狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

病んでる砂糖

十二『記憶』

「んでー?そんで今こんなことになっていると。」

直兄さんが話をまとめる。あの後、一回解散して今、栞堂に集まった。何故か、凛華も来ており、その世話役の銀という青年も連れていた。銀という青年は年でいえば俺より三、四歳くらい歳上に見える。そして何より気になるのはその綺麗な銀髪である。透き通るように綺麗であるけれど、その髪は整った青年の顔をより際立たせていた。傍から見れば、兄妹銀と凛華に見えなくもない。
髪の色は違うが。

「なんで来てるんですか?」

花梨がやりにくそうに顔に皺を寄せてから言う。

「あら、いいじゃないですか。」

「そしてなんでお付の人も…」

「別に珍しい事でもなくてよ。銀がついてくるのは。」

「いや、そういう訳じゃなくて…」

「で、みなさんはさっきの糸、という少女を探してるとか。」

銀が唐突に話し始める。そこに花梨は反論しても無駄だと気づき話に乗る。

「そうです。何か知ってませんか?」

「まあ、知ってるには知っているんですが…」

わざとらしく銀が渋る。

「え、じゃあ、教えて下さいよ。」

直兄さんが懇願するようにわざとらしく言う。

「教えていいのか良くないのか…」

銀がうーんと腕を組む。

「じゃあ、些細なことでもいいですから!」

「一番知りたがってるのって、直兄さんだよね。」

ぼそ、と雅斗が言う。ここにいる全員の心を代弁してくれた。

「確かに。」

「あ、面白そうじゃん!取り敢えず、教えてくれるんですか?教えてくれないんですか?」

直兄さんが言う。

「取り敢えず、教えてくれるんですか?教えてくれないんですか?」

凛華がぐい、と詰め寄る。
傍から見れば仲のいい兄弟だろう。

『あの人は…私の最初の主なんですよ。別に何度も主が変わっているわけじゃありませんが。』

それは俺達が今よりずっと子供だった頃のこと。そう言って銀さんは俺たちに追憶という固有スキルで銀さん自身の記憶を見せてくれた。


(糸の兄目線です)

『うーん。』

一人の青年が薄暗い森を歩きながら悩んでいる。銀ではない。しかし銀と同じく銀髪で賢そうな切れ長の目をさらに細めて森の道を歩いていた。その男が悩んでいたのは今度生れる妹の世話役について。母と父は

『お前はずっと妹を欲しがっていたろう?お前はその妹を育てたいか?』

と俺に聞いた。心の中で、は?と言ってしまった。だって世話というのは親と乳母、そして周りの家族みんなでする事だろう。俺はそういうのあまり知らないからよく分からないけど、そんなペットじゃあるまいし。

ちゃんとお世話できる?

はーい!

じゃあ飼ってあげる。

みたいなレベルの会話に一瞬呆ける。

『俺、一人でですか…?』

『そんなわけないだろう。』

ほっとした。

『妹の世話を見る者を連れてくるも連れてこないもお前の自由だ。』

え?それって俺に完全に教育権を渡したって事になるのか?
そこで俺は理解する。両親こいつらは徹底的に妹の面倒を見たくないんだ。

そんな者達のやり取りを見ていた者がいた。屋敷で働く魔物達である。

『あれはさすがに親としてどうかと思いますけど…』

『でも御主人様に逆らえば、一瞬で消し炭になるからね、こないだも新人の子が…若旦那様もたいへん悲しんでらっしゃったわ。』

『ああ、二人ともその話はやめて。残念な話だけど頭が痛くなるわ。そこんところ、そろそろあなた達も割り切らないと。』

などと、魔物の使用人たちが話しているところに、その若旦那であるさっきの青年が通り掛かる。

『そうだお前達。今度生れる妹の世話役をやりたいものはいるか。二人ほど欲しい。』

魔物達は恐縮して言い訳を並べ始める。

『私の様な下賎な魔物が若旦那様の妹様のお世話など…!』

『私も、もっと良い方がいらっしゃると思います!』

『お前達、もう一回、聞くこの中で今度生れる妹の世話役を務めてくれるものはいないか。』

使用人たちが慕っているこの若旦那からの頼みであっても、誰一人として手を挙げない。なにかヘマをしては自分の首が飛ぶか最初からなかったものにされる。

『仕方ない。俺が探しに行こう。』

そう言って若旦那は歩いていく。

そうして世話役の魔物を探すためにこのような森にまで出かけて言ったというわけだ。世話役として、俺が提示する条件は三つ。

・まず、妹となるべく歳が近い。だが産まれてもいない妹と歳が近いと言っても無理があるので特に気にしないことにした。

・大人しい。

・魔力がなるべく強いやつ。

最低限これくらい守ればいいのではなかろうか。

ガサガサっ

草の擦れる音がする。音のする方へ歩いていくとそこには双子の狐耳の兄弟が居た。金髪の子と、銀髪の子だ。ただ銀髪の子の方は今にも倒れそうなほど疲弊している。
見た目からそんなに歳をとっていないようだ。

