継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
危険な違法奴隷③
「あ~あ。どうやったらここから出られるの? もう、これ以上街を壊したら真っ暗になってしまうわ」
魔族の少女がそんなことを言いながら、周りにある建物を壊して歩いていた。
「階段も壊しちゃったんじゃないの?」
「あ、それだ! 君、頭いいね! あれ? 君は誰?」
「俺はレオンス・ミュルディーンだよ。レオって呼んで」
少女の近くに降り立った俺は、一応名乗っておいた。
「レオね。わかった。私は、ルー。ルーって呼んで」
「わかった」
ふう、どうやら会話は出来るみたいだな……。
どうにか、このまま平和に終わりますように。
「それで、どうしてあなたはここにいるの? もしかして、私みたいに誘拐されちゃったの?」
やっぱり、この子は誘拐されてここに来たんだ……。
「違うよ」
「じゃあ、どうしてここに?」
うん~~。刺激しないようにするには、なんて言えばいいんだ?
「えっと……君を助けるためかな?」
俺は、慎重に言葉を選びながら答えた。
「え? 私を助ける? どうやって?」
「君が大人しくしてくれるなら、地上に連れて行ってあげる。それと、奴隷契約の解除も」
「レオはそんなことが出来るの? 見た感じ、私と同じくらいの歳だよね?」
「できるよ」
「そう。それで、私を助けた後はどうするの?」
この答えも難しいな……。
もし、助けた後にルーが安全だとわかったとしても、魔族の少女を自由にさせておくのはダメだよな……。
「助けた後……。ルーは、地上に出たら何をしたい?」
出来る限り、ルーの要望を叶えられるようにしたいな。
「気が済むまで人を殺したい。特に、私を奴隷にした連中はね」
うん、無理だ。
「そ、そうなんだ……」
ど、どうしよう。このままだと、平和に解決することが……。
「あ、レオは殺さないから安心して。私、仲良くなった人は、なるべく殺さないようにしているんだ」
な、なるべくね……。
「そ、そうか……。そういえば、どうしてルーは奴隷になってしまったの?」
そんなに強かったら、逃げることもできたよね?
「首輪をつけたらご飯をくれるってあいつらに言われて、言われた通りに着けたら、あいつらに逆らえなくなってしまったわ」
え? そんな簡単な手口で騙されたの!?
「そ、そんな方法で……。ねえ、ルーはどうして人間界にいるの?」
「それがわからないの。気がついたらドラゴンの群れと戦っていたわ。どうしてなのかはわからないけど、私の中の何かがどんなことがあっても人間界に行けって……」
なるほど……記憶喪失の影響で記憶が曖昧なのか?
それにしても……
「ドラゴンの群れと戦った!?」
「ええ、そうよ。死ぬかと思ったけど、なんとかあの山を越えることができたわ」
死ぬかと思ったって、随分と軽いな……。
あの、死の山脈なんだぞ?
「よく死ななかったね……」
破壊魔法って凄いな。
これから、戦うかもしれないと思うと恐ろしくて仕方がないけど……。
「まあね!」
俺に褒められたと勘違いしたルーは、嬉しそうに胸を張った。
「それじゃあ、上に案内してよ」
そう言って、ルーが近づいてきた。
はあ、慎重に……言うぞ。
「えっと……それは出来ないかな」
「どうして?」
目の前に来たルーが首を傾げた。
「だって、地上に上がったらたくさんの人を殺すんでしょ?」
「ええ、そうよ。ダメ?」
ダメに決まっているだろ!
まあ、そんな感覚は魔族には無いかもしれないけど……。
「う、うん、ダメだよ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「これ以上人を殺すことを諦めてくれない? ここにいた人は……罪人だからまだ許せるけど。上にいる人はほとんど関係ないからね?」
どうにか諦めてくれ……。
俺はルーの気が変わってくれることを祈った。
「わかったわ」
え?
「本当!? 諦めてくれるの?」
「うんうん、自力で上がる方法を探すわ」
「へ?」
ん? どういうこと?
「ということで、またね!」
ルーは笑顔でそう言うと、俺に背を向けて歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何? 教えてくれる気になった?」
俺が呼び止めると、クルっと回転してこっちを見てきた。
「違う! どうして、そんなに人を殺すことに拘るの? 復讐の為なら、もう十分じゃないの? この街を見てみなよ。ほとんどの人や物をルーが壊してしまったじゃないか」
俺はルーに諦めてもらえるよう、必死に訴えた。
俺の言葉を聞いたルーは、少し考える素振りをしてから話し始めた。
「確かに言われてみればそうね。復讐の為って言ったのは、嘘なのかもしれないわ」
ん?
