部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第五十話 「好奇心が産み出した偶然の産物」

 月が少し昇ってきた時刻。私達は南に向かって歩いていた。何故か。
「とりあえず…デレシア領の国から潰すのが手っ取り早いからデレシア領に向かうぞ」「デレシア領ですか。『戦殺』さんと横断だけはしましたね」「どうだったのだ?」「ほとんど記憶にありません…。『無垢』故のデメリットです…」「レイシュ姐は無垢じゃないのだぁ」「手っ取り早いって言ってるけど、そんなに近いの?」「いや、海を渡るんだが、いきなりダグディス領に入って人皇と相対っていうよりマシだろ?」「…だね」
 私達はデレシア領に向かう為、船が出港するデミングポートに向かっていた。人族の土地はかなり広大で、およそ8つの領土に分かれ、それぞれに領主が存在している。その領土の内の1つがデレシア領。別名迷宮領。その別名の通り、多数の迷宮が点在しており、冒険者や探求者がその迷宮の為だけにこの領土に足を踏み入れる。領主はロウ・デレシア・グレイダスク。という神様の解説。流石だ。
 ……今思ったけど私には家名は無いのだろうか。クレスにはヴェルテニシアという家名が付いているのに剣聖や私、チャゼルには付いていない。これはどういう事なのだろうか。もしかして、そういうお偉いさんにしか家名は与えられないのだろうか。それなら合点が行く。
「しかし、降臨者とて、ラルダ一人で旧英雄を手玉に取れるのか?」『それならご心配無く。先代の月神が開花させた『討滅』のお陰で彼女は幾らでもパワーアップ出来るからね』「神様、そうやって話せるなら前々からそうしてよ」『いやぁ…中々面倒臭いんだよね』「なんか聞こえるのだ。レイシュ姐も聞こえるのだ?」「えぇ、ばっちり聞こえてます。聞こえ無いふりをしましょう」「分かったのだ」
 なんか剣聖はチャゼルと一緒によく居るな…。保護欲でも出るのだろうか?なんか見た感じ母親と息子みたいな感じだ。
「ん…」「どうしたの?」
 クレスが何かを感じキョロキョロし始めた。暫くその動作を繰り返し、西の方向を指差し言った。
「あっち側、二体の火山陸大亀ムスプルトータスが居るな。この様子だとつがいだな。ちょっと俺の私情で狩るのを手伝ってくれ」「分かった」「『救世』行けますか?」「任せて!遠距離は大得意なの!」
 そうは言うものの今回は弓を使わない。月帝弓なしでも最終定理が使えるかやってみようと思ったからだ。イメージとしては『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』を孕んだ『雷極槍』。手に力を込め、マナを槍状に実体化させていく。
「出来たのかな?」「また新しい物を考えたのか?」「日々研究は欠かせないよ」「そうか…」「んじゃ、一発ぅっ!投げて行こぉぉーう!」
 私は自分で放った言葉と同時に走る。そして七歩程度走った後、クルリと一回転をし、勢いを付けて投げる。うーん…どっかのアニメの槍兵みたいなすっごくカッコいい投げ方出来たらなぁ。
 投げた槍は自分が投げたとは思えない程のスピードで飛んで行き、あっという間に火山陸大亀に向かっていった。あの投擲速度が出せるのは霹靂のお陰だ。
「(さ、此処から『霹靂』はさらに連鎖を繰り返し、その途中に『殲滅』の瓦解反応が混ざって大爆発を起こせば最終定理は完成だね)」
 と思って内心ワクワクしていたものの、凄い勢いで飛んで行っていた槍はみるみる速度を落としていき、火山陸大亀の近くの地面に突き刺さった。
「おい、届いてないぞ…」「あれ…?おっかしいなぁ…。いや、あれでいいのか」「は?それはどういう…」
 クレスが何かを私に聞こうとした時、遥か遠方、ついさっき地面に突き刺さった槍が暴発した。とんでもない爆風と光を撒き散らし、火山陸大亀を爆発に巻き込んだ。そういえば、結構な放射線量だと思うんだけど全く影響がない。大丈夫なのだろうか?
「あれは…『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』か?」「それの応用かな。もともとは『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』を月帝弓無しで使えるかをやってみたかったんだぁ。でも、あれは99999本の矢に凄まじいエネルギーが詰められて出来るもの。一本じゃそのエネルギー量に耐えられず大爆発を起こしちゃう。『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』は超広範囲かつ強大な威力を誇る最終定理だけど、今私が使ったあれは範囲は狭いけど『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』と同様に強大な熱量を持った爆発を引き起こす、まさに!私が偶然編み出した低コストの最終定理!」「話が長くてよく分からないのだ…」「そうですねぇ…」
 剣聖とチャゼルが反応に困っている。でも説明した感じこんな感じだ。また私は以前の『流星』と同じく新技を考えてしまった。名前を考えないとな。
「正直、『殲滅』と『霹靂』の最終定理なんざ、『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』しか無いし、お前が最初に考えた物だろう…名前を考えろ」「分かってますとも……………『破界せし地穿抜く衝槍レブダントブレイカブルグラスメンツ』…とかどうよ」「俺は良いと思うが…剣聖はどう思う?」「え?私ですか…。良いと思いますよ」「ラルダ姐はレブダントっていう言葉が好きなのだ?」「響きが好き…うん、好き…」
 こうして、中々エゲツない名前の最終定理が出来上がった。どんどん強くなってくなぁ、私。ネーミングセンスはアレだがね!
「あっ、素材を取りに行かないと…あんな爆発だったが残ってるかね…」「あいつの素材って何か使い道あんの?」「甲羅が高く売れる。船を乗る為には金が必要だしな」「成る程ねえ」
 それで狩ろうと言ったのか。ていうか、『殲滅』って物質を根こそぎ破壊する魔力だから塵も残らないんじゃ…。
 そう思いつつも、敢えて口に出さず、爆心地に行ったら案の定、粉微塵も残ってなかった。やっちゃった。
 そして、そこからひたすらに歩いて居ると、突然街道が現れた。お、これは…。
「もうすぐだな…」「そうだね…」
 デミングポートまであと少しだ。

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