狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。
プロローグ『狂乱の森』
昔から町のはずれに『狂乱の森』と呼ばれる大きな森がある。
そこは隣の国との国境でもあり、国が抱える問題でもあった。何故、狂乱の森なんて恐ろしい名前がついたのか。
勘がいい人ならなんとなく察せる人もいるかもしれない。何故狂乱の森と呼ばれるのか、それはその森に入ったほとんどの者達は森から狂ったように叫びながら出てくるのだ。また、森の入口で倒れている時もある。そしてその者達は意識が混乱し、そのあとも回復して普通に戻れるものは少ない。というか十万人に一人と言われている。その十万人に一人の確率の中で運良く普通に戻れたものは皆こう言った。
『あの森にはとんでもない化け物がいる』
と。どんな姿形をしているのか、どのくらいの大きさなのか、その類のことにほとんどのものは頑なに口を噤んでしまった。
だから昔から町ではどんな小物のものでも、魔物が出れば、大騒ぎになった。
大勢で取り囲んで殴って蹴ってその光景を見るに出現した魔物よりも人間のその必死さの方が魔物に憑かれているようであった。
この街では魔物=狂乱の森の住人 という認識になってると言っても過言ではないだろう。
実際、魔物は外の町から気まぐれに街に現れる時もあるし、種類によっては人の悪意に吸い寄せられてくる時もある。
魔物の大好物は人が抱える悪意なのだから。
狂乱の森も500年前、当時のライムント王家に反乱が起きた時、この街が反乱軍の主な拠点になったことが始まりだった。
王家は戦争をして周りの国を 侵略しようと企んでいたがそのための軍資金を税で賄うため、当時の民は重税に苦しんでいた。
さらに戦力になる男は全員徴兵されていたので反乱軍のほとんどが女性だったと言う。
出稼ぎに出ていた女性が多かったこの街に当時の反乱軍は集い、国王への不満を重ねていった。
その不満は魔物を引き寄せ、街の近くの普通の森を魔物の巣窟に変えたのだ。
「人間…」
『?』
ぽつりと呟いた少女に小首を傾げる竜。
薄暗いが陰気だと感じさせない爽やかな涼しさを纏う森の中、少女と竜が1人と1匹。向かい合っていた。
「入ってきたな」
竜にリンゴという単語を教えていた少女は不意に振り返って少し面倒くさそうな顔をした。
侵入者はいつの時代も全くない訳では無いが100年ほど前に怖がらせた効果もなくなり、ここ数十年の間に肝試しに森へ入る人間が増えた。
少女の背丈程の小首を傾げた小さな白い竜を撫でながら彼女は微笑んだ。
「キミが言葉を理解できるようになったらたくさん遊ぼうね」
竜は理解していないようだったが少女に撫でられて気持ちよさそうに目を細めた。
そしてひとしきり竜を撫でて満足した黒髪の少女は気だるげに立ち上がった。
日差しが陰りを見せ始めた夕方の街を一人の少女が歩いていく。
商家の娘のような華やかなワンピースを纏って従者は付けずに混み合う市場を歩いていた。
「嬢ちゃんかわいいね、リンゴひとつおまけするよ!」
八百屋の店主はたくさんの果物を入れたバスケットの上にリンゴを足す。
「ありがとうございま…」
「ええ〜!?店主私にもおまけしてぇ〜」
お礼を言おうとした瞬間、間延びした素っ頓狂な女の声が背後から上がり思わず肩を震わせた。
「お嬢さんすまないね驚かせるつもりはなかったよ」
先程の台詞からは想像もつかないハスキーな声で女はパチンとウィンクした。
私は雨波 花梨。雨波家の一人娘。雨波家というのは五百年前からあるという歴史ある家で、上級貴族だ。狂乱の森という名前になった経緯まで語っておきながらなぜその森に行こうとするのか。さっき話したことはあくまで昔はそうだった、という話だ。今はと言うと森の周りに警備兵が置かれ、森に入ろうとするものを拒むようになっている。そして一部の魔物は、街でさりげなく働くようになった。私の家である、雨波家の一人目の家臣はツノうさぎという魔物の更紗と言う者だし、他はカラスの魔物達が町人に内緒で大臣などの皇都の幹部などの者達の情報伝達をしたりするようになった。私の母も皇都で数少ない女性の政治家であり、メスのカラスの魔物にアサレアという名前をつけて情報伝達に使っている。彼等には魔物の言葉というものがあるが、森の主というものに、人間の言葉を教わっているらしく、働き始めた頃には普通に言葉を喋っていた。ぎゃあぎゃあと喚く魔物しか見た事のなかった騎士達は魔物達が働き始めたその当時とても驚いたそうだ。そうこうしているあいだに森についた。兵士の目があるが上手く交わして森に入ることが出来た。そこでほっとため息をつく。母もここまでは流石に入ってこないだろう。母はたまに女かを疑うくらい男のように振舞ったり、残酷な決断をしたりする。でも、私が子供のとき森の近くを母と通った時そういう振る舞いをしているのを忘れたように早歩きで通り過ぎた。きっと怖いんだろう。母は子供の時何か見たのかもしれない。だけど森は噂に反して静まりかえっていた。そして薄暗かった。しかしジメジメしてたりする訳では無いむしろ居心地がいいくらいだ。そう思いながら森を歩いていると、ガサリと草むらが揺れた。