「ど、どういうこと?」
「単に、私は何かを壊したいだけなのかもしれないわ。ずっと、拘束されていたから、ストレスが溜まっているのかも」
「そ、そうだよね……」
くそ……。もう、覚悟を決めないと……。
「もういい? 行くわよ」
俺が悩んでいると、ルーがまた歩き出してしまった。
「ま、待って!」
「なに? まだあるの?」
二度目の呼び止めに、ルーは鬱陶しそうな顔をしていた。
くそ! もう、こうなったら覚悟を決めろ!
「これから勝負をしないか?」
「勝負?」
「うん。正直、ルーが上で街を壊されたら俺は困るんだ」
「どうして?」
本気で俺が言っている意味がわからないのか……ルーは、俺を見ながら首を傾げていた。
誰だって、同族が殺されることは嫌だと思うんだけどな……。
「そりゃあ、俺の街だからね」
「レオの街? どういうこと?」
「この上にある街は、これから俺が管理することになっているんだよ」
「だから、壊されてしまったら困ると……。それで、勝負って何?」
ルーは、少し納得したような顔をすると、すぐに勝負に関心が移ってしまった。
はあ、やっぱり戦わないといけないのか……。
「そのままの意味だよ。これから、二人で勝負をしよう。負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くことが条件で」
たぶん、ルーの性格ならこの勝負を受けてくれるはず……。
「へえ。面白いわね。それじゃあ、負けた方が勝った方の奴隷というのはどう? 一生、勝った方に尽くすの」
こ、怖いことを言うな……。
でも、俺から言い出したことだから、断れそうにないな。
「いいよ。ルールは、降参と言った方が負け。いい?」
死んでも降参って言わないからな!
「うん、いいわ。手とか足とか無くなっても文句は言わないでよ?」
ルーがニコニコしながら、とんでもないことを言ってきた。
「う、うん……い、言わないよ」
もう、目の前の化け物から逃げたくて仕方ないんだけど。
「わかったわ。それじゃあ、始めましょうか。えい!」
承諾と共に開始の合図をして、破壊魔法を繰り出してきた。
俺は回避不可能と判断して、すぐに転移を使った。
「あれ?」
「あ、危なかった……って、うおお!」
ルーの背後に、なんとか転移できたことに安心していると、すぐにルーが手を振り下ろしているのが見えたので、急いで走った。
「っち! 逃げ足が速いわね。あなたも攻撃してきなさいよ!」
そんなことを言われても、足を止めたら死ぬ状況だよ?
「はいはい。そりゃ!」
心の中で文句を言いながら、エレナを使って斬撃をいくつか飛ばした。
ただ……
「えい!」
簡単に消されてしまったけど。
「今の凄いわね。どうやったの?」
お前に褒められても嬉しくない!
「ルーの魔法の方が凄いと思うけどな……」
「そう? これでも、ずっと使っていなかったからまだ本調子じゃないわ。えい!」
ルーはしゃべりながら、今度は俺の動きを予測して腕を振り下ろした。
急な方向転換は出来そうにないな……。
「おっと。そうなんだ。俺も、ここのところ本気で戦ってなかったから、体がなまっているみたいだ」
俺は、転移を使ってルーの真後ろに転移してみた。
「へ~~そうなんだ。 えい!」
「あぶな!」
ルーが振り向こうとしているところに合わせて、もう一度転移した。
「今の何? 反則よ!」
反則って……破壊魔法が言うなよな。
「これはスキルだよ。ルーもスキルを使っているんだから、公平だろ?」
「そうだけど……当たらないじゃない! もう!」
また、話しながら手を振り下ろす。
「いや、当たったら即死なんだから、必死に避けるのは当たり前だろ?」
俺は、そんなことを言って転移を使ってまたルーの背後に移動した。
「そんなの知らないわよ!」
怒りながら、ルーが振り返りながら右手を俺に振り下ろそうとした……腕を俺が掴んだ。
「まあ、落ち着けって」
手が動かせなければ、攻撃されないからね。
と、油断していたら
「いやよ!」
左手を振り下ろした。
俺のもう片方の手は、エレナで塞がっていて掴むことはできないから、一旦転移で離れた。
「もう! ちょこまかちょこまかと! こうなったらこうしてやるわ!」
怒ったルーはがむしゃらに手を動かして、所かまわず破壊魔法で消し始めた。
これが、意外に近づく隙が無く、俺はルーの手の動きを見ながら必死に避けることしか出来なかった。
「ちょ! それこそ反則だろ!」
近づけないじゃん!
