部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第四十話 「神器、月帝弓の取得」

 天元の花畑。そこは神の庭である。ラルダや剣聖などの降臨者を落とす神の庭。その神は常に暇なので、普段は花を植え替えたりして暇を潰すのだが。
「今日はお花を植え替えないんですか?」「うーん…。今日はね、客が来るかもなんだ」「そうなんですか?もしかしてラルダさんですか?」
 その神に仕えている女神が言うと神は首を振ってこう言った。
「いいや。恐らく下の世界からのお客さんだよ。月の天元からのね」「月の天元から、ですか?」「あぁ。かの月神がね」「はぁ…」
 彼はそう言っていたが、あの若い月神がこっちに来るわけがない。彼自身、明るく花臭い、とこの空間からあの天元に移ったのに…。と、女神は思ったが、ふと異様な雰囲気がして、振り返ると、花が黒く染まっていた。月神が、いる。
「やあ、月神。もう来たってことはラルダの鍛錬は終わったんだね?」「あぁ。最後はレイドウがやってくれたけどな…」「おや、君がクレスか。うーん、若い方とごっちゃになるんだよね」「しょうがないさ。奴にクレスと名乗れと言わせているからな」「ふぅん?で?今日はどういう用かな?」
 神が頬杖をつきニヤニヤしている。これはもうわかっている、って顔だ。しかしなんなんだろう、と女神は二人を見て思った。
「ラルダが強くなった時の報酬、出来上がっているんだろうな」「勿論だとも。しっかりと作ったよ。くひひっ」「悪い笑い方だな。奴をいじめるような物が出来たのか?」「いやいや、れっきとした神器さ。彼女の良いところをしっかりと引き出して、彼女らしさをちゃぁんと引き出せると思うよ。ほら試作」「…なんだこれ?」
 神が月神に手渡したのは青黒い筒状の箱。月神はそれをじっと見て、何かに納得したように頷いた。そして、その箱を上に掲げ、こう言った。
「神器展開」
 その声に呼応するように、黒い箱が脈動し、月神の周りに青いオーラが溢れた。それを黒い箱がどんどん吸収していき、だんだん別の形に姿を変えて行く。そして、最後には大きな弓になった。
「ほう…。弓か。あいつらしい」「だから言ったろ?僕は彼女の良いところを見出したんだよ」「まあ、それは良いが、俺は奴にこれを渡そうと思う。本物を渡せ」「良いよ。そのかわり無闇に試し撃ちとかさせないようにね?」
 月神は頷いた。月神自体、彼女が終末定理「殲滅」を得ているので月神の世界を概念ごと根こそぎ吹き飛ばされるのは分かっているのだろう。
「はい。これが本物だ」「あぁ。神器の名は?」「月帝弓シエラガレスト。月帝ガレストの名前を冠している弓だ。まぁちょっとだけ僕なりに特殊魔力を付与したけどね。彼女なら扱いきれるだろう」
 そう言ってさっきと同じような黒い箱を月神に投げつけた。月神はそれをキャッチし、それを一瞬だけ見て神をもう一度見直した。
「なんだい?」「いや、お前まさかまた別の終末定理をねじ込んだんじゃないだろうな…?」「うーん?ははは。それは分からないね」
 ニヤニヤしながら神が答える。こいつは見た目に反して結構精根がひん曲がっている。月神が溜息を一つ吐き、
「まぁいい。俺はもう行くからな」「あぁ。怒りの日にもう一度会おうじゃないか」「まさか、あれがもう一度起こると思い込んでるのか?」「思い込んでるというか、確信さ。あれは確実にもう一度起こる。条件は揃っているし、ラルダっていう救世も居る。起こることは必至」「…その為にお前は降臨者を落としていたのか」「まぁそうなるねぇ」「…。俺はもう行くぞ」「あぁ」
 月神がそう言うと、黒い霧に包まれ、次第に霧散した。黒く染まった花も跡形も無くなり、元の花に戻っていた。
 _______________
 私は鍛錬を終えて、退屈なので神殿の中を彷徨いていた。ここはいつ彷徨いても飽きない。いつもいつも私の好奇心をくすぐってくれる。そして今、目の前に餅のような物が置いてあるのだ。触るしか無い。そっと、静かに手を伸ばす。しかし、
