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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第五十五話 「戦禍の廃沼」

 砂煙が上がる中、旧英雄がほくそ笑む。その様子がどうも、不気味で、とても腹がたつ。あの清々しい顔芸はどうしたらできるのか教えて欲しい。

「クレス、この各所から臭ってくる腐った様な匂いは…?」
「あぁ、間違いない。果物が全て腐敗した匂いだ」
「あの上位旧英雄は『腐敗(アシッド)』の使い手ということですかね?」
「そう言う事で良いらしいな」

 二人は早速構えている。この二人はこういう時は誰よりも迅速に行動するな。じゃあ私も動くとしよう。サテラとチャゼルを巻き込まない様に避難させないとね。

「よいしょっと」
「あれ?どこ行くのだ?」
「私達を連れてどうするんですか先輩?」
「なるべく距離を取るよ。取り敢えず剣聖とクレスの邪魔にならない様にね」

 私はチャゼルとサテラを担いで走る。なるべく海側に逃げた方が賢明か。確か、クレイさんと『戦殺』が居るらしいし。
 ふと私はちらりと剣聖とクレスの方を見ると二人と目が合った。それを確認した二人はコクリと頷いた。まるで二人を頼むと言わんばかりの眼差しだ。
 勿論、請け負うとも。
 私は足に『霹靂』の魔力を込めて全速力で走る。一歩、二歩、地に足がつく毎に速度が増していくのを感じた。

 _______________

「さて、ラルダは無事逃げれたみたいだな」
「そうですね。彼女には戻ってきてくれると嬉しいですけど」
「ま、その時までは持ち堪えるぞ」
「はい」

 剣聖とクレスは剣を抜く。その様子を見て旧英雄は少し困った顔をして辺りをキョロキョロと見渡した。

「戦う気満々ね。そういう人は大好き。しかし…少し暴れるには狭すぎでしょ?どれ…」

 旧英雄が右手を前に突き出した。すると、みるみるうちに彼女の周りが音を立てて溶けていった。溶けているというより、腐り果てて、塵になっていっているのだ。人は腐敗せず、建造物、街道を特定して腐らせていき、たちまち、超広範囲の円形状の荒野に成り代わった。

「何もかも腐らせるんじゃなく、特定の物質だけを腐らせたのですね。他の『腐敗』使いとは違うようです」
「あら、私をそこらへんの『腐敗』使いと同じにしないでくれる?他の旧英雄(どうほう)よりは少し地味だけど、あくまで私は『腐敗』の原点なんだから」
「それは立派な事ですね。そんな方と相対出来るなんて嬉しい限りですよ」

 剣聖と旧英雄は微笑む。クレスはそれを見て少しばかり悪寒を感じた。言い寄れぬ不気味さがあったからだ。旧英雄が剣聖に近づき、向き合う。

「私と相対して嬉しいなんて言うの、貴方ぐらいしか居ないわ」
「そうですかね?私は強い人と相対するのは好きですよ」
「そう。貴方とは楽しくやれそうね」
「えぇ。私もそう思います」

 その瞬間だった。ガキンッという金属音と共に、旧英雄と剣聖は後ろに後退した。何かと剣がぶつかり、吹き飛ばされたのだ。旧英雄は、顔や服に泥の様な物を付けて立っており、一方剣聖は剣先が腐った剣を見て困り顔していた。旧英雄が手に赤黒い泥の塊を作り出し、剣聖に向かって走る。直ぐに剣聖は剣を捨て、新たな剣を二本精製してその接近に備える。距離を詰めた旧英雄は手に持った泥の塊を殴りつける様にして突き出す。それを剣聖が身を翻し、泥の塊を手ごと切り落とす、筈だった。

「ちっ!なんだあの泥は!」
「ヒヒっ!『腐穣廃界』!」

 確かに剣は、旧英雄の手元を狙っていた。しかし、剣の刃がその泥の塊に触れた瞬間、瞬く間に剣は塵に変わっていき、あった刃は消え失せた。剣聖は足元に何かを感じ、後ろへと飛んだ。

「泥沼っ!いえ、あれは!」
「ねぇ、いつまでその脆い短剣で突っかかって来るの?」
「…?」
「貴方が腰に下げてるその長身剣。それは貴方の真打よね?」
「……」
「その真打を抜かないって事は、まだ本気を出してくれて無いって事よね?」

 剣聖の長身剣がカタカタと振動している。旧英雄が来た時よりも激しく。剣聖はその剣をちらりと見て、首を振り、言った。

「駄目です……彼は抜けないです。私は…」
「そう。なら抜かなきゃいけなくなる様な状況にしちゃいましょう」

 旧英雄はそう言って、ニヤけた。そして、バッと手を上にあげ、叫んだ。

「沼よ拡がれ、大地を吞め、総てを腐敗しろ!」

 小さな沼はその叫びに呼応する様に、ゴポゴポと音を立てながらその面積を広げていった。さっきまで、地面だった場所がどんどん赤黒い泥に覆い尽くされていく。

「『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)・悶(ブラスト)』!」
「クレス!」
「あぁ!沼はこれで一定時間進まない!今のうちに海に出るぞ!」
「はい!」

 沼は瞬時に凍結し、その侵攻を止める。それを好機と思った二人は残った建物の上に飛び乗り、走った。あの旧英雄は追ってくる事はなく、そのまま、海岸に辿り着いた。砂浜には大量の人がいた。避難が早い事だ。

「まだ安心出来ないが、一先ずは…」
「足止めって所ですね…」

 _____________

 剣聖達が逃げた後、それを見て旧英雄、ゼルシアは不敵に笑う。

「一先ず、あの二人はこう考えるだろうね。海岸に逃げれば取り敢えずは安全だろう、と。しかし…」

 彼女はそう言いかけ、後ろを振り向く。其処にはかの魔神王が歩いて来ていた。正確には、魔神王の骸が。

「寄生は終わったかしら?」
「あぁ。だが、六人程逃したがな。あれが魔神王の精鋭って奴かね」
「灰髪の幼女と黒髪の男二人、そして龍帝ね。あと『救世』の降臨者に…」
「後一人は良いだろう。まぁ良い。剣聖と月神は逃したのか?」
「まぁね。だけど向かった方向には貴方が寄生して完全に物にした人達がいる。此処に逃げ場なんて無いって、あの二人は直ぐに気付くでしょうね」

 五十四級と八十九級。二人の旧英雄が笑う。

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