部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした
第四十一話 「赤熱する槍、脈動する炉」
今日も少年は外を見る。「災害が起きる」と、言ったものの、起こらなかった。あの日、災害らしい災害は無かった。街も何ともなかったし、何一つ。あったとすれば一人、家族が増えた事ぐらいだろうか。居候みたいな物だが。
「んー…」「お前はよく外を見ているが、何かあるのか?」
後ろから女性の声音が聞こえてくる。それは母でも姉でもない。妙に男のような口調の居候だ。
「特に何も無いよ。ただ、じっと外を見てるだけ。見てて飽きないしね」「吾は同じ景色を見てたら飽きるが…。まぁ人それぞれだな」
彼女の名前はシリア。突然家に転がり込んで来た居候だ。紅葉色の髪に瞳。どこか異色な衣装と、この世界線の人物なのかも怪しい所だけど、気にしないでいる。彼女は槍使いで、不思議な槍を扱っている。なんと魔術無しで焔を纏うのだ。危ないのでそんなに見せてくれないが、彼女の鍛錬で焔を纏う所を見た。そんな事も相まってとても不思議な人なのだ。しかし、今日の彼女は普段とは違って旅装に着替えていた。
「吾はもうじき此処を出る。世話になったな」「うん。また気が向いたら遊びに来てくれよ。僕の暇つぶしになるからさ」「ははは!良いだろう良いだろう!また気が向いたらここに来よう。そしてお前の暇つぶしになってやる」
そう言って彼女は踵を返し、部屋を出て行った。少年は既に知っている。彼女の槍には大量の血が滴っている事を。その大量の血の中には家族の血が含まれている事を。少年はそれを知った時、笑みが漏れた。少年は何故か笑う事しか出来ない。
「そろそろ…返してくれても良いんじゃないかな?」
少年は紅の涙を流し、引き笑いにも似た笑いを零しながらそう言った。
___________
《 クレイ視点 》
最近この街である事が起きている。火事だ。大規模な火災が多発している。
「クレイ、北区の火災軒数はどうだった?」「0だ。ウェインの方はどうだ?」「合計で17。被害が少ないのは3軒。全焼したのが14軒だよ」「最近全体で火災が起きる、という事は無くなり、一部の地区に集中して放火するようになって来ているな…。見た感じ被害が未だ出ていないのはクレイの見張り地区だけって事になるな」「ヘーグ近衛騎士長。あんたの所は?」「一週間あっちに居て火災が起きた回数は実に30を超える。だがこの数日、何も無かったな」
ヘーグというのは元軍隊長だった男で、一度姿を眩ましたが、サテラの加入と共に近衛騎士として再び加入した。部下からの信頼も厚く、顔も広いので俺たちのような見張りも担当している。
「しかし、これ以上被害を広げる訳にはいかないな」「そうだな…。ヘーグ近衛騎士長、ウェイン。怪しい奴を目撃した事は無いか?」「私は無いなぁ。でも強いて言うなら槍で瓦礫を崩して、更地にしてくれた人なら居たよ」「俺の場合、部下が家屋を焼却し、去っていく槍使いを見たと言っていたな。私も行ったが、間に合わなかった…」「(槍……炎………)」
何かが引っかかった。何処か遠い記憶の内、炎を操る槍使いが居た、かもしれない…。千剣皇が此処に来ている事を考えるとそういう奴が来てもおかしくない。思い出せ。その引っかかりを見出せば突き止められるのに…。
「…ちょっと時間をくれ。何か覚えがある」「時間は幾らでもあるし、ゆっくり考えて?」「おう」
こうして考えていると、段々と思い出せてくる。生前、心の臓を完全に作り変えられた同期が居た。そいつが確か槍と炎を扱って居たはずだが…。女性なら確定かな。
「近衛騎士長さんよ、その部下が見たっていう槍使いは女だったか?」「さぁ…そこまではよく分からんな」「ウェインは実際に見たそうだが…どうだ?」「あれは女の人だったね」「確定だな。そいつは俺の元居た世界線の奴だ。元々はそんな悪い事はしないはずだが、『戦殺』を見るとそれもおかしくないんだよ」
俺は自分が転生者である事をみんなに知らせている。別に、知られたところでやる事は変わらないし、何か変わる事もない。まぁ、それは良いのだけど。標的が分かったならもうやる事は一つだ。
「んじゃあ、ちょっくら会いに行ってくるわ」「え?おい。会いに行くってお前、そいつの居る場所とか分かるのか?」「居る場所っていうか、なんつうか、法則があってな。あいつが悪事を働くと必ず丘上に登るっていう法則が」「なんだそりゃ…」
今思えば本当に意味のわからない法則だよな。
「じゃあ、行ってくる」「行ってらっしゃーい」