『誰だお前。』

金髪の子が警戒しながら言う。銀髪の子を守るように銀髪の子を自分の後ろに隠した。見たところ二人とも魔力がなかなか強いようだ。口調さえ直せばいい世話役になるんじゃなかろうか。本当はとても凶暴である。なんてこともあるかもしれないが取り敢えず声をかけてみる。

『君達。どうしたんだい?』

『人間なんかに関係ない。』

『心外だな、僕は魔族だ。君たちの親戚みたいな感じだと言うのに。』

『だからといって助けてくれる訳でもないんだろう。』

『条件次第で、うちに置いてやらないこともないな。』

『嘘つけ。その条件とやらを言ってみろ。』

『まず、今君何歳?』

『必要か?十五くらい…』

おそらく数えてないんだろう。気まずそうに答える。魔族は寿命が長い。だから見た目など当てにならないことが多い。魔族に限って十五歳ではまだ人間の一切にも満たない年齢だ。

『うん、まあクリア。次はなるべく大人しいってことだ。』

『…』

その子は少し考える。

『全部正当防衛だ。』

『つまり、やられたらやり返す、てことか。その次、魔力がなるべく強いこと。』

『魔力なら自信はある。』

『ん、交渉成立だな。』

目の前の景色が一転する。碧斗は何処からかそのやり取りを見ていた。あんなに小さな子が二人きりで生きてきたのだろうか。魔物とはいえいくらなんでも可哀想だ。
銀さんはどこにいたのだろうか、銀髪はあの青年と、薄汚れた少年だけだった。
そして豪勢な洋館の中でさっきの青年と、その母親と思われる女の人が喧嘩のようなものをしている。

『お前、誰でもいいとは言いましたけど、こんなに汚い子供はうちには置けません、置きたくありません。』

『母上、この子達確かに汚れていますが、洗えばそれなりに綺麗になるはずです。』

『そういうことではないわ!』

ヒステリックに女の人が叫ぶ。

次の瞬間また場面が変わり、きっと青年の言う妹が生まれる直後だろう。

『元気な子ですよ!髪の毛が銀髪です!将来有望ですね!』

そういったのは更紗さんだ。何年前かわからないけど今とそう変わらない。変わっているのは服装くらいだろうか。そこに青年が駆けつける。

『母上!』

『嗚呼、終わったのですね、産まれたのですね。』

あの女の人がぐったりとして目を開ける。

『元気な女の子です。』

更紗さんがもう一度繰り返す。青年は心底嬉しそうにパァっと顔を輝かせる。その時だけその青年は少年に戻ったように幼い顔で笑っていた。この人は誰なのだろう。銀さんの記憶から、銀さんに関わる重要な人と考えていいだろう。

『母上、この子の名前は?』

『お前が決めていいよ。』

青年が問うと母親は放り出すように言った。さっきからこの母親は一度もこの人青年の名前を呼ばない。おかげで名前がわからない。

『じゃあ、考えときます!』

『あなたの好きなようになさい。』

まるでペットを選ぶ時のような口ぶりだ。
青年の後ろからは少し大きくなった先程の兄弟がついてきていた。金髪の子が、まだ少し舌っ足らずな甘い声で言う。

『若旦那様、私達は此方このかたにお仕えするのですね。』

銀髪の子も、同じように舌っ足らずな声で言う。

『若旦那様、本当に私達のようなはみ出しものが妹様のお世話をするのですか?』

『ああ、霧、銀、今日から私も手伝うが、お前達が私の妹の世話役だ。頼むぞ。 』

そこで色んなことがつながってきた。まず青年が拾ったのは銀さんで、もう一人はさっき少女を抱えてさった青年だろう。で、今生まれたのがあの糸という少女だとすると、最初の主というのにも納得がいく。そしてその次が凛華ということなんだろう。

『『御意』』

『堅苦しいからやめてって言ってるのに。』

声を揃えて言った兄弟に青年が苦笑する。
場面が変わる。

『銀の髪の毛は銀色だから銀って名前なの〜?』

さっきの銀(?)の声よりも、幼く甘い声が聞こえた。綺麗な銀髪の少女が銀の髪をさわさわと触りながら、首を傾げる。この少女があの無愛想な糸という少女だと考えると、少し辻褄が合わないところがある。顔こそあの糸のものだが、髪色は黒かったはずだ。それに髪の長さも違う。目の前の糸の髪は長く腰まで伸びる銀髪。俺の知る糸という少女は、とは言っても少ししか話したことは無いが。黒髪で長さは肩くらいまでしかない。