そこは隣の国との国境でもあり、国が抱える問題でもあった。何故、狂乱の森なんて恐ろしい名前がついたのか。
勘がいい人ならなんとなく察せる人もいるかもしれない。何故狂乱の森と呼ばれるのか、それはその森に入ったほとんどの者達は森から狂ったように叫びながら出てくるのだ。また、森の入口で倒れている時もある。そしてその者達は意識が混乱し、そのあとも回復して普通に戻れるものは少ない。というか十万人に一人と言われている。その十万人に一人の確率の中で運良く普通に戻れたものは皆こう言った。
『あの森にはとんでもない化け物がいる』
と。どんな姿形をしているのか、どのくらいの大きさなのか、その類のことにほとんどのものは頑なに口を噤んでしまった。
だから昔から町ではどんな小物のものでも、魔物が出れば、大騒ぎになった。
大勢で取り囲んで殴って蹴ってその光景を見るに出現した魔物よりも人間のその必死さの方が魔物に憑かれているようであった。
この街では魔物=狂乱の森の住人 という認識になってると言っても過言ではないだろう。
実際、魔物は外の町から気まぐれに街に現れる時もあるし、種類によっては人の悪意に吸い寄せられてくる時もある。
魔物の大好物は人が抱える悪意なのだから。
狂乱の森も500年前、当時のライムント王家に反乱が起きた時、この街が反乱軍の主な拠点になったことが始まりだった。
王家は戦争をして周りの国を 侵略しようと企んでいたがそのための軍資金を税で賄うため、当時の民は重税に苦しんでいた。
さらに戦力になる男は全員徴兵されていたので反乱軍のほとんどが女性だったと言う。
出稼ぎに出ていた女性が多かったこの街に当時の反乱軍は集い、国王への不満を重ねていった。
その不満は魔物を引き寄せ、街の近くの普通の森を魔物の巣窟に変えたのだ。
「人間…」
『?』
ぽつりと呟いた少女に小首を傾げる竜。
薄暗いが陰気だと感じさせない爽やかな涼しさを纏う森の中、少女と竜が1人と1匹。向かい合っていた。
「入ってきたな」
竜にリンゴという単語を教えていた少女は不意に振り返って少し面倒くさそうな顔をした。
侵入者はいつの時代も全くない訳では無いが100年ほど前に怖がらせた効果もなくなり、ここ数十年の間に肝試しに森へ入る人間が増えた。
少女の背丈程の小首を傾げた小さな白い竜を撫でながら彼女は微笑んだ。
「キミが言葉を理解できるようになったらたくさん遊ぼうね」
竜は理解していないようだったが少女に撫でられて気持ちよさそうに目を細めた。
そしてひとしきり竜を撫でて満足した黒髪の少女は気だるげに立ち上がった。
日差しが陰りを見せ始めた夕方の街を一人の少女が歩いていく。
商家の娘のような華やかなワンピースを纏って従者は付けずに混み合う市場を歩いていた。
「嬢ちゃんかわいいね、リンゴひとつおまけするよ!」
八百屋の店主はたくさんの果物を入れたバスケットの上にリンゴを足す。
「ありがとうございま…」
「ええ〜!?店主私にもおまけしてぇ〜」
お礼を言おうとした瞬間、間延びした素っ頓狂な女の声が背後から上がり思わず肩を震わせた。
「お嬢さんすまないね驚かせるつもりはなかったよ」
先程の台詞からは想像もつかないハスキーな声で女はパチンとウィンクした。
私は雨波 花梨。雨波家の一人娘。雨波家というのは五百年前からあるという歴史ある家で、上級貴族だ。狂乱の森という名前になった経緯まで語っておきながらなぜその森に行こうとするのか。さっき話したことはあくまで昔はそうだった、という話だ。今はと言うと森の周りに警備兵が置かれ、森に入ろうとするものを拒むようになっている。そして一部の魔物は、街でさりげなく働くようになった。私の家である、雨波家の一人目の家臣はツノうさぎという魔物の更紗と言う者だし、他はカラスの魔物達が町人に内緒で大臣などの皇都の幹部などの者達の情報伝達をしたりするようになった。私の母も皇都で数少ない女性の政治家であり、メスのカラスの魔物にアサレアという名前をつけて情報伝達に使っている。彼等には魔物の言葉というものがあるが、森の主というものに、人間の言葉を教わっているらしく、働き始めた頃には普通に言葉を喋っていた。ぎゃあぎゃあと喚く魔物しか見た事のなかった騎士達は魔物達が働き始めたその当時とても驚いたそうだ。そうこうしているあいだに森についた。兵士の目があるが上手く交わして森に入ることが出来た。そこでほっとため息をつく。母もここまでは流石に入ってこないだろう。母はたまに女かを疑うくらい男のように振舞ったり、残酷な決断をしたりする。でも、私が子供のとき森の近くを母と通った時そういう振る舞いをしているのを忘れたように早歩きで通り過ぎた。きっと怖いんだろう。母は子供の時何か見たのかもしれない。だけど森は噂に反して静まりかえっていた。そして薄暗かった。しかしジメジメしてたりする訳では無いむしろ居心地がいいくらいだ。そう思いながら森を歩いていると、ガサリと草むらが揺れた。
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