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赤眼の彼が異世界支配してみた

ノベルバユーザー223949

第2話 『覚めない夢』 









「んぁ……」


 大口を開けたまま、タツキの意識は覚醒した。

 重い瞼を気合で上げるが、強烈なだるさに襲われて体がついてこない。

 あまり目覚めの良い方ではないタツキは、二度寝を欠かさないタイプだ。今朝も目覚まし時計を何度も叩いた。


「俺は………」


 ――――だが、状況を一切理解できていない今は例外だった。俺はどうなって、どこにいて、どうしているのか。さっきまで何をしていたんだっけ…。

 眠気に負けそうになりながらも、脳を活性化させるべく必死に頭を回転させた。

 しかし、タツキの脳は浅い睡眠では不満らしく、二度目の睡眠を渇望して意識をもぎ取っていこうしてくる。思考回路が眠気に乱されていた。


 ……このまま何も考えずに寝ていたい。


「ま、眩しッ」


 もう一度眠りに入ろうとしたタツキを邪魔したのは、閉じた瞼を容赦なく貫いてくる日光だった。

 闇に目が慣れていたタツキには、ただの光が何倍にも眩しく感じる。


 頭上で存在を主張する円球の物体が、分厚い雲さえ突っ切っるぐらい張り切って光を振りまいている。

 見慣れたそれをぼんやり眺めているうち、ふと我に返った。


「……俺、何してたんだっけ」


 眠りにつく前の自分を思い出そうとしーーマンションから飛び降りた瞬間の光景がフラッシュバックした。


「そうだ俺、死んだんだ…。死んだはずなのに!!」


 死んだはずの自分が生きている。

 現在地より遥かに大切な矛盾に突き当たって、続けざまに衝撃が走った。


「ーーーっ!」


 息がつまって、言葉が続かなくなる。

 自分という存在の保ち方を手放しかけながらも、蘇っていく記憶は何枚もの静止画となって無慈悲に頭を通過していく。そのどれもこれもが鮮明な記憶で、夢だったとは到底言い難い。

 衝撃の過去に思い当たったことで、冷静さはすっかり抜け落ちていた。慌てて体中をべたべた触りまくるが、特に異常はない。


「まさか………。俺ってもう死んじゃってたりするのか? 霧のせいで亡霊でも出そうな雰囲気だし」


 ブツブツと状況整理を兼ねた独り言を呟く。

 成瀬他月は本来明るい性格だ。
 学校では一番に騒ぎ始め、イベント事には必ず顔を出す。テンションが高すぎて周りに鬱陶しがられるぐらいだった。
 時が過ぎた今では、そんな《お調子者のタツキ》は封印されている。……気がする。昔のことを詳しく覚えていないせいで、はっきり言い切れないのだ。



 けれど、今は何かに解放されたようなーーー元の成瀬他月という人格に戻ったような、そんな感じだった。長年悩んでいたズレが補正され、しっくりくる自分になったことをタツキ自身が感じていた。


「あれーーー?」


 記憶の糸を手繰っているうち、鈍い痛みが頭に走った。

 そうだ。確かに俺は、誰かと問答していた。

 いつ? 飛び降りたあとで。

 どこで? すごく温かい場所だった。

 誰と? 覚えていない。ほわんとしていて冷たい、それでいて芯の通った声だった気がする。

 ーーー『話していた』ことは覚えているのに、肝心なその内容はまるっきり覚えていなかった。


「まぁ生きてるなら結果オーライ、細かいことは気にしないでおこう。それより今は、これから先どうするか、だよな」


 地理系統が壊滅的なタツキが唸る。

 東西南北? 知ってどうする。

 マップ? 見てどうする。

 真顔でそう聞き返してしまうほど、タツキは重度の方向音痴だった。

 そもそもここはどこなのか。霧ばかりで建造物は見当たらない。そればかりか、何か目印になるようなものは一切視界に入らなかった。

 唯一あるのは、頭の上で光を振り撒く太陽の存在。濃い霧にも関わらず、その光は陰ることをしらなかった。


「目印は一つ。……よし、何事も粉骨砕身が基本だよな。例え歩き抜いた先が壁だったとしても甘んじて受け入れる覚悟で行こうぜ」


 自分で自分を奮い立たせ、とりあえず太陽の光が差す方向へと歩くことにしたのだった。


 







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