ハキリアリのアンリ

泉 玲

万事休す!

昨日の子供が、兄を連れてまたやって来た。

「大変だー!みんな身を隠せー!」

巣の方から叫ぶ声が聞こえる。
アンリは辺りを見回した。ちょうど中間地点で、草むらからも遠い砂の地面だ。大きいコドモはすごいスピードで近づいて来ているし、草むらまで走っても着く前に見つかってしまうだろう。

とにかく隠れなければ、と思ったアンリは仰向けになり、葉っぱをしっかり掴んでお腹の上に乗せた。これで、とりあえず地面に落ちた葉っぱのように見えるだろう。

そうしている間にも、大きいコドモは轟音のような声とともにずんずんと近づいてきていた。

「えー、昨日はここでいっぱい葉っぱが歩いてたんだよ。僕見たもん。」

刈り場の近くから声が聞こえてくる。昨日潰されかけた草むらの近くだろうか。アンリは恐怖に怯えながら、葉っぱをぎゅっと掴んで固まっていた。

「ほら、何も動いてないじゃないか。やっぱり見間違いだろ。」

「違うって!昨日は葉っぱ潰して動かなくなっちゃったけど、それまでは動いてたよ!ちゃんと見たもん!」

「分かった分かった、気の済むまで動く葉っぱ探していいから、頼むから泣かないでくれ…」

今にも泣き叫びそうな弟に、疲れた様子の兄がそう言うと、弟は意気揚々と動く葉っぱを探し始めた。
昨日の草むらを抜け、どんどんアンリの葉っぱに近づいてくる。

アンリはというと、昨日葉っぱが潰された場面を思い出し、恐怖のあまりギュっと目をつぶり葉っぱを強く掴んでいた。

「あれ、これ昨日見た葉っぱに似てるよ!」

万事休す。弟はアンリが隠れている葉っぱを見つけてしまった。真上から聞こえる轟音にアンリはもう終わりだ、と諦めの気持ちを抱いた。

「どれどれ、兄ちゃんに見せてみろ。潰さないように調べてやるよ。」

弟の声に、兄が近づいてきて葉っぱをひょいと持ち上げた。アンリにとっては、凄まじい勢いで宙に浮いた感覚だ。思わず叫ぶ。

「うわぁぁっ!」

兄の指はギリギリアンリのお尻をかすめ、アンリは潰されずに済んだのだが、宙高くまで持ち上げられ生きた心地もしない。

「普通の葉っぱだよな……うわっ!アリだ!」

葉っぱをひらひらと持ち上げていた兄が葉っぱの裏を見た時、そこにアンリがくっ付いているのに気付いた…と同時に驚きのあまり、その葉っぱを投げてしまった。

「あ…」

「あー!兄ちゃん何やってんだよー!」

兄弟の声がどんどん遠くなっていく。アンリがくっ付いた葉っぱは、ブーメランのようにくるくると横回転しながら飛んでいく。またちょうど風も吹いてどんどん飛翔距離を伸ばしていく。

やっと風が収まった所でズサァーッと地面に到着した。飛んでいる途中に葉っぱが裏返ったお陰でアンリはかすり傷程度で済んだようだ。当のアンリは恐怖と回転しすぎで気絶しかけているのだが…。

「冒険」の人気作品

コメント

コメントを書く