その魔術罠師、地上と下界の狭間にて
1-P 邂逅
目の虹彩が開ききっても尚視界に入る情報が定かにならない暗黒世界。
そんな中、この下水道で走り続けた少女は心身共に衰弱していた。
駆ける足音は、空洞内部ともあり自身の耳へと奥深く焦燥感はたまた絶望感をよりいっそう駆り立てる。
彼女は舐められないようにウィッグで隠していた地上では光で綺麗に反射する長いプラチナブロンドの髪もこの世界では価値を生み出さない。そうここでは輝きなど見出すことは出来ないのだ。
ただ、この場において立ち止まることは許されない。
何故ならば、現在とある追っ手からの逃走中であるから、只それだけに尽きる。
いま、彼女は心底こう思わずにはいられなかった。
(こんな所に来るんじゃなかったッ!!)
平民はたまた貴族という人間共は表の世界で魔術という力を間接的に学び、着々と力を身につけているところだろう。
当然、彼女も含む同年代の奴らも等しくだ。
年齢は十五。今は中等部三年の冬の時期に当たる。
だがそんな時にも関わらず一人の女の子はこの地下、冬ともあり冷気の閉じこもった寒い下水道内部の通路を走っている。
そこで何故、そんな場所を走る必要があると疑問に思ったところだろう。
はっきり言ってしまえば、彼女の只の自業自得だ。
魔術大国《日本》における最高峰の国立魔術学院《東京》の中等部の第三学年総勢二百人に及ぶ生徒の中で彼女は常にトップを走り続けてきた。
それに以前にも初等部の時から二度、三度と大規模魔術式をも新たに開発し偉大な賞を手にしたこともある。そんな少女に浴びせられる賞賛、更には羨望の眼差し。一歩外に出てみればそれは当然のモノと化していた。
そんな日常も、誇らしく悪くないと彼女は思っていた、がしかし校内もしくは市街地でも良い。そんな環境の内部で見られる個と個のぶつかり合い。そこに生まれる喜怒哀楽といった揺らやかやら激しいやらの情動の変化。
彼女は、そんな光景に素直に羨ましい……そう思っていたのだ。
彼女は世間一般的に見てとんでもない天才だと思われているし、そんな彼女自身を自尊してさえいる。
それ故に、周りに張合いを感じられない。並び立とうとする者がいない。
彼女の周りは皆、褒める褒める褒めるのオンパレード。
だからこそ、交友の幅を広げ、天才という肩書き無しのありのままの自分という存在を見せていこうとした。
だが、その結果がどうだ。
天才である貴方もそうなんですね!
貴方でもそんなこと考えるんですね。
その者達の応答は若干、いや普通に尻すぼみ。そして必ず天才天才と会話の節々に付随させてくる。一見普通に話しているようで実際は上辺だけの薄っぺらい会話。
何だこれは。
その者達が勝手に天才という枠組みに組み込んだ人間にはまともにコミュニケーションすらとらしてくれないと言うのか。
彼女は落ち込みながらも、いや分かっている……そう思い込んできた。今まで歴史に名を連ねてきた天才たちも皆、一度はこんな息詰まった感覚を覚えているだろうことも。そしてそんな環境下の中でも、それこそ他者の媚びへつらいしかないようなゴミみたいな空間の中で人生を過ごしてきたことも。
だが、少女は無理だと思った。とてもじゃないが耐え切れない。
彼女は恐らく早過ぎたのだと、そう考えるようになった。成果というものを世に残すのが。
こんな環境下であと三年、否大学を合わせでもしたら七年もの間を過ごしていかなければならないのだという。とてもじゃないが無理だ。
だったら一度堕ちてみよう。そう思ったのはある種、彼女の人生の道筋として当然だったのかもしれない。
こんな心境の中で彼女は一つの噂を耳にした。
それがこの場で起きていて今実際に体験しているモノだった。
──下水道におけるBetting Game
名の通り、賭け試合が行われているという事だ。
ここ下水道は社会における追放者、又は異端者が漂流して辿り着く謂わばアングラと呼ばれる世界の一つ。だが、それは地上からみたこの場の見解に過ぎないが。
そんな怪しげ満載な場所でそんな異常者と戦えばコミュニケーション取れるかな、と思ってしまったその時の彼女の心労は割と末期だったのだろう。
それで本当にアングラ《下水道》に行ってしまったのだから馬鹿としかいいようがない。
思えば末期な思考状態に関わらず、心のどこかで私は天才だ、だからアングラなんかも余裕で渡っていけるだろう、と彼女自身で天才=最強の構図を脳内で展開してしまったのだから二の句も出ない。
そして、そんな戦場に身を置かない者の自称……まぁ他称でいっか、その天才と呼ばれた少女の末路がコレだ。
「何なんだ君はァァアァァァ!?」
彼女が相対するアングラ住民の魔術がワケわからない。
この者だけかもしれない。だが今現在そんな事はどうでもよかった。
火水風土と呼ばれる基本魔術における適性が通常一つにも限らず全てを操れることすらこの際問題としての位置づけに成せない。
詠唱は無いわ、魔法陣が術者から離れたところに顕れるわ、展開後移動するわ、それに加えてありえない事に幾つも同時展開するわで彼女の心中は
……絶賛、超後悔中なのだからっ!!
