ハキリアリのアンリ

泉 玲

このざわつきは…?

それから2匹はここに至るまでの話をしながら、巣のある方角へ歩きだした。

アンリの運んでいた葉っぱが重くてグループから遅れたこと、隠れる場所がなくて咄嗟に葉っぱに隠れたこと、投げられた後は気を失いそうになっていたこと。

コドモの声がしてエレナは急いでアンリを探しにいったこと、アンリを見つけた時にコドモに踏まれかけたこと、精一杯叫んだけどアンリは気付いていなかっただろうこと…。

「…そういえば、少しエレナの声が聞こえた気がした…かも。」

「何それ、絶対気付いてないでしょ。いいわよ、こうして会えたんだから。」

そう言ってこちらを振り向き微笑んだエレナの顔に、アンリは見惚れた。胸の奥がざわついた、ような気がした。

「ん?どうかした?」

「えっ、あぁ、何でもない。」

今のざわつきは何だろう。答えが出ないままエレナと共に歩みを進める。

しばらく歩いていると、道に落ちている葉っぱを見つけた。アンリでも充分持てそうな丁度いい大きさだ。誰かがちぎったのだろう。

「折角だから僕これを運んでいくよ。さっきの葉っぱは置いて来ちゃったし。」

「えぇ、大丈夫?疲れない?こんな事情だし運ぶ必要もないと思うけど。」

「でも運びたいんだ。大丈夫だよ、さっきのよりは小さいし疲れやしないよ。」

「そう?あんまり無理はしないでね。」

結局その葉っぱを運ぶ事になった。葉っぱを背中に背負ってしっかり手で押さえる。大丈夫、だいぶ軽い。コドモがたくさんいる場所からは少し離れたから、もう安心だろう。よし、と一息ついて2匹はまた歩き始める。

「エレナ、日なたで暑いからこの葉っぱの影に入りなよ。」

「あ、そうね、暑くなってきたわね。じゃあお邪魔するわ。」

いくらエレナが小型のアリだとは言っても、細い葉の影に2匹とも入ると、やはり身体が密着しそうなほど距離が近くなる。
アンリはそわそわするような気持ちをなるべく抑えて、出来るだけ平静を装った。こんな気持ちになった事など今まで一度も無かったのに。一方のエレナも、先程からあまり目が合わない。

2匹の間に何かもどかしい風が流れるまま無言で歩いていると、前方からガサガサッという音が聞こえた。

ガサガサッ、ガサガサッ、段々と音が近づいてくる。2匹とも得体の知れない何かに怯え、足が動かない。

音が目の前まで近づき、焦げ茶色をしたものが草の中から顔を出した。

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