狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

病んでる砂糖

十三『家族ってなんだっけ』

場面がまた変わった。そこには縛られた糸の両親と兄がいて、その後ろには銀と霧を含めた魔物の使用人たちが縛られていた。縛られている部屋は大広間。大広間の部屋の隅に銀さん達は拘束されている。
広い屋敷だと碧斗は思った。

『さ、て、と、なんだあんたが魔王?笑わせてくれるな。もう少し楽しめると思ったのに。こんなにもあっさりと捕まるとは。』

魔王は必死に助けてくれと言っているようだが、縛られているものはみんな猿轡さるぐつわをされているので何一つ勇者のパーティーに伝わるものはなかった。そう思った時、外ですごい音がした。

『ん〜?どうしたー?門番。』

ほかの勇者があくびでもしそうな声で外に呼びかける。門番を任されていたパーティーのメンバーが顔中を血塗れにして

『て、ててて敵が!!!!』

とあわてて言った。勇者は余裕綽々しゃくしゃくというふうにいつの間にやら用意した椅子でくつろいでいた。

『ふん、まだ周りの魔族共に連絡は回って無いはずだ。』

そう言って勇者が椅子から立ちあがり聖剣を呼び出す。仕草は勇者の方が魔王っぽいなと碧斗はおもう。本で読んで勇者をゆったりと待って勇者を苦戦させながらも倒されるのが魔王ではないのか。と、思う。

『ほう、さっきの黒髪の子供ではないか。』

『黒髪なんて名前ではありません。』

場面がコロコロと変わるので気づきにくかったが、もう二十年くらい経っていることになっているらしい。背丈が全く変わらないので分からなかった。

『それにしても、さっき剣で背中を叩き斬ってやったのに怪我はどうした。』

『治しましたよ。』

『へぇ、魔族は黒髪でも魔術が使えるの?』

実年齢が二十歳だと言ってもこの勇者とやらは鼻で笑うだろう。

『見くびられては困りますよ。』

糸は自ら魔力封印を解く。なんの事は無い首輪を取ればいいだけの事。普通の人間であれば術者に解いてもらわないと解けない魔術だ。

それを勇者たちも知っていたようで少し驚いた様子を見せる。勇者の髪は金髪。人間同士であれば銀髪の方が魔力は金髪より少ない。だが、魔族と、人間の魔力の基準はズレてる。

『銀髪か…。所詮は小娘、消し炭にしてやるよ。可哀想に、と思って慈悲をかけてやったのに…な。』

勇者の言葉が終わる前に糸は勇者の鳩尾に拳を入れる。セリフが勇者の方が魔王っぽいのは気のせいか。

『慈悲なんていらない。』

そう吐き捨てた糸にパーティーのメンバーは動揺する。そしてこの状況に娘が自分を救ってくれたと都合のいい妄想をしている一人の女がいた。糸の母である。

『ああ、糸、助けてくれたの…』

かまいたちの術を使って猿轡をとった、女の人はほっとしたように言う。パーティーのメンバー達がハッとした顔をする。糸が娘だと気づいたようだった。しかし

『貴女、誰ですか?』

糸が首を傾げる。再びパーティーのメンバーだけではなく大広間に緊迫した空気が漂う。

『どこかでお会いしたことありましたっけ?』

糸はしゃがんで母親と目線を合わせて首を傾げる。

『あなた…あなたはなんて恩知らずな娘なの!?なんて無礼な娘なの!?腹を痛めてあんたを産んだのはこの私ですわ!それを他人のフリとは…』

『以前、兄上と話していた時言っていたでは無いですか。『糸?そんな娘うちにはいないわよ。』って。なんておめでたい頭をしていらっしゃるの?顔も見たことない母親を助けに来るはずないでしょう?』

そう言って糸は霧と銀の縄を切る。その次に兄の縄を切って、その次に使用人たちの縄を切った。勇者パーティーのメンバーは誰一人としてそれを止めなかった。否、止められなかった。勇者も鳩尾を殴られてから話はずっと聞いていたがとめなかった。

『糸!私たちの縄は!?』

『え?貴女なんて知りませんよ、私が縄を切っているのは恩のある方だけですもの。兄上に私の世話を押し付け、自分の娘を赤の他人扱いしていた罰ですね。勇者パーティーの方々、この二人の処分については貴方達の勝手です。殺そうが拷問しようがそのまま解放しようが。ごきげんよう。』

颯爽と糸が館を出ていく。そしてそのあとに兄と霧と銀がついていき、その他の使用人も館を出ていった。
年下の少女にワンパンで負けたという屈辱的な出来事で勇者は心身共に打撃を食らった。

『取り敢えず、地下牢に入れとけ。あの少女の話を聞きたい。地下牢に入ってるやつがいたらそいつにも聞いといてくれ。』

『え〜?勇者様ァ、こいつら娘に誰って言われるくらいですよどうせ娘のことなんかこれっぽっちも知ってやいないと思ういますけど。』

『ま、やってみないと分からないし。』

そうして勇者たちはヒステリックに叫ぶ魔王の妻と泣いてさながら裁判で無罪を主張する囚人のような魔王を地下牢に入れた。残念ながら地下牢には一人も入っていなかった。魔王がその場で消し炭にしてしまうのだから。
館を出た魔王の娘が手頃な森を見つけてそこに魔物達が住み着くようになるのはまた別の話である。そしてそこに彼女魔王の娘の兄も住んでいるという。

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