こうなるのも致し方ない。だが彼女は知らない。この相対するものは、そう自身と歳が離れた者でないことなど、アングラ世界でもここ一年で有名な魔術師となったことなど、そんな彼が異名【支配者】などと呼ばれている《《天才》》だということすらも。
そしてそんな人物と最初に出会ってしまった己が、相当運のない者だということすらも。
そう彼女は何も知らない。
そんな中、この下水道で走り続けた少女は心身共に衰弱していた。
駆ける足音は、空洞内部ともあり自身の耳へと奥深く焦燥感はたまた絶望感をよりいっそう駆り立てる。
彼女は舐められないようにウィッグで隠していた地上では光で綺麗に反射する長いプラチナブロンドの髪もこの世界では価値を生み出さない。そうここでは輝きなど見出すことは出来ないのだ。
ただ、この場において立ち止まることは許されない。
何故ならば、現在とある追っ手からの逃走中であるから、只それだけに尽きる。
いま、彼女は心底こう思わずにはいられなかった。
(こんな所に来るんじゃなかったッ!!)
平民はたまた貴族という人間共は表の世界で魔術という力を間接的に学び、着々と力を身につけているところだろう。
当然、彼女も含む同年代の奴らも等しくだ。
年齢は十五。今は中等部三年の冬の時期に当たる。
だがそんな時にも関わらず一人の女の子はこの地下、冬ともあり冷気の閉じこもった寒い下水道内部の通路を走っている。
そこで何故、そんな場所を走る必要があると疑問に思ったところだろう。
はっきり言ってしまえば、彼女の只の自業自得だ。
魔術大国《日本》における最高峰の国立魔術学院《東京》の中等部の第三学年総勢二百人に及ぶ生徒の中で彼女は常にトップを走り続けてきた。
それに以前にも初等部の時から二度、三度と大規模魔術式をも新たに開発し偉大な賞を手にしたこともある。そんな少女に浴びせられる賞賛、更には羨望の眼差し。一歩外に出てみればそれは当然のモノと化していた。
そんな日常も、誇らしく悪くないと彼女は思っていた、がしかし校内もしくは市街地でも良い。そんな環境の内部で見られる個と個のぶつかり合い。そこに生まれる喜怒哀楽といった揺らやかやら激しいやらの情動の変化。
彼女は、そんな光景に素直に羨ましい……そう思っていたのだ。
彼女は世間一般的に見てとんでもない天才だと思われているし、そんな彼女自身を自尊してさえいる。
それ故に、周りに張合いを感じられない。並び立とうとする者がいない。
彼女の周りは皆、褒める褒める褒めるのオンパレード。
だからこそ、交友の幅を広げ、天才という肩書き無しのありのままの自分という存在を見せていこうとした。
だが、その結果がどうだ。
天才である貴方もそうなんですね!
貴方でもそんなこと考えるんですね。
その者達の応答は若干、いや普通に尻すぼみ。そして必ず天才天才と会話の節々に付随させてくる。一見普通に話しているようで実際は上辺だけの薄っぺらい会話。
何だこれは。
その者達が勝手に天才という枠組みに組み込んだ人間にはまともにコミュニケーションすらとらしてくれないと言うのか。
彼女は落ち込みながらも、いや分かっている……そう思い込んできた。今まで歴史に名を連ねてきた天才たちも皆、一度はこんな息詰まった感覚を覚えているだろうことも。そしてそんな環境下の中でも、それこそ他者の媚びへつらいしかないようなゴミみたいな空間の中で人生を過ごしてきたことも。
だが、少女は無理だと思った。とてもじゃないが耐え切れない。
彼女は恐らく早過ぎたのだと、そう考えるようになった。成果というものを世に残すのが。
こんな環境下であと三年、否大学を合わせでもしたら七年もの間を過ごしていかなければならないのだという。とてもじゃないが無理だ。
だったら一度堕ちてみよう。そう思ったのはある種、彼女の人生の道筋として当然だったのかもしれない。
こんな心境の中で彼女は一つの噂を耳にした。
それがこの場で起きていて今実際に体験しているモノだった。
──下水道におけるBetting Game
名の通り、賭け試合が行われているという事だ。
ここ下水道は社会における追放者、又は異端者が漂流して辿り着く謂わばアングラと呼ばれる世界の一つ。だが、それは地上からみたこの場の見解に過ぎないが。
そんな怪しげ満載な場所でそんな異常者と戦えばコミュニケーション取れるかな、と思ってしまったその時の彼女の心労は割と末期だったのだろう。
それで本当にアングラ《下水道》に行ってしまったのだから馬鹿としかいいようがない。
思えば末期な思考状態に関わらず、心のどこかで私は天才だ、だからアングラなんかも余裕で渡っていけるだろう、と彼女自身で天才=最強の構図を脳内で展開してしまったのだから二の句も出ない。
そして、そんな戦場に身を置かない者の自称……まぁ他称でいっか、その天才と呼ばれた少女の末路がコレだ。
「何なんだ君はァァアァァァ!?」
彼女が相対するアングラ住民の魔術がワケわからない。
この者だけかもしれない。だが今現在そんな事はどうでもよかった。
火水風土と呼ばれる基本魔術における適性が通常一つにも限らず全てを操れることすらこの際問題としての位置づけに成せない。
詠唱は無いわ、魔法陣が術者から離れたところに顕れるわ、展開後移動するわ、それに加えてありえない事に幾つも同時展開するわで彼女の心中は
……絶賛、超後悔中なのだからっ!!
こうなるのも致し方ない。だが彼女は知らない。この相対するものは、そう自身と歳が離れた者でないことなど、アングラ世界でもここ一年で有名な魔術師となったことなど、そんな彼が異名【支配者】などと呼ばれている《《天才》》だということすらも。
そしてそんな人物と最初に出会ってしまった己が、相当運のない者だということすらも。
そう彼女は何も知らない。
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