くそ……ルーが魔力切れになることは絶対にないから、このままだとジリ貧だ。
必死に避けながら、どうすればいいのか考える。
アンナが言っていた能力の内容は、見える範囲で手を動かした方向にある物を破壊または分解するんだったよな。
だから避けるには、見えない背後を取るまたは、手の動きを読むか封じないといけない……。
うん……。あ、いいこと思いついた。
「よし、本気出すぞ!」
「まさか、今まで本気じゃなかったとでも言うの?」
俺のことを茶化しながらも、ルーは攻撃の手を緩めない。
「まあね!」
俺は返事しながら、背後に転移してすぐに斬撃を飛ばす。
「それは効かないわ!」
ルーはそう言って、すぐに斬撃を破壊魔法で消してしまった。
「そうですか!」
また背後に転移して斬撃を飛ばす。
「ちょ!」
慌てながらも、ルーはしっかりと斬撃を消した。
まあ、これで終わりじゃないんだけどね。
「ほらほら!」
俺は、背後や横に転移したら斬撃を飛ばすことを繰り返した。
攻守逆転だ。
「ま、待ってよ!」
これには、流石に消すのが大変になってきたようだ。
「まだまだ」
俺はもっと、転移と斬撃を飛ばす間隔を縮めた。
すると……
「うわ!」
手が追いつかなくなったルーがついに体全体を動かして避けた。
よし、今だ!
俺はこの隙を見逃さず、ルーのすぐ後ろに転移して、左手でルーの目を隠しつつ、ルーの首に優しく剣を当てた。
「はい、俺の勝ち」
目隠しをしてしまえば、ルーは破壊魔法を使えない。
破壊魔法を使えないルーは、ちょっと強い女の子だ。
「そ、そんな……」
俺に目を隠されながら、ルーは悔しそうな声を出した。
「それじゃあ、素直に降参してくれない?」
お願いだから、これで終わりにしよう。
「で、でも……」
あ、負けを認めたら俺の奴隷になるって約束していたんだっけ。
「降参してくれるなら、これから毎日、凄く美味しいご飯を三食用意するけど?」
これまでのルーを見てきて、この条件が一番効果ありそうな気がしてきた。
「ほ、本当!? 美味しいご飯……しかも三食……」
ルーの声から、凄く悩んでいるのが伝わってきた。
あと一押し!
「本当だよ。俺、こう見えて凄い金持ちだからね? ルーの服もベッドもちゃんと用意するよ」
「ベッド? ベッドで寝られるの!?」
ルーは、ベッドに食いついて来た。
そういえば、今まで奴隷生活でちゃんとした寝床で寝てなかったんだろうな……。
「うん。ベッドで寝れるよ」
「本当? 嘘じゃない?」
疑い深いな……。
まあ、一度騙されているわけだし当然か。
「絶対に嘘じゃない。嘘だったら、俺のことを破壊していいよ」
「うん……わかった。それじゃあ……降参します」
やった! 終わった~!!
「ふう……。それじゃあ、奴隷契約をしてもいい?」
「ダメ!」
俺が首輪を触ろうとすると、ルーが叫んだ。
「え?」
降参したんだから、奴隷契約してもいいんじゃないの?
「レオが言っていたことが嘘かどうか確かめてから!」
ああ、そういうこと。
仕方ないな……。
「まあ、いいけど。それじゃあ、俺の許可なしに破壊魔法を使わないことを約束してくれる?」
「うん。約束する」
ルーはコクコクと頷いた。
「わかった。それじゃあ、ご飯を食べに帰ろうか……」
俺はルーの目から手を離して、エレナをしまった。
「うん! 久ぶりにたくさん動いたから、凄いお腹すいた~」
目が見えるようになっても、ルーは特に怪しい動きはせず、純粋にご飯を楽しみにしているように見えた。
ふう、死ぬかと思った瞬間が何度もあったけど、なんとか怪我なしで終わって良かった……。
それから、隠しておいたリュックを拾ってから城に転移した。
魔族の少女がそんなことを言いながら、周りにある建物を壊して歩いていた。
「階段も壊しちゃったんじゃないの?」
「あ、それだ! 君、頭いいね! あれ? 君は誰?」
「俺はレオンス・ミュルディーンだよ。レオって呼んで」
少女の近くに降り立った俺は、一応名乗っておいた。
「レオね。わかった。私は、ルー。ルーって呼んで」
「わかった」
ふう、どうやら会話は出来るみたいだな……。
どうにか、このまま平和に終わりますように。
「それで、どうしてあなたはここにいるの? もしかして、私みたいに誘拐されちゃったの?」
やっぱり、この子は誘拐されてここに来たんだ……。
「違うよ」
「じゃあ、どうしてここに?」
うん~~。刺激しないようにするには、なんて言えばいいんだ?
