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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第五十九話 「豪剣、風の如く」

 サテラとの一戦でボロボロになった偽物は顔に血筋を浮かべて、後ろにたじろいだ。

「どうした?俺達が来たのがそんなに驚きか!?」
「うるさい、あまり騒ぐな。軍勢(あいつら)が気付くだろうが」
「いや師匠。サテラが此処まで善戦したんだし、軍勢(あいつら)も気付くだろうぜ?もしかしたらもう一人の奴も気付いてくるかも知れねえ」
「あ、あぁあ……そうだ。そうか、奴らを使えば…ふふっ……ははははははははっ!!」

 偽物が高々に笑う。するとその高笑いに呼応するかの様に物凄い勢いであの大軍が押し寄せて来た。

「まあ、一回一回ぶっ飛ばせば良いし、あいつは師匠がやってくれるだろう」
「任せろ。因果応報を使わずとも急所を抉ってやる」
「…」
「んじゃ、剣聖が来る前に終わらせちまうか」
「あぁ」

 二人がその場から飛ぶ。その二人を追う様に大軍が押し寄せる。『戦殺』はそれを無視して、前方の標的に向かっていく。
 しかし、それを無視して大軍はクレイの方を執拗に狙い続ける。届くはずもないのに。それを見たクレイはニヤリと笑みを零し、その大軍の中に落ちて行った。

「『霧散焼靆(デトネーション)』!」

 一人の頭に手を乗せて大爆発の魔術を行使する。すると、その一人の頭が一瞬物凄く膨らみ、次の瞬間大爆発を引き起こした。
 そしてその爆風により、全員が円形状に吹っ飛ぶ。これにより、クレイはその大軍の中心に着地する事が出来た。

「さぁ、大軍は俺が一掃してやる!」

 赤く赤熱する真剣を手に、クレイが吠えた。

 _____________

 一方、『戦殺』の降臨者ことモチヅキは偽物の魔神王と相対していた。爆風には少しだけ巻き込まれたが。

「まぁ、なんだ。奴はああいう奴だ。ほっとけ」
「…あぁ」
「さて、では俺も始めるとしよう。戦意を消失しない者は必ず殺す。それが俺の降臨者としての務めだからな」
「なら何故今戦意を剥き出しにしている爆弾魔を殺さない。お前達降臨者は敵味方関係無い筈だが?」
「ハッ、順序と言うものだ。奴らも争いが終わり次第殺す。今は仮として魔神王に助力してやってる、がな」

 それを聞いて、魔神王は少しだけ目を見開き、直ぐに笑みを浮かべた。そして言う。

「ならば、喜べ。お前はもう助力する必要はない。好きに奴らに剣を振るうがいい」
「ほう?何故だ?」
「魔神王は俺が喰った!内部から少しずつ!記憶、魔力、身体!全て!全てを喰い、奪ったのだ!ははははははは!」
「…!………ならば俺が斬る相手では無いな。いや…その魔神王という皮は剥がしといてやるとするか」
「は…………え?」

 モチヅキは剣を鞘に収め、目を閉じて、直立した。魔神王ではない何かはそれを訝しげな表情で見る。すると、モチヅキはブレた。

「!…おぇっ!!?」

 腹に何十発もの殴打を食らったかの様なダメージを貰い、少しのタイムラグが発生して飛ばされる。数十メートルは飛ばされ、少し転がった後瞬時に起き上がる。すると、もうモチヅキは間近まで迫っていた。
 モチヅキは閉じた拳を開き、まるで手刀のようにして、さらに追撃を加える。

「(手がブレて…十…百…いや数えられ……!)」

 凄まじいスピードで様々な箇所を殴る。急所問わず、可能な限り抉るように。

「……九百九十九。お前は、『救世』の降臨者ラルダが殺す。覚えておけ」
「…ぐげっ…がふっ」
「……千!」
「ふぐっ!!」

 千撃目は正拳突きだった。しかし、既に様々な箇所を一秒の休みも無く抉るように殴られ、立っているのもやっとの彼には到底それを避けられる筈もなく、見事に鳩尾へと入った。
 鳩尾に拳を食らった何かははそのまま、バシュンッ!という音を立てて、遥か彼方へと飛んで行った。

「剣聖が来る前に終わったな……さて…俺もクレイの加勢と行こう」
「させないわ」

 女性の声がして、モチヅキはその方向へと振り向く。そこには緑色の装束に身を固めた女性が立っていた。

「メルドギラスは…何処かへ飛ばされちゃったのね」
「何者だ貴様……」
「私?そうね…あなたがさっき彼方へ飛ばした奴の仲間、って言ったら分かるかしら」
「俺の敵ということか。ならば殺す」

 そう言ってモチヅキは柄に手を伸ばす。しかし、それを見た女性は慌ててそれを制止した。

「ま、待って。これだけは言わせて。その後は好きにすれば良いから」
「なんだ…」
「貴方は間違った事をした。最上位旧英雄八十九級メルドギラスを素手で撃退したのには驚きだけど。その選択は間違いだった」
「どういうこ……っ!!」

 モチヅキは心臓付近を抑え、膝から崩れ落ちた。段々と顔色が蒼白に変化していく。そんなモチヅキを見下ろし、女性は側から見れば狂気に満ちていると言われるであろう顔をして言う。

「八十九級の加護は『蝕侵』。メルドギラスの身体に触れた者は、必ず劇毒に蝕まれて死ぬ」
「死ぬ……そうか、死……か」
「余命時間は大体20分ぐらいかしらねぇ?あ、解毒魔術を掛けてもらおうなんて、考えちゃダメよ。解毒は毒が回るのを促進させる。死を待ちなさい」
「ふふ…ふ…ふふっ…」
「何よ」
「20分の間…俺が何もせずに…死を待つ…だけだと…思…うか?」

 モチヅキがフラフラしながら立つ。息も荒く、顔色も悪い。さっきのようにはいかないだろう。だが、

「貴方、まだ…?」
「他の奴らに手間を掛けさせる…か。俺は…お前を道連れに…ぐっ…」
「…!」

 一つ、風が過ぎていった。その風が通り過ぎた時にはモチヅキは剣を鞘から出し、居合斬りを済ませていた。明らかに女性に剣が通り、殺せる距離。なのに、剣は確実に女性の腰から肩を通っていたのに。
 女性には傷一つ無く、ニヤけている。対してモチヅキは、腰から肩に掛けて、大きな切り傷を負い、血を吹き出して倒れた。

「残念ねぇ。私が普通の人間だったら殺せていたんでしょうけど非常に残念ね」
「……な…ぜだ」
「あら?まだ生きていたのかしら。ちょうど良いわ。教えてあげる。私、上位旧英雄五十四級の加護は『全反射』。私に物理及び魔術などの手法で傷を負わせようとした時、それをそっくりそのまま跳ね返すの。だから貴方は私に居合斬りをかましたけど、私には傷一つつかなくて貴方にダメージが飛んだって訳ね。分かるかしら」
「…………。ふぅ………はぁ…」
「どうやら、今はそれどころじゃないみたいね。良いわ。私が貴方の死ぬ様を見ててあげる」

 五十四級は笑いながらその場にかがんだ。モチヅキは薄れつつある意識の中、なんて悪趣味な奴だと強く思った。

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