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Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

Black Gemini〜Black sea ep.2〜

そしてしばらくしてから九条律くじょうりつという人の組織の傘下になった。そこは報酬も良かった。システムメンテナンスとハッキング全般をこなした。何も干渉してこなかった。

でも、その日は突然訪れた。
尋さんが九条律と対立した。そしてBlack Boxは九条律の傘下から抜けたあと、尋さんがいなくなった。
それは俺達が12歳の時だった。

「尋さん...?」

朝起きると1枚の置き手紙を残して尋さんは消えた。

【海斗、愛斗へ
君達を置いていくことになりました。ごめんね。九条さんに頼んであの場所だけは残してもらうように頼みました。必ず迎えに来ます。その時まで、無事でいてください。...本当にごめんね
                                                          前谷尋】

「え...どういうこと...?」
「僕達...尋さんに置いていかれた...?また...?」
「でも...迎えに来るって…」

置いていかれた。

その衝撃に俺たちはただ立ち尽くすしかなかった。
俺たちは何も出来ない。ただ今はあの場所で俺達ができることをするだけ。
そう言い聞かせて俺達はあの場所で来るのを待った。

尋さんがいなくなってしばらくしてから、見知ったアドレスからメールが来た。それは俺達でしか解けないロジックになっていて、これには見覚えがある。

「...キング...?」
「海斗、どうしたの?」
「キングからメールだよ」
「キングから...!?」

ロジックを解いてメールを見ると、そこには仕事の依頼だった。
昔、3人で最高性能のクラッキングシステムを作ったことがある。犯罪で使えば捕まるようなシステム。それを受け取りに行くから完成させてほしいと。そしてそれを渡してほしいと。期限は4日後。

「4日後...無理だよ、僕達にできっこない...あのプログラムだって1ヶ月かかったのに...」
「...やるしかない」

4日間詰め込みでシステムを組み上げた。3人で作り上げたものよりももっと高性能なシステムを。
そして、4日後、プログラムは完成した。
ハッキングしているカメラを見ながら、俺達はいつくるのかを待った。
今か今かと待ち構えていると、黒い服を着た人間が2人入ってきたのが見えた。
そして歩き方ですぐに分かる。あれは、尋さんだ。

「...海斗、来たよ」
「だな。...誰だ後ろの...」

俺達は銃を構えて入ってくるのを待った。
いつ入ってきてもいいように、そしていつでも攻撃できるように。

愛斗を守る。
それがキングであろうと、誰であろうと。
認証システムが解除されて扉が開く。

「随分薄暗いわねぇ…」
「そんなもんですよ、ここは」

静かに銃口を2人に向けて睨みつける。

来ているのは尋さんだということは知っている。でも、後ろにいるのが怪しい。
だから警戒するのだ。
それを察したかのように、尋さんは声をかけてきた。

「…僕だ、ブラックキングだ、向けているものを下ろしてもらおう」
「…尋か」
「久しぶりだね、僕の忘れ物を取りに来た。頼んだものはやってくれた?」
「あれか、勿論、あんたの頼みだからな。…今のこの組織の情報を全部詰め込んだ、その上でプログラムを組んでおいた。…持っていけ」

俺はメモリを投げた。
尋さんはちゃんと受け取ってくれた。

「…ありがとう。またそのうち連絡する…百瀬さん、行きましょう」

そう言うと尋さんは出ていった。

「ねぇ海斗、この組織の情報って...?」
「九条律のこの組織の事だよ。...尋さんは警察庁警備局特別公安五係にいるんだ」
「それって...」
「そう、チャーチ。国籍も戸籍も抹消されて、特別殺人権が与えられるスパイ集団の候補生」
「...連れてったのって...」
「白王と係長の一嶋晴海」

それから愛斗に説明した。
尋さんがサクラ候補生としてやっていること、メサイアがいること、そしてそのメサイアの前メサイアが九条律であること。
そして、既にここに九条律はおらず、俺達は捨てられた存在だということ。