「えっと……君を助けるためかな?」
俺は、慎重に言葉を選びながら答えた。
「え? 私を助ける? どうやって?」
「君が大人しくしてくれるなら、地上に連れて行ってあげる。それと、奴隷契約の解除も」
「レオはそんなことが出来るの? 見た感じ、私と同じくらいの歳だよね?」
「できるよ」
「そう。それで、私を助けた後はどうするの?」
この答えも難しいな……。
もし、助けた後にルーが安全だとわかったとしても、魔族の少女を自由にさせておくのはダメだよな……。
「助けた後……。ルーは、地上に出たら何をしたい?」
出来る限り、ルーの要望を叶えられるようにしたいな。
「気が済むまで人を殺したい。特に、私を奴隷にした連中はね」
うん、無理だ。
「そ、そうなんだ……」
ど、どうしよう。このままだと、平和に解決することが……。
「あ、レオは殺さないから安心して。私、仲良くなった人は、なるべく殺さないようにしているんだ」
な、なるべくね……。
「そ、そうか……。そういえば、どうしてルーは奴隷になってしまったの?」
そんなに強かったら、逃げることもできたよね?
「首輪をつけたらご飯をくれるってあいつらに言われて、言われた通りに着けたら、あいつらに逆らえなくなってしまったわ」
え? そんな簡単な手口で騙されたの!?
「そ、そんな方法で……。ねえ、ルーはどうして人間界にいるの?」
「それがわからないの。気がついたらドラゴンの群れと戦っていたわ。どうしてなのかはわからないけど、私の中の何かがどんなことがあっても人間界に行けって……」
なるほど……記憶喪失の影響で記憶が曖昧なのか?
それにしても……
「ドラゴンの群れと戦った!?」
「ええ、そうよ。死ぬかと思ったけど、なんとかあの山を越えることができたわ」
死ぬかと思ったって、随分と軽いな……。
あの、死の山脈なんだぞ?
「よく死ななかったね……」
破壊魔法って凄いな。
これから、戦うかもしれないと思うと恐ろしくて仕方がないけど……。
「まあね!」
俺に褒められたと勘違いしたルーは、嬉しそうに胸を張った。
「それじゃあ、上に案内してよ」
そう言って、ルーが近づいてきた。
はあ、慎重に……言うぞ。
「えっと……それは出来ないかな」
「どうして?」
目の前に来たルーが首を傾げた。
「だって、地上に上がったらたくさんの人を殺すんでしょ?」
「ええ、そうよ。ダメ?」
ダメに決まっているだろ!
まあ、そんな感覚は魔族には無いかもしれないけど……。
「う、うん、ダメだよ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「これ以上人を殺すことを諦めてくれない? ここにいた人は……罪人だからまだ許せるけど。上にいる人はほとんど関係ないからね?」
どうにか諦めてくれ……。
俺はルーの気が変わってくれることを祈った。
「わかったわ」
え?
「本当!? 諦めてくれるの?」
「うんうん、自力で上がる方法を探すわ」
「へ?」
ん? どういうこと?
「ということで、またね!」
ルーは笑顔でそう言うと、俺に背を向けて歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何? 教えてくれる気になった?」
俺が呼び止めると、クルっと回転してこっちを見てきた。
「違う! どうして、そんなに人を殺すことに拘るの? 復讐の為なら、もう十分じゃないの? この街を見てみなよ。ほとんどの人や物をルーが壊してしまったじゃないか」
俺はルーに諦めてもらえるよう、必死に訴えた。
俺の言葉を聞いたルーは、少し考える素振りをしてから話し始めた。
「確かに言われてみればそうね。復讐の為って言ったのは、嘘なのかもしれないわ」
ん?
