部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第二十四話 「剣豪境劍の闘い 開幕戦 壱」

 北東門にて、クレイとウェインは二人で見張っていた。部下も皆引き下げ自分達だけでかれこれ三日間見張っていた。
「いやぁ、驚いたね。部下を皆引き下がらせるなんて。なんか策でもあるの?」「策なんてねぇよ。ただ、無駄に兵力を減らしたくねえ、それだけだ」「ふぅん。でもまあ、それは分かるかも」「だろ?ただでさえ今は俺らが不利な状況。これで更に不利になったら面目が立たねえよ」「だね」「しかし…本当に来るのか?」「来ない方がマシだけど…!?」
 マシだけどね、と言おうとしたが唐突に来た圧にウェインは一瞬で気づいた。その圧がする方向を見る。いた。二人の男女。一人は人間族側が来ている軍服で、もう一人は何か分からないが黒を基調とした服装だ。
「誰か分かる?」「あぁ…。【剣聖】の奴、《降臨者》の下に付いたのか。それに、彼奴は…。ウェイン、今回お前は此処でじっとしておけ」
 クレイはそう言い、虚空から赤黒く輝く長片刃剣を抜刀する。ウェインは何故、彼がじっとしておけと言った理由が分からなかった。
「どうして?」「【剣聖】の千刃飛翔は魔術も切り裂く。切り裂くだけなら良いが、剣のリーチが長すぎる。もしかしたら、お前にも届くかもしれない。それに《降臨者》の方は恐らく…魔術師殺しだ」「え?」「多分だけど魔力行使を感知した瞬間、人間が死ぬ程度の傷を確定で付ける因果応報の使い手だ。彼奴には剣で挑むしかない」「えっ、ちょ!クレイ!?」「お前はそこで俺が戦う様を見とけ!そんでピンチになったら、エルドラさんか王様を呼びにいけ!お前は絶対攻撃すんじゃねぇぞ!」「クレェェェイっっ!」
 クレイは門から飛び降り、地面に着地し、そのまま勢い良く二人の方へ立ち向かっていった。
 対して【剣聖】は向かってくるクレイを見て、少しビクついた。そして、《降臨者》の懐に隠れる。
「どうした【剣聖】。お前がこんな一面を見せるなんて、可愛らしい一面もあるんだな」「馬鹿なこと言わないで下さい…。私、あの人嫌いなんですよ。特に何された訳では無いけど、怖いんです」「むー。やっぱり覚えていないのか。まぁいい。そういう事なら、俺が迎え撃つ。どうせ奴があの剣を抜刀した時点で俺の剣撃圏内だ」
 そう言っている内にクレイが到着する。クレイは急停止し、右足に重心を掛け、思い切り斬り払う。その剣撃を《降臨者》は片手で受け止めた。
「…っ!」「久しぶりだな。今回は転移で逃げないのか?」「逃げるつもりはさらさらねぇ…!後ろに守らなきゃならねぇっ女が居るからなぁっ!!」
 剣を振り払い、距離を取る。そして、姿勢を直し剣を《降臨者》へと向ける。《降臨者》は腕を組み、にやけながら言う。
「ほう、どうやら条件は同じの様だな。互いに守りながら戦う。男らしく、いい戦いだな?」「御託は良い。さっさと剣を抜け」「ふむ…話そうにもそうはいかないという事か。しょうがない」
 《降臨者》はそう呟き、ため息を吐く。そして、帯に引っ掛けられている鞘がない二本の片刃剣を抜いた。
「これでいいか?」「は?」「お前が剣を抜けと言った。だから抜いたのだが?本来なら、この時点でもう斬り捨ててるが…何分距離が近い分な。拳の方がやりやすい」「!?」
 カランっ、という金属音が鳴る。《降臨者》が剣を二本とも落としたのだ。加え、クレイに向かって構えた。その構えは、この世界線には存在しない構え方だった。
「…例えば」
 スッ、とクレイの腹に掌を添え、続きを口にする。
「こういう風に近距離でも攻撃を与える事が出来る」「うっ!?」
 凄まじい風圧が生じ、クレイが錐揉みしながら吹っ飛んでいった。そして、そのまま勢いよく門の壁にぶつかる。門の壁はその衝撃で大きく凹んだ。
「ふむ?少し本気でやったのだが、まだ意識があるのか」「貴方の攻撃を喰らって生きてるとかどんな化け物ですか?」「俺はやり甲斐があって楽しいがな、お〜よしよし」「撫でながら言わないでください。私は撫でられる様な歳では無いんですかど」「おっとすまん。つい、な」
 そんな会話をしている時に《降臨者》はある事に気付く。それは火薬の臭いが所々からする事、もう一つは、だ。
「…不味い。伏せろ【剣聖】!」「えっ?あ、はい」「ついでにこれも羽織っとけ。爆風は耐える」
 そう言って、《降臨者》は自分の着ていた服を脱ぎ、【剣聖】に被せる。その刹那、二人を中心に大爆発が起きた。
 ______________
 クレイはその大爆発を見て、成功だ。と思いニヤけた。
「んぐ…いつまでもこんな所に居られねえ。早くウェインの所に行かねぇと!」
 バッ、と立ち上がり、すぐさま門の上に飛ぶ。そして、ウェインの姿を探した。
「あっ、ウェイン!」「んぅ…うっ…」
 酷くは無いが、全身にやけどを受けているのが目に見えた。これは不味い、と思ったクレイはウェインを抱きかかえ、【魔神王】の居る城へと向かおうとした時。
「また逃げるのか…?前よりはマシな逃げ方だが、お前に逃げるという選択肢はない。」「くっ!うるせぇぇぇぇっ!!!」
 背筋に悪寒を感じ、何も考えず、そのまま突っ走る。しかし、間近に接近されて、逃げれる訳が無かった。クレイの首筋に鉛の様な手刀が振り下ろされる。
「ぐぁっ!あぁ…」「もう聴いていないだろうが教えてやろう。誰とて相手に背を向ければ負ける、即ち死ぬのだ。お前を見ていると、最期の最期でそれをしでかし、俺に負けた馬鹿弟子を思い出す」「……」「ふん、精々二人仲良く同じ場所で過ごすんだな」
 そう言って、《降臨者》は再び手刀を振り下ろそうとする。ウェインも同じ様に始末する様だ。しかし、《降臨者》がウェインの首筋に落とそうとした瞬間。
「!…上です!」「!」
 《降臨者》は凄まじい速度で回避する。さっきまで彼がいた位置には矢が刺さっていた。
「矢だと…?何者…?」「やっぱり避けられちゃうかぁ」「もうちょっと隠密性が欲しかったな」「いえでも、先輩の矢は素晴らしいと思いますよ」「まっ、当たってないからなんとも言えないけどね!あははは!」「はいはい。一応ここ、真面目に戦わないとダメなところだよ三人共。分かってるのかい?」「分かってるよおじ様。ウェインさんとクレイさんを殺そうとしたんだ。もう許せないよね」「俺の優秀な部下を傷付けるとは…《降臨者》とは不粋な者よな」
 そう場違いな会話をしている四人が《降臨者》と【剣聖】を見下ろしていた。そしてその内の【魔神王】であるウェルトはこう言った。
「お前を此処で仕留める……覚悟しろ」「ほう…?面白い」
 魔族陣営戦力総出の戦いが今始まった。

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