「捨てられた...?」
「九条律はもうここにはいない。だけど、居場所は知ってる。俺達が管理してた、あの工場だよ。研究施設を隠してる。ここを出よう、愛斗。ここを出て、俺達2人で生きよう」
「海斗...」
「ここにいたら俺たちは見殺しにされて終わりだよ。もう誰も信じちゃいけない。信じられるのは、俺達だけだよ。絶対愛斗を守ってみせるから」
「うん...絶対だよ...?何があっても...離れないで、お兄ちゃん...」
「分かってる...」

全てのデータを引き抜いて、もぬけの殻にしてから俺達はいろんな組織を転々とした。
時には北方へ、時には欧州の王宮へ、そして時には北米での情報の橋渡しとして。どこに行くにも俺達は一緒だった。子どもという立場を利用して、機密を集めた。それぞれの国の機密を手に入れると俺たちはどんどんお尋ね者になって狙われるようになった。時に銃弾の雨が降るような場所に行って死ぬ思いをしたりもした。あの事件が起きるまではそれでいいと思っていた。

14歳になった時に日本に戻ってきた。相変わらずのそんな生活が続いた。さすがに銃弾の雨の中をくぐることはしなかったけど、それでも危険と隣り合わせだった。
そして事件は起こる。
その日も機密を探って1人の政府高官と約束があった。特殊な性癖を持っていると調べがついていたから一等気をつけていたはずだった。

愛斗が襲われた。
海外で何度か枕営業みたいなこともしてきた。枕営業は情報を取るだけ取って殺すことはせずにスタンガンで眠らせた。最後まで手を出させるようなことは俺がさせなかった。

それなのに。
日本だからって油断した。

最後まで手を出されて、愛斗が泣き叫んでいた。それを見た俺は知らず知らずのうちに隠し持っていた銃を手に取り、政府高官の頭の後ろに突きつけて引き金を引いた。
俺は初めて人を殺した。殺人に手を染めた。
泣きじゃくる愛斗に服を着せて気がつかれないように逃げた。住処にしている廃工場まで来て、何とか愛斗を宥めようとその日は抱きしめ続けた。

「...海斗...」
「なに...?」
「...僕の事...上書きしてよ...」
「...へ...?」
「...やだよ...あんな...あんなのに...触られて...暴かれたままなんて...!今までもあったけど…こんなの...やだ...」
「でも...」
「お願い」

俺の腕を掴む愛斗の手は震えていた。

何が愛斗を守るだよ。
離さないって、守るって誓ったはずなのに。
守れてないじゃん、俺。

愛斗の手を握ってじっと見据える。

「...ほんとにいいの?」
「...うん...」

そっと唇を重ねて、愛斗の身体全てを上書きした。
それからというもの俺達はさらに離れることは出来なくなった。偶にその夢を見て求められることがある。その時は望まれたようにしている。

愛斗を傷つけたのは俺だ。
油断した俺が悪い。
もう油断しない。もう愛斗を傷つけたりしない。

それからしばらくして、日本の違う組織に属して北方と手を組んでいる宗教団体と製薬会社に業者に扮して潜入している時のことだった。

「柚原海都、柚原愛斗だな」

急に名前を呼ばれた。

...知らない声だ。でも、こいつの情報は知っている。

「...あんた誰」
「正体は後ほど、Black boxの黒王がお呼びだ」
「…あの人が…ほら、インカム貸しなよ」

Black box、黒王。

こんなの1人しか居ない。

インカムを借りて久しぶりにその名前を呼ぶ。

「...黒王」
『...久しぶりだね、Black sea、Black lover』
「あんたからその名前聞くの久しぶりなんだけど」

あぁ、変わらない。
この人はあの時からずっと。

それから協力者として情報を渡した。
俺達をチャーチに拾い上げる、という約束付きで。
そこには顔見知りがいた。みんな俺達よりも歳上ばかりで皆が俺達のお兄ちゃんだ。

ずっと愛斗と一緒にいられる。もう離れる事も、いつ襲われるかも分からない恐怖に怯えて眠ることもない。

「...海斗?どうかした?」

ぼーっと昔の事を思い出していると愛斗が心配したのか顔を覗きこんでいた。

「なんでもない!」
「行こう、宋流兄さんと智晴兄さんが待ってるよ」
「うん、今行く!」

今日も俺と愛斗はサクラに、お互いを支えあえるメサイアになるために部屋の扉を開けた。

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