「ど、どういうこと?」
「単に、私は何かを壊したいだけなのかもしれないわ。ずっと、拘束されていたから、ストレスが溜まっているのかも」
「そ、そうだよね……」
くそ……。もう、覚悟を決めないと……。
「もういい? 行くわよ」
俺が悩んでいると、ルーがまた歩き出してしまった。
「ま、待って!」
「なに? まだあるの?」
二度目の呼び止めに、ルーは鬱陶しそうな顔をしていた。
くそ! もう、こうなったら覚悟を決めろ!
「これから勝負をしないか?」
「勝負?」
「うん。正直、ルーが上で街を壊されたら俺は困るんだ」
「どうして?」
本気で俺が言っている意味がわからないのか……ルーは、俺を見ながら首を傾げていた。
誰だって、同族が殺されることは嫌だと思うんだけどな……。
「そりゃあ、俺の街だからね」
「レオの街? どういうこと?」
「この上にある街は、これから俺が管理することになっているんだよ」
「だから、壊されてしまったら困ると……。それで、勝負って何?」
ルーは、少し納得したような顔をすると、すぐに勝負に関心が移ってしまった。
はあ、やっぱり戦わないといけないのか……。
「そのままの意味だよ。これから、二人で勝負をしよう。負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くことが条件で」
たぶん、ルーの性格ならこの勝負を受けてくれるはず……。
「へえ。面白いわね。それじゃあ、負けた方が勝った方の奴隷というのはどう? 一生、勝った方に尽くすの」
こ、怖いことを言うな……。
でも、俺から言い出したことだから、断れそうにないな。
「いいよ。ルールは、降参と言った方が負け。いい?」
死んでも降参って言わないからな!
「うん、いいわ。手とか足とか無くなっても文句は言わないでよ?」
ルーがニコニコしながら、とんでもないことを言ってきた。
「う、うん……い、言わないよ」
もう、目の前の化け物から逃げたくて仕方ないんだけど。
「わかったわ。それじゃあ、始めましょうか。えい!」
承諾と共に開始の合図をして、破壊魔法を繰り出してきた。
俺は回避不可能と判断して、すぐに転移を使った。
「あれ?」
「あ、危なかった……って、うおお!」
ルーの背後に、なんとか転移できたことに安心していると、すぐにルーが手を振り下ろしているのが見えたので、急いで走った。
「っち! 逃げ足が速いわね。あなたも攻撃してきなさいよ!」
そんなことを言われても、足を止めたら死ぬ状況だよ?
「はいはい。そりゃ!」
心の中で文句を言いながら、エレナを使って斬撃をいくつか飛ばした。
ただ……
「えい!」
簡単に消されてしまったけど。
「今の凄いわね。どうやったの?」
お前に褒められても嬉しくない!
「ルーの魔法の方が凄いと思うけどな……」
「そう? これでも、ずっと使っていなかったからまだ本調子じゃないわ。えい!」
ルーはしゃべりながら、今度は俺の動きを予測して腕を振り下ろした。
急な方向転換は出来そうにないな……。
「おっと。そうなんだ。俺も、ここのところ本気で戦ってなかったから、体がなまっているみたいだ」
俺は、転移を使ってルーの真後ろに転移してみた。
「へ~~そうなんだ。 えい!」
「あぶな!」
ルーが振り向こうとしているところに合わせて、もう一度転移した。
「今の何? 反則よ!」
反則って……破壊魔法が言うなよな。
「これはスキルだよ。ルーもスキルを使っているんだから、公平だろ?」
「そうだけど……当たらないじゃない! もう!」
また、話しながら手を振り下ろす。
「いや、当たったら即死なんだから、必死に避けるのは当たり前だろ?」
俺は、そんなことを言って転移を使ってまたルーの背後に移動した。
「そんなの知らないわよ!」
怒りながら、ルーが振り返りながら右手を俺に振り下ろそうとした……腕を俺が掴んだ。
「まあ、落ち着けって」
手が動かせなければ、攻撃されないからね。
と、油断していたら
「いやよ!」
左手を振り下ろした。
俺のもう片方の手は、エレナで塞がっていて掴むことはできないから、一旦転移で離れた。
「もう! ちょこまかちょこまかと! こうなったらこうしてやるわ!」
怒ったルーはがむしゃらに手を動かして、所かまわず破壊魔法で消し始めた。
これが、意外に近づく隙が無く、俺はルーの手の動きを見ながら必死に避けることしか出来なかった。
「ちょ! それこそ反則だろ!」
近づけないじゃん!
