After-eve

本宮 秋

ferment 第3章

夏がやって来て、より行動的な気分になる。仕事も頑張り、暑さと疲れを吹き飛ばす仕事終わりのビール。
良い季節がやって来たと思う。


と、思ってたのも束の間。
パッとしない天気が続く。寒くは無いが曇り空の日々、雨の日も多い。台風の影響?台風が直撃する訳ではないが、晴れない日々。


行動的な気持ちにさせる夏の筈が、地味な時間を過ごす事に。
ただ、それは自分だけではなかった。


カオリさんも最近は見かけない。アキさんもユウさんも割と静か。
少しつまらない気分にさせる近頃の天候を恨んだ。


それだけでは無かった。実際に良くない事も続いた。
渓流釣りを教えてもらった山奥の農家の三代目の畑が、氾濫した川の水に浸かって被害を受けた。山奥にあるので少しの雨でも急に川の水が増え大変になる事があるらしい。
また自分が、この地に来て初めて伺った農家のご主人が事故に遭い入院。
新規就農者(新たに農業を始める人)で、遠い所から移住して来た人だけに稼ぎ頭のご主人が動けない事は、その家族にとって大変な事態でもあった。


何か、街自体が天候の様に不穏な空気になっていた。


そんな気分を晴らしてくれる様な一本の電話。アキさんからだった。


「水曜日、祭日だから休みでしょ?予定ある?」と、アキさん。


「無いっすけど、何も…」


「店のオーブン壊れて修理に出したから
2、3日休みなんだよ。」


アキさんも良くない事があったのか…


「で、暇なら温泉でも行かない?天気も悪いから気分変える為に。」
珍しくアキさんが誘ってくれるなんて、
嬉しかった。


「アキさんだけですか?」


「ん?カオリちゃん誘って欲しい?でも無理かな?風邪ひいたみたいだから。」


「いや、誘って欲しいとかでは無くて大体カオリさん一緒だったから…と言うか風邪ですか?カオリさん。」
ちょっとびっくりする自分。


「ハハ、確かに意外だね。腹でも出して寝てたんじゃない?(笑)」
「この天候で男2人で温泉ってイヤ?」
意外と明るいアキさん。


「そんな事無いっす、行きましょう!モヤモヤしてたし。」
天気が悪いとはいえ夏の温泉。
汗でもかいてリフレッシュにはちょうど良いか!アキさん、いい所ついてくるな〜。


祭日の水曜日。アキさんの車でお出かけ。


相変わらずどんよりとした空。ただ久々にアキさんと遊べる喜びでワクワクしていた。
隣街の山の中へ。舗装が途切れた道路をドンドン進む。


「凄い所、行くんですね。」思わず本音が出た自分。
「折角だから山奥の秘境の温泉でもね」
アキさんが少しニヤけながら。


何もない山の中にポツンと一軒の建物。ひなびた感じ。微かな硫黄の匂い。
それだけで効きそうな温泉の感じがした。
決して小綺麗とは言えない、こじんまりとした館内。
しかし浴場は広く、茶褐色のお湯が止めどなく出続けていた。


「効きそうな色の温泉でしょ?」
アキさんが小さな窓から見える山の景色を見ながら言った。
少しぬるめのお湯に浸かる。すぐ肌がツルツルする事に気が付き、思わず
「すげっ!ツルツル!」興奮気味の自分。


「ぬるめだからゆっくり浸かれるねー
夏でも。」アキさん。


山の中腹辺りの斜面にある所なので、景色を見下ろす感じで気持ちが良い。
露天風呂がまた、良い感じと言う事なので早速行ってみた。露天風呂に繋がるドアを開けるとビックリ!木で作られた浴槽があるだけ。ちょっと崖っぽい所に浴槽があるので前には、木も無い。


「あれっ、これってあっち側から丸見えですかね?」


「だねー。でもこんな処、滅多に人来ないし。キツネとか鹿とか熊には見られてるかもしれないけど。ぷぷっ」


どんよりした曇はそのままだったが、山の中ということで少し冷たい風が時折吹き、温泉に浸かりながらには丁度良かった。


「パッとしない天気いつまで続くんですかね〜 パッとした事したいなぁ〜」
思わず最近の地味な生活の愚痴が出た。


「そろそろ天気良くなるんじゃない?そしたら何かする?ん〜キャンプとか?」


ん?キャンプか?いいなぁと思ってしまった。


「ユウちゃんがさー キャンプ道具かなり揃ってて、前にキャンプでもするか?って言ってたから意外にすぐ出来るかもよ!」


うおっ!何か現実味出てきた。
しかしこの街の人は、何でも出来るのね〜と改めて感心。
「キャンプやりて〜!天気良くなれ〜早く〜」空に向かってお願いする自分。


「じゃ、後で早速ユウちゃんとこで作戦会議だね」
アキさんも満更でもない感じ。


ゆっくりとゆったりと温泉に浸かり、風呂上がりに誰も居ないロビーの様な所で冷たい炭酸飲料を飲んだ。


アキさんが
「マコちゃん、カオリちゃん好きとか気持ちある?」


ぶーー。何を言いだすんですかアキさん!


「えっ、やめて下さいよ〜突然。」
そういいながら少し、あたふたする自分。


「でも、俺 別に何も無いしカオリちゃんとは。多分この先も無いような気が…
それに最近割とカオリちゃん、マコちゃんの話する事多いから意識してるかな?って思っただけ。」結構マジに話すアキさん。


「ダメです。そんな事言ったら!カオリさん本当にアキさん好きなんですから!」


アキさんに対して初めてビシッと言えた気がした。


「うん、それはね…わかってるけど。マコちゃんの気持ちは、どうなのかな?って思って。遠慮はしないでね。好きなら好きでいいし。カオリちゃんが決める事だし。」


その言葉をアキさんが言った後は、何故か何も言い返せなかった。


帰りの車の中。


いきなり変な事を言いだすアキさんに、オンナ心わかってないな〜と うわべでは思ったが、実際は全て分かっているしアキさんの過去が、そう言わざるしかない事を自分はアキさんの自宅に行った時に知ってしまった…から。



そんなツライ恋愛だったのですか?


ずっとこれからも1人で抱えていくのですか?


カオリさんでは、駄目なんですか?


自分が何か、力になる事は無いんですか?



第3章      終

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