだ、雪の全てを。

「…きっと、俺は死ぬまでこの悪夢からは逃れられない...」

ゆっくり俯きながら雪が語り始める。

「棘が抜けても、その穴は埋まらない。…でも、今度こそ…お前がいれば大丈夫って言いたい。
もう血の涙はいらない…俺が流すのは澄んだ、人としての涙だ。絶望は律が与えた、なら尋には希望を…お前は俺の希望だ、尋。...ずっと、俺の隣で笑っていてほしい。
そうすれば、俺も笑える…やっと、心の底から」
「...うん」

そっと雪を抱きしめた。
雪も玉座を降りて腕を回してくれる。僕は優しく頭を撫でて寄りかからせる。

「俺は、この絶望を受け入れる。逃げられないなら立ち向かう。だから、お前は隣にいてくれ」
「勿論だよ。雪が散る時は、僕も散る時だよ。ずっとずっと一緒にいる。もう怖くない。...帰ろう、雪」
「...あぁ」

そう言うと周りの闇が一気に消えた。
辺りは真っ白な光に包まれる。

「あーあーぁ、ここも勝っちゃったぁー、つまんないのぉー」

雪のいない玉座にそいつは片膝を立てて座っていた。

「お前は一体...」

雪が僕から少し離れてそいつに問いかける。

「僕はNIGHTMARE、君達の悪夢だよぉ?...ここは居心地良くないなぁ。希望なんてなきゃいいのにさぁ」
「そんなこと...!」

僕が言いかけるとそいつはまっすぐ僕の方を指差した。

Der junge Vogel will die Welt des Lichts雛鳥が望むのは光の世界
「...へ?」
「出口はそっちだよぉ?...もう闇に堕ちてこないでよねぇ?僕は大歓迎だけどぉ」
「誰が堕ちてくるか。二度とごめんだ。それに、俺はもう二度と堕ちない。希望がいる限りな」

雪が強い目をしている。
暗い目じゃなくて、すごく強い目。

「戻るぞ、尋」
「...うん!」

指さされた方向に手を繋いで歩いていく。

僕達はもう大丈夫。

確証はないけれど、根拠はないけれど。
でも大丈夫。
2人なら一緒に光の中を歩いて行ける。もう暗闇に落ちる事はない。
もう見失わない。

力強く歩いて行ける。

そんな気がしていた。

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