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部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第五十四話 「災厄の飛来」

 其処は魔神王の玉座。いつも魔神王が民の為に考え、尽くしている場所。それは今日も今日とて変わらない、筈だった。
 それは魔神王がいつも通り玉座に座って、今日はどの様にして民を守っていこうかと考えようとした時だった。

「っ…?」

 彼は突然身体の痛みに襲われた。無数の何かが身体の中で蠢くような気持ちの悪い、鈍い痛み。それに彼は耐えられず、玉座から崩れ落ちた。
 今はまだ夜明け前で誰も居ない。そんな静かな空間で、彼はぽつりと呟いた。

「俺、死ぬのか…。最期に、ラルダか、誰でも良い。誰かに見ていて欲しかった」

 それ以降、彼が動く事は無かった。彼は静かな空間で静かに息を引き取った。
 その後だった。もはや遺体となった魔神王の身体の中で蠢く者が有った。ぐねぐねと気味悪く動くそれは、遂には魔神王の身体を突き破り、その姿を現した。

「ようやくお目覚めかしら?八十九級」
「…あぁ」

 八十九級と呼ばれた者が声のする方に目を向ける。其処にはさっきまで居なかった筈の女性が立っていた。緑のローブを羽織った目付きの悪い魔法使いが。

「一応魔神王を媒体にしたけど調子はどう?」
「悪くない。此奴の力、魔力、姿、声。全て戴いた。次に行くとしよう」
「寄生の力は怖いわね。最上位に入るのも分かるわ」
「ふん、八十八級の奴の方がえげつないぞ」
「本当ね。半龍人なのにどうしてあそこまでなれるのかしら」

 そんな会話をしながら、二人は王城から姿を消した。上位旧英雄第五十四級、ゼルシア。最上位旧英雄第八十九級、メルドギラス。
 神々が定めた古き英雄、二人。人間族が召喚した者合わせ十柱が目覚めてしまった。怒りの日はもう、始まろうとしている。

 _______________

「…ていう訳で此処に来たんですよ」
「『戦殺』のわがままで此処に来たんですか…。てことは彼が此処に居るって事ですよね?何処に行ったんですか?」
「クレイさんと海で遊んでますよ。私は買い出しを頼まれたのでこの区域に入ったんですが、ちょっと転んじゃって…」
「それで絡まれてたのか…。ていうか、『戦殺』といいそのクレイとやらといい、こんな子供を一人で出歩かせるとは…」
「危ないのだ…」

 サテラの紹介を簡単に済ませて、サテラが此処に居る理由を聞いたけど、たんなる旅行らしい。そして馬鹿男二人におつかいを頼まれてちょっとした事故であの状況になったらしい。クレイさんと『戦殺』はサテラがどうなっても良いのだろうか?許せんな。
 ていうか剣聖がさっきから自分の腰をずっとチラチラ見ているんだけど何をしているのだろう。

「剣聖、何見てんの?」
「あ、いえ。彼がずっとカタカタと揺れてるんですよ。何か訴えてるみたいに」
「どういう事だ?」

 剣聖が黒剣を指差して言う。確かにそれは揺れていた。せわしなく、カタカタと。本当に何か訴えてるみたいだ。

『あの剣は…うん、成る程…』
「(神様…?)」
『おかしいな…。人間族の領土に異常は無いし、召喚された時のあの重圧も無い。まさか、同時召喚じゃないのか?』
「(何を言ってるの?)」
『同時召喚じゃない、と仮定するなら、もう既に旧英雄達は少しずつバラバラに召喚されている、って事になるのか…。不味いな。ラルダ』
「(……?)」
『今すぐにでもロンゴヴィギナに向かった方がいい。怒りの日はもう、僕たちが知るよりも前から、始まっていたのかもしれない』
「(え?それってどういう…何で戻らなきゃ駄目なの?)」
『今回の怒りの日は、同時召喚じゃない。人間族が八人の旧英雄を召喚してしまったせいでランダムに旧英雄が所々に召喚されるようになったんだ。ランダムって事は、当然ここにも、ロンゴヴィギナにも、召喚されている可能性が高いんだ!急いで抹殺か無力化しないと大…変、な事、に…』
「!」

 神様がそう言いかけた時、私、いやその場にいる全員が悪寒を感じた。何かが、来る。
 そう感じた瞬間、上から一人降って来た。辺りに砂埃が舞い上がる。

「いやぁ。ご機嫌よう、今の世代!」
「…ぐっ!」
「あら?歓迎されてない?残念だわ。折角…」

 砂埃が晴れ、その人物の姿が明らかになる。その人物は、顔を大きく歪ませて、


「総て、全て、気の向くままに腐らせてあげようと思ったのに」

 そう言い放ったのだ。美人の女性がとてつもない悪人面で。例え美人な人でもあんなに表情筋使うと台無しになるんだなあって。
 それはどうでもいい。あの人は腐らせると言った。此処ら一帯、それどころか総てを。そしてこの相対しただけで押し潰されそうになる威圧感。
 成る程これが旧英雄か。私達が動けないでいると、クレスが前に出て剣を構えて言った。

「貴様、何者だ?」
「そうね。上位旧英雄とだけ言っておこうかしら。ていうか、もうそちらも研究済でしょう。ねぇ、
『救世』の降臨者、ラルダさん?」
「なんで、私の名前を?」
「さぁ?教える気は有りませんが?」

 うぐ、こいつウザいな。主に顔が腹たつ。私を煽ってるのか知らないけど、凄い歪みっぷりだ。
 ていうか、なんだこの、腐敗した物の匂いは…。

「それじゃあ、始めましょうか。ここで私を止めれなかったら、そのまま地面は荒廃していって最終的には完全な植物の育たない荒野になるわ。それが何を意味するか分かるわよね?」
「世界の存亡を掛けた戦いって事だな」
「そう言う事、んじゃあ始めましょうか。沈むしかない泥仕合を」

 そう言って彼女は、首を傾げながら目を見開いて笑った。やっぱり台無しだ。

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