くそ……ルーが魔力切れになることは絶対にないから、このままだとジリ貧だ。
必死に避けながら、どうすればいいのか考える。
アンナが言っていた能力の内容は、見える範囲で手を動かした方向にある物を破壊または分解するんだったよな。
だから避けるには、見えない背後を取るまたは、手の動きを読むか封じないといけない……。
うん……。あ、いいこと思いついた。
「よし、本気出すぞ!」
「まさか、今まで本気じゃなかったとでも言うの?」
俺のことを茶化しながらも、ルーは攻撃の手を緩めない。
「まあね!」
俺は返事しながら、背後に転移してすぐに斬撃を飛ばす。
「それは効かないわ!」
ルーはそう言って、すぐに斬撃を破壊魔法で消してしまった。
「そうですか!」
また背後に転移して斬撃を飛ばす。
「ちょ!」
慌てながらも、ルーはしっかりと斬撃を消した。
まあ、これで終わりじゃないんだけどね。
「ほらほら!」
俺は、背後や横に転移したら斬撃を飛ばすことを繰り返した。
攻守逆転だ。
「ま、待ってよ!」
これには、流石に消すのが大変になってきたようだ。
「まだまだ」
俺はもっと、転移と斬撃を飛ばす間隔を縮めた。
すると……
「うわ!」
手が追いつかなくなったルーがついに体全体を動かして避けた。
よし、今だ!
俺はこの隙を見逃さず、ルーのすぐ後ろに転移して、左手でルーの目を隠しつつ、ルーの首に優しく剣を当てた。
「はい、俺の勝ち」
目隠しをしてしまえば、ルーは破壊魔法を使えない。
破壊魔法を使えないルーは、ちょっと強い女の子だ。
「そ、そんな……」
俺に目を隠されながら、ルーは悔しそうな声を出した。
「それじゃあ、素直に降参してくれない?」
お願いだから、これで終わりにしよう。
「で、でも……」
あ、負けを認めたら俺の奴隷になるって約束していたんだっけ。
「降参してくれるなら、これから毎日、凄く美味しいご飯を三食用意するけど?」
これまでのルーを見てきて、この条件が一番効果ありそうな気がしてきた。
「ほ、本当!? 美味しいご飯……しかも三食……」
ルーの声から、凄く悩んでいるのが伝わってきた。
あと一押し!
「本当だよ。俺、こう見えて凄い金持ちだからね? ルーの服もベッドもちゃんと用意するよ」
「ベッド? ベッドで寝られるの!?」
ルーは、ベッドに食いついて来た。
そういえば、今まで奴隷生活でちゃんとした寝床で寝てなかったんだろうな……。
「うん。ベッドで寝れるよ」
「本当? 嘘じゃない?」
疑い深いな……。
まあ、一度騙されているわけだし当然か。
「絶対に嘘じゃない。嘘だったら、俺のことを破壊していいよ」
「うん……わかった。それじゃあ……降参します」
やった! 終わった~!!
「ふう……。それじゃあ、奴隷契約をしてもいい?」
「ダメ!」
俺が首輪を触ろうとすると、ルーが叫んだ。
「え?」
降参したんだから、奴隷契約してもいいんじゃないの?
「レオが言っていたことが嘘かどうか確かめてから!」
ああ、そういうこと。
仕方ないな……。
「まあ、いいけど。それじゃあ、俺の許可なしに破壊魔法を使わないことを約束してくれる?」
「うん。約束する」
ルーはコクコクと頷いた。
「わかった。それじゃあ、ご飯を食べに帰ろうか……」
俺はルーの目から手を離して、エレナをしまった。
「うん! 久ぶりにたくさん動いたから、凄いお腹すいた~」
目が見えるようになっても、ルーは特に怪しい動きはせず、純粋にご飯を楽しみにしているように見えた。
ふう、死ぬかと思った瞬間が何度もあったけど、なんとか怪我なしで終わって良かった……。
それから、隠しておいたリュックを拾ってから城に転移した。
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コメント
Kまる
違法奴隷なのに持って帰っていいのか…?
ばけねこ
僕も嬉しいです!
けど頑張りすぎて体調を崩したりはしないように気をつけてくださいねー
音街 麟
自分も同じく嬉しいです!
毎日読むのが非常に楽しみです!これからも、応援させていただきますね!
ノベルバユーザー270081
いつも楽しみにしてます!
最近毎日更新で嬉しいです!