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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第六十話 「魔剣、剣聖の手元にて」

剣聖はサテラを龍帝の元に置いて戻ってきた時、驚いた。あの大軍が全員気絶しているのと、地面がクレーターの様に抉れていたからだ。

「おう、剣聖。今更来たのか」
「えぇ。終わったんですね…。ていうか貴方、容赦が有りませんね」
「あぁ。俺はそう言う事で加減するの大嫌いだからな!だけど結構手加減した方だぜ?一人殺した奴以外は全員気絶だ」
「…おぉ。凄いですね。ていうか『戦殺』は何処へ?大物と闘っていたんですけど」
「ん…。なんか黒いもんがぶっ飛ばされるのは見たが、それ以来動きが無いな。直ぐに帰ってくると思ったんだが」
「何かあったかもしれません。行きましょう」
「あぁ」

剣聖とクレイが黒くなった砂浜を走る。すると、真っ黒い砂の上を赤くして倒れているモチヅキと、緑色の装束に身を固めた女、旧英雄が居た。

「師匠!」
「あら?助けが来たのかしら」
「貴方が彼をこんな事に…?」
「いいえ?私は何もしていない。彼は自滅したんですよ」
「自滅…だと?師匠が?」
「えぇ。私の加護を知らずに居合斬りをしたんだけど、見事に自滅していったわ。それに、彼は素手で八十九級に触れてしまって毒に蝕まれている。絶望的よね」

そう言って旧英雄は嗤う。ケタケタと、気味悪く。クレイは剣を握り、今にも飛び出しそうだった。剣聖はそれを見て静止させる。

「剣聖!なんで止める!?」
「分からないんですか?彼女の加護は恐らくあらゆる攻撃を跳ね返す物です。貴方が今そうして飛び出して首でも攻撃したら…貴方も『戦殺』の二の舞になるんですよ?」
「……っ。だからってなぁ!!」
「いいですから!此処は私が引き受けます。『戦殺』を蝕む毒だって、癒してみせますから!」

旧英雄は剣聖がそう言った瞬間、少し興味深そうな顔をした。
剣聖がモチヅキに近づき、背中に手を添える。そして、ブツブツと何か唱えた後、目を見開き、言う。

「事柄網(ことがらもう)の緩解」

すると、たちまち傷は塞がり、顔色が真っ青になっていたのも普通の顔色に戻っていった。モチヅキは驚いた様に目を見開き、起き上がる。

「傷が塞がっている……だと?」
「大丈夫ですか?体に異常はありませんか?」
「少し頭痛があるくらいだ。前よりはマシだ」
「ちょっと!何をしたのよ!?」
「え?あぁ、これですか?『改変』のおまじないですよ。いつ習得したのかは覚えてませんが、いつのまにか出来るようになってました。それで、今『戦殺』に使ったのは、『過去改変』です。毒を受けた、攻撃を跳ね返され、致命傷を負った、という過去を毒は少し進行が遅い、致命傷も負わず、そのまま攻撃は通ったと言う事に改変しました。つまりは…」

剣聖がにこりと笑い、少し言葉を止める。すると、旧英雄はモチヅキがさっき受けた所と全く同じ所から血を噴き出した。

「がはっ…!」
「居合斬りは普通に貴方に通ります。この通り、ね」
「剣聖!本当に…」
「えぇ。『戦殺』の…いえ。望月さんを連れて帰ってください。これは私達が請け負うので」
「私達?……分かった!負けんなよ!」
「私を誰だと思ってるんですか?剣聖ですよ」

剣聖が後ろに居るクレイとモチヅキに言う。クレイはそれに対して頷き、モチヅキに肩を貸して戻っていった。
剣聖は前を向き、既に回復を終えた旧英雄を見る。旧英雄は剣聖が『改変』の使い手という事を知り、少し慄いている様にも見える。

「そういえば、貴方は真打が見たい、と言っていましたね」
「……えぇ。さっきは随分と手抜きで来ていたものね。そろそろ本気の貴方が見たいわ」
「そうですか。では、そうですね。見せてあげましょうか、私の真打を。ただ、絶望するかもしれませんよ?」

そう言って、腰にぶら下がった黒い剣を手に取り、前に翳す。剣聖には少し、合わない大太刀だ。

「それでは、抜剣…」

少し鞘から刃が垣間見えた。その刃は柄と同じ黒い色をして光っていた。それを見た、旧英雄は目を見開く。しかしそれは嬉しさや、侮蔑ではなく。驚きによるものだった。

「嘘…。なんで!?」
「気付きましたか旧英雄。そうです。これ…いえ。彼はその災害を呼び起こすという逸話から、旧英雄に属する様になったがその特質によりだれも使う人が居ず、遂には旧英雄にさえ捨てられた魔剣です」
「どうして?………あんたはそんなに小さく無かったはずよ!」
「復讐の念、怨嗟の声。様々な怨念を食いに食い続けて、確かに肥大化しました。それはもう巨人でも持てない様な大きさまで。しかし、『戦殺』によってこの剣の保護を頼まれた私は彼の縮小に成功。此処まで来てます」

刃が半分ぐらいまで出てきた。周囲は謎の気の流れにより、砂嵐が起きている。その砂嵐は真っ黒だったが。

「彼は、私を通じて様々な人間と接しあいこの世代の人間への憎悪は完全になくなりました。しかし、旧世代の…そうです。旧英雄である貴方達への憎悪は未だに根強く残っているのです。そう…旧英雄が殺せる、と思うと私の身体を奪ってでも殺したくなるぐらいには!」

鞘から剣が完全に抜けると、同時に砂嵐がピタリと止んだ。剣聖は前にかざしていた大太刀と鞘をだらりと下げ、がくりと首を下げた。暫くして、剣聖が顔を上げた。

「…っ」
「やぁ。久し振りだねゼルシア。五十万年前ぐらいかな?」
「そう、ね…」
「うーん?いつもの元気が無いじゃないか。それじゃあ、全く…」

剣聖が絶対にしないような悪どい顔で言い放つ。

「君を楽しく殺せない。もっと活きが良くないと」
「…っっ」
「ま、いいか。僕もこの娘のお陰で結構優しくなってるからね。元気が無いからってわがままは言わないさ」
「…」
「おっと、怖がらせ過ぎちゃったかな?ははは!全く根は弱いんだからさ、さっさと降伏しちゃいなよ。そしたらこの娘が殺してくれるよ」

そう言って剣聖は胡散臭い笑顔を作り、ゼルシアと呼ばれた旧英雄に近づき、肩に剣を刺した。剣は深くまで入り、彼女の肩を貫いた。刺されたゼルシアは声にならない悲鳴を上げた。

「良かったね。僕は元が剣だから上手く身体が動かせないんだよ。だからこんな嫌がらせしか出来ない。残念だなぁ。本当に残念だよ。……ん。あぁはいはい。交代の時間だ。じゃあねゼルシア。まぁ、言いたい事は言ったし、満足だよ。本当は暴走するとこだけど彼女のお陰で結構我慢できる様になった辺り成長したでしょ?ははははは!」

そう言い残して、またがくりと首が下がった。この数分、とてつもない殺気と狂気に辺りが取り巻かれた。しばらくすると剣聖が顔を上げた。

「旧英雄を殺す旧英雄。如何でしたか?」
「……」
「私は彼の復讐を成就させたいんです。そうすれば彼は幸福になるから」
「………そう」
「だから、貴方を殺します。彼が思う殺し方は出来ないと思いますが…ね」

「精一杯抵抗してください。これは唯の遊びでは無いのですから」

剣聖はそう言って冷ややかな目で怯えるゼルシアを見下ろした。

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