部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第四十六話 「崩壊する夜の世界」

 ラルダが旧月神を討った頃。夜の世界にてもう一人の月神が剣を研ぎながら呟いた。
「奴が死んだか」「へ?」
 近くで暇を持て余していた剣聖が間抜けな声を上げる。月神は感じ取っていた。旧き月神の魔力が自分の体に乗り移ってくる感触を。
「奴特有の権能とやらが俺の中に流れ込んできた。元々あの男が死んだら後継である俺に権能を譲渡するっていう約束だしな」「つまり、貴方は今真の月神になったって事ですか?」「あぁそうなる。だが…」
 剣を研ぎ終わり、研ぎ終わった剣を拭う。拭いながら月神は言う。
「ここで月神として世界を見るのももう俺の代でやめだ。2代目だが、3500年近くもこんなとこで幽閉されるなんざまっぴらごめんだ」「何をする気ですか?」「この世界はあの男が明るい所は嫌だというワガママで最高神が作った擬似世界。だから壊れて無くなっても別になんの問題はないから、壊してしまって俺は普通の世界で生きる」「そうですか…」
 二人は黙り込む。暫く沈黙が続き、剣を拭き終わったようで、鞘に剣を納める音が響いた。それ以降、また沈黙が続く。すると、その沈黙を打ち破るように、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「やっと着いたー!久々にこっちに戻ってきた感じがして迷ったよ!」「ラルダか。あの男を討ったそうだが?」「え?なんでそれを…。まぁ、そうだけど?」「隔絶空間では最強になるあの男をねぇ…。最初見た時は弱小魔術師だと思ったがとんだ化け物になったもんだ」
 月神は立ち上がりながらそう言う。最初はかの龍帝の魔力と『救世』の降臨者としての魔力を持っているだけで魔力量は著しく少ない弱小魔術師が今では終末定理タブーである『殲滅』を保有する人間兵器。進化とは凄まじい物だ。と月神が思っているとラルダが不敵な笑みを浮かべ、月神に向かって言った。
「そんな事より、何かあるんでしょ?早く教えてよ」
 勘まで化け物クラスかこいつは。と思いながら、月神はさっき剣聖にも言ったことをラルダにも告げた。
 _______________
「つまり貴方も外に出るの?」「そのつもりだ。ここでひたすら傍観するとか嫌だからな」「ふーん」
 そんな簡単に出れるもんなんだ、ここ。まぁ、其処はどうでも良いか。問題はこの世界を壊すって所だ。壊さなくても良い気がするんだよね、私。まあそれが月神が決めたことなら何も言わない。
「それでは、今からこの世界を破壊する。二人は先に外の世界に出ていてくれ。『転移テレポート』」
 月神がそう言うと、突然目の前の景色が入れ替わった。その景色は、結構前に見た景色だった。見渡す限り荒野、大きな滝、広い川。戻ってきた、という実感が湧いた。
「帰ってきた!元の世界に戻ってきたんだよ剣聖!…剣聖?」
 剣聖が空を見上げていた。何かが抜けたようにずっと。あ、まさか記憶の消去始まっちゃった?いや、まさかね。『無垢』の降臨者だからってそこまで記憶の容量少なくないよね。
「はっ…!あ、ごめんなさい。久々にこっちの世界に戻ってきて、空の綺麗さに感動してしまいました…」「感動って…。まあ、青く澄んでて良い天気だよね」「ですね」「まさか剣聖と肩を並べられる日が来るとはねー」「私も、まさか貴方がこんな急成長するとは思いませんでしたよ」
 今の私の身長は何センチなのだろうか?鏡がないと分からないけど、視界の高さ的に生前と同じぐらいか。そこら辺も神が調節したのかな…。そんな訳ないか。…なんて思っていると、川から突然泡が発生し、
「ブハァッ!!はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………外界だな!?」
 月神、だった人が姿を出した。なぜそんな所から…。

「部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く