「ラルダ」「ひゃわぁっ!?」「ん?驚かせてしまったか。すまない」「い、いや。大丈夫なんですけど…その…」
 元月神の人に見つかってしまった。心なしかお花の匂いがする。しかし、見られてただろうか?不安になり、目を泳がせていると、クスッと笑われた。
「別にそれは触っても良いんだぞ?」「え、あっ、じゃあ遠慮なく…」
 触って分かったがこれは餅では無く、毛玉のような物だった。触ってくと足のような物もあるし、もしかしてこれは…。
「兎ですか?」「そうだ。レイシュが連れてきた」「へぇ。可愛らしい物を連れてきますね」「奴だって女らしい所はあるんだ」
 女らしいっていうかあの人は女子要素の塊だと思うんだけど…。剣を持たずにそこら辺歩いてたら普通の女の子だと思う。まぁそれはそれとして、私は話を変えた。
「ところで私に何か用事が?」「あぁ、そうだ。お前にこれを」
 そう言って差し出して来たのは綺麗に折り畳まれた橙とも黄色とも取れる少し大きな布。よく出来てる…
「衣服ですか?」「あぁ、レイシュが作ったらしい」「あの人裁縫まで出来たんですか…はぇー」
 あの人、お母さん特性があるのでは?料理は分からないが他は粗方出来ると来た。これは本当にお母さん特性があるのかもしれない。
「剣聖が直接渡さないのは何故なんでしょう」「さぁ。俺には分からん。あぁ、それと」「?」
 彼は懐をまさぐり、黒い箱の様な物を取り出した。…なんだあれ?
「何ですか、それ?」「お前の神器だ」「は?」「折りたたみ式の弓とあの馬鹿神が言っていた」「へぇ…。なんで私が?」
 いや、弓なのは嬉しいんだけど…。何で私なんかに神器が送られてくんの?私なんかしたっけ?した事と言えば大人になった事と「霹靂レブダント」を会得したぐらいなんだけど…。
「終末定理の「殲滅アポカリプス」、「霹靂レブダント」を習得した記念に、と言っていた。が、恐らくそれは建前だろうがな」
 彼は何やら含みのある言い方をした。今この時にあの神に会い、話して、この神器を受け取って来たという事はやはりあの事だろう。
「怒りの日ですか?」「………あぁ。お前は奴に直接会えるから分かっていたのか。その通りだ。にわかには信じられんが…。奴はお前を最高戦力として見て、その神器をお前に渡したんだと思う」「最高戦力とか絶対あり得ませんから」「そうか?」「はい」
 私は言いきった。いやだって、私なんかが最高戦力だったら頼り無さ過ぎるでしょうよ。
「じゃあ、記念品として受け取ってくれ」「はい。ありがとうございます!」「おぉ?まぁ、うん。えっと、神器展開って言えば本当の姿が見れるぞ。だが、試し撃ちはしないでくれ。この世界が消えるから」「分かりました」
 私は頷き、黒い箱を掲げた。そして叫ぶ。
「神器、展開!」
 すると、私から幾分かの魔力が吸われていくのを感じ、ふと上を見ると、あの黒い箱だったものが段々と弓の様な形状に変わっていく所だった。
「おぉっ!」
 私は感嘆の声を上げる。その黒い箱はあっという間に大きな青黒い星空の様な弓へと変貌を遂げた。綺麗な色合いだ。そして、結構大きいのに軽い。私が持った弓の中では一番良いかもしれない。
「あの、これ名前とかあるんですか?」「月帝弓シエラガレストって言うらしい。気に入ったか?」「少なくとも見た目と軽さは良好です!あとは矢を打つ時の感覚とかが良ければ最高ですね!」「気に入ってもらえて何より」
 こうして私は神より神器を戴いた。私は神器という物をもっと入手困難な物だと思っていたけれど、あんがいサラッと入手できたので内心戸惑っているが、この見た目と色合い、そして軽さがもう最高クラスなので何でも良いと思っている。しかし、私が好みそうな物を分かって神はこれを作ったのだろうか?そう思うと、恐怖を覚えるのは私だけだろうか?偶然だと信じたい。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品