俺はウェインと近衛騎士長に見送られて外に出た。取り敢えず近くの丘上に居るか確認しに行くか。
「んー…」「お前はよく外を見ているが、何かあるのか?」
後ろから女性の声音が聞こえてくる。それは母でも姉でもない。妙に男のような口調の居候だ。
「特に何も無いよ。ただ、じっと外を見てるだけ。見てて飽きないしね」「吾は同じ景色を見てたら飽きるが…。まぁ人それぞれだな」
彼女の名前はシリア。突然家に転がり込んで来た居候だ。紅葉色の髪に瞳。どこか異色な衣装と、この世界線の人物なのかも怪しい所だけど、気にしないでいる。彼女は槍使いで、不思議な槍を扱っている。なんと魔術無しで焔を纏うのだ。危ないのでそんなに見せてくれないが、彼女の鍛錬で焔を纏う所を見た。そんな事も相まってとても不思議な人なのだ。しかし、今日の彼女は普段とは違って旅装に着替えていた。
「吾はもうじき此処を出る。世話になったな」「うん。また気が向いたら遊びに来てくれよ。僕の暇つぶしになるからさ」「ははは!良いだろう良いだろう!また気が向いたらここに来よう。そしてお前の暇つぶしになってやる」
そう言って彼女は踵を返し、部屋を出て行った。少年は既に知っている。彼女の槍には大量の血が滴っている事を。その大量の血の中には家族の血が含まれている事を。少年はそれを知った時、笑みが漏れた。少年は何故か笑う事しか出来ない。
「そろそろ…返してくれても良いんじゃないかな?」
少年は紅の涙を流し、引き笑いにも似た笑いを零しながらそう言った。
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《 クレイ視点 》
最近この街である事が起きている。火事だ。大規模な火災が多発している。
「クレイ、北区の火災軒数はどうだった?」「0だ。ウェインの方はどうだ?」「合計で17。被害が少ないのは3軒。全焼したのが14軒だよ」「最近全体で火災が起きる、という事は無くなり、一部の地区に集中して放火するようになって来ているな…。見た感じ被害が未だ出ていないのはクレイの見張り地区だけって事になるな」「ヘーグ近衛騎士長。あんたの所は?」「一週間あっちに居て火災が起きた回数は実に30を超える。だがこの数日、何も無かったな」
ヘーグというのは元軍隊長だった男で、一度姿を眩ましたが、サテラの加入と共に近衛騎士として再び加入した。部下からの信頼も厚く、顔も広いので俺たちのような見張りも担当している。
「しかし、これ以上被害を広げる訳にはいかないな」「そうだな…。ヘーグ近衛騎士長、ウェイン。怪しい奴を目撃した事は無いか?」「私は無いなぁ。でも強いて言うなら槍で瓦礫を崩して、更地にしてくれた人なら居たよ」「俺の場合、部下が家屋を焼却し、去っていく槍使いを見たと言っていたな。私も行ったが、間に合わなかった…」「(槍……炎………)」
何かが引っかかった。何処か遠い記憶の内、炎を操る槍使いが居た、かもしれない…。千剣皇が此処に来ている事を考えるとそういう奴が来てもおかしくない。思い出せ。その引っかかりを見出せば突き止められるのに…。
「…ちょっと時間をくれ。何か覚えがある」「時間は幾らでもあるし、ゆっくり考えて?」「おう」
こうして考えていると、段々と思い出せてくる。生前、心の臓を完全に作り変えられた同期が居た。そいつが確か槍と炎を扱って居たはずだが…。女性なら確定かな。
「近衛騎士長さんよ、その部下が見たっていう槍使いは女だったか?」「さぁ…そこまではよく分からんな」「ウェインは実際に見たそうだが…どうだ?」「あれは女の人だったね」「確定だな。そいつは俺の元居た世界線の奴だ。元々はそんな悪い事はしないはずだが、『戦殺』を見るとそれもおかしくないんだよ」
俺は自分が転生者である事をみんなに知らせている。別に、知られたところでやる事は変わらないし、何か変わる事もない。まぁ、それは良いのだけど。標的が分かったならもうやる事は一つだ。
「んじゃあ、ちょっくら会いに行ってくるわ」「え?おい。会いに行くってお前、そいつの居る場所とか分かるのか?」「居る場所っていうか、なんつうか、法則があってな。あいつが悪事を働くと必ず丘上に登るっていう法則が」「なんだそりゃ…」
今思えば本当に意味のわからない法則だよな。
「じゃあ、行ってくる」「行ってらっしゃーい」
俺はウェインと近衛騎士長に見送られて外に出た。取り敢えず近くの丘上に居るか確認しに行くか。
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