『そうみたいですね。それ、若旦那様にも言われました。』

『じゃあ糸が男だったら銀って名前になってたの?』

『さあ、既に一人銀がいるからないんじゃないんですか?』

金髪の青年、霧が口を挟む。

『霧はなんで霧って名前なの?』

『さあ、髪色ってわけでもなさそうですね。』

『思いつかなかったんじゃないの?』

純粋無垢な瞳で糸が首を傾げる。一体何がどうなってあんな無愛想な性格になってしまったのだろうか。

『待って主、それはちょっと傷つきます!』

『え、それ以外思いつかないじゃないですか。』

銀もからかい始める。

『銀まで!酷くないですか?』

また場面が変わる。今度は若旦那と呼ばれている青年がまた母親と喧嘩している。

『母上、こないだ糸が自分の母の顔はどんなだろうという話をしていました。どういう事ですか?』

『糸?そんな子供、うちにはいないわよ?誰かしら?』

『え…』

青年の顔に絶望の色が浮かぶ。だって、自分が母親とよぶ人に、自分の妹を他人だと言われたのだ。そりゃ絶望するだろう。

『すいません…失礼します。』

それにしても糸は生まれながらに母親といつでも会える環境にいた。それなのになぜ母親のことを知らなかったのだろう。今まで見てきた場面の中で確かにあの女の人の顔は見ていない。見るのは銀や霧、それに若旦那と呼ばれる兄、そして魔物の使用人たち。その中で糸がそんなことを言っていたような仕草は一度だって見なかった。

『あ、兄上!すいません、さっき銀たちと遊んでたら服が少し破けてしまって…』

『ああ、見せてごらん、小さいね。針を持っていないか?』

『はい。』

銀が差し出す。なんでそんなの持ってんだ。と突っ込みたくなるが抑える。青年は器用に長く伸ばした自分の髪の毛を針に通して服の破れ目を縫ってくれる。ものの数分で破れ目はほとんど見えなくなった。糸の兄は髪の毛がとても長く、銀色だった。街を歩けば黄色い歓声を上げながら女子達がワラワラと着いてくるだろう。
髪の毛というのは魔力の量を表していると言われている。だから、修行すればするほど魔力が強くなり魔力が強くなれば髪の毛の色が変わる。ちなみに意識していなかったが、糸の母親と思しきあの女の人は魔族ではあるが、髪色が緑色だった。それなりに魔力は強いが青年の方が魔力は強いのだろう。つまり、反乱を起こそうとすれば起こせるということだ。

『私の母親は、どこにいるのでしょうか…』

『…』

兄は黙り込む。その母親とつい先程話して糸なんて子供はいないと言われたのだ。何をいえばいいか分からない。

『でも、私が母上や父上に愛されていたとしたらきっと使用人のみんなとはこんなふうに仲良くはなれなかったと思います。』

糸の言うことに青年は誤魔化すように少し微笑んで話題を変えた。

『そういえば…』

兄が懐から首輪を出す。

『兄上、それは何ですか?』

『糸、これは…魔力封印の首輪なんだ。お前は魔力があまりにも大きくなりすぎてしまった。だからもう少し抑えねばいけないのだ。』

糸は簡単に信じてその首輪をつける。また一つの糸と糸が繋がる。髪が黒く、短いのは魔力封印のせいだと。
場面が変わる。今度は何やら緊迫した空気だった。

『銀!霧!うっ…』

霧と銀が背中から血を流して倒れていた。そこに二人を心配する糸がいて、そのすぐ側には立派は装備の男女五人がいた。

『はあ、やっと魔王のところまでついたはいいけど、なんなのこの罪悪感…この子達今かくれんぼしてたんだよね。そんな所に剣持ってそのうちの二人切って仲間のしを悲しんでいる時にそいつも切る。』

『ああ、ってか魔王城、て感じじゃなくて魔王館って感じだね。』

会話の内容からするに勇者だろうか。正確にはパーティだろう。

『この子達は〜?黒髪だ。捕えなくても死ぬ。銀髪と金髪の奴らは捕らえろ。』

おそらく今喋ったやつが勇者だろう。勇者ってもっとなんか違うイメージだったのだけど。

『ふっ、さっすが『冷酷の勇者』って呼ばれるだけあるね。』

そんなあだ名がついていたのか。まあそりゃ言われるでしょうね。そう俺が思っていると二人が髪の毛を乱暴に掴まれて引きずられていったのが見えた。思わず手を出す。手は彼らをすり抜けて空を切る。所詮記憶なのだ。その時の体験を見るだけのもの。でも、銀さんは気絶しているのになぜ記憶はこんなところまで見れるのだろうか。ふと糸を見る。黒髪とはいえ、持っている魔力の関係で封印なんて容易に解くことが出来た糸は怪我をとっくに治して奴らを睨んでいた。

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