現実で無敵を誇った男は異世界でも無双する

プロテイン

え?アイツがSS?

「とりあえず、外に出よう。」

俺は些細な疑問は隅にやって、エリーゼに声をかける。

「わかりました。」

まだ少し目元が赤いがエリーゼも随分落ち着いたようだ。

(そんなに対等と認められたのが嬉しかったのか...。)

俺は良かった、と思いながらも、俺と大して変わらない年齢の子がそんな辛い思いで生きてきたのかと思うと、胸が締め付けられるようだった。

(これからは、絶対そんな思いをさせたりしない...!)

俺は改めて決意すると、エリーゼが立ち上がったのを見て歩き出す。そして自分の後ろにちゃんとエリーゼがついてきているのを確認して

(あれ?エリーゼって何歳だっけ?)

という疑問が湧いた。俺と大して変わらない年齢の子が~なんて言ったが、実はエリーゼのほうがものすごい年上かもしれない。

(どうやって確認したらいいんだ...!)

ものすごく気になるが、こういうのはストレートに聞いちゃいけないらしい。昔、楸の母親にデリカシーがない、と笑いながら注意されたことがある。しかしあの時完全に目は笑っていなかった。あの超穏和な楸の母親があそこまで怒ったのを見たのは後にも先にもあの1回だけだ。それほどまでに女性にとっては重要な問題なのだろう。

(しかし、そうなると、うーん。なんと聞けばいいのだろう。)

慣れないことに思考リソースを割いていた俺は、

「どうかしましたか?陽翔様。」

という質問に

「いやぁ、エリーゼの年齢をどうやって聞こうかと───」

と、思わず正直に答えてしまった。

(しまった...!ここは素直に謝らければ...!)

戦闘でも滅多なことでは感じない謎の焦燥感にかられた俺は慌てて謝罪の言葉を口にしようとするが、それより先にエリーゼが━━━

「私の年齢ですか?17歳ですよ?」

とあっけからんと答えた。

あまりにあっさりと年齢を喋ったことに呆然としている俺を見たエリーゼは

「どうしたんですか?」

と首を傾げている。

「お、怒らないのか...?」

と恐る恐る尋ねると、エリーゼは納得したかのような表情を浮かべ

「私たちエルフ族は、あまり年齢とかには執着しませんから。」

と、微かに苦笑いをしながら言った。エリーゼ曰く、エルフとは長命種で、おまけに外見もある程度成長すると(人間でいう20歳くらい)、それ以上成長しなくなるため、年齢や命への執着が弱いらしい。それを聞いた陽翔は思わず

(よかったぁ...。)

と安堵のため息をもらすのだった。



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「あ...!」

洞窟の出口が見えるとエリーゼが一目散に走り出したので、俺もそれに追随する形で走る。そして、洞窟から出たエリーゼは

「わぁ...!」

と歓声をあげた。きっと、初めて見る広大な草原に感動したのだろう。とても目がキラキラと輝いている。

「エリーゼ、君はどっちに行きたい?」

特に目的地があるわけではない。最初はエリーゼのいきたい方向に行ってみよう。

「え!?私ですか!?えーと、じゃあ、あっちがいいです!」

そしてエリーゼが指さしたのは洞窟の入り口とは真逆の方だった。

「おっけー。ちなみに、何でこっちにしたのか聞いてもいい?」

エリーゼは余り迷わず進む方向を決めたように見えたが...。

「えっと...。誰かが助けを求めているような気がしたから...です。」

エリーゼの『気がする』は馬鹿にできない。特殊な眼を持っていることもそうだし、巫女という職業のこともある。

「よし。じゃあちょっと急ぎ足で行こうか!」

そして俺達はエリーゼの指さした方角へ進み始めた。

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「ん?洞窟か?」

エリーゼの指した方角にまっすぐ進んで見つけたのは、またしても洞窟だった。しかし、入り口になぜあんなに大量のモンスターが群がっているのだろうか。

「オーガにオーク。ゴブリン。と、あいつは何だ?」

俺も結構ゲームをやってはいたので洞窟に群がっているモンスターの名前の検討をつけることはできたが、一体全く知らない奴がいる。

ちなみにオーガは筋骨隆々の身長3メートル近い鬼。
オークは痩せた豚をそのまま立ち上がらせて粗末な防具をつけさせたような外見。
ゴブリンは人間の10歳児くらいの身長で肌が濃い緑。そして人間に比べて鼻と目が異常に大きい。
そして俺が見たこともない奴の名前だが、外見的にはオーガに似ている。が、頭が3つあり、それぞれの口から熱線やらなんやらを吐き出している。
 
「あれは...死の3つ首デス・スリー・ネック!?」

え?英語?

「陽翔様あれは危険です!逃げないと───」

エリーゼが話している途中で止まった。

「どうしたんだ?」

怪訝に思って聞き返すと

「陽翔様、この世界において死の3つ首デス・スリー・ネックの冒険者ギルドにおける討伐難易度をご存知ですか?」

とどこか達観したように聞いてくる。

「いや、知らないが...。」

まだ俺はこの世界に来たばっかりだ。まあその事をエリーゼに話した訳ではないが、何か事情があることは察してくれている様子だったので、なぜそんな事を聞くのか疑問に思ったのだが

「では教えて差し上げます。死の3つ首デス・スリー・ネックの攻略難易度は

EX  ・・・人類の総力を持って討伐する必要がある。

SSS・・・Sランクパーティー(パーティーとは4人1組の事らしい)がレイドを組んで討伐に向かう必要がある

SS  ・・・Sランクパーティー最低3組で討伐に向かう必要がある。

S     ・・・Sランクパーティー準備を怠らず討伐に向かう必要がある。

A     ・・・Aランクパーティーが準備を怠らず討伐に向かう必要がある。Sランクの冒険者ならば単独でも撃破可能。

B      ・・・Bランクパーティーが準備を怠らず討伐に向かう必要がある。Aランクの冒険者ならば単独でも撃破可能。

C       ・・・Cランクパーティーが準備を怠らず討伐に向かう必要がある。Bランクの冒険者ならば単独で撃破可能。

D       ・・・Dランクパーティーが準備を怠らず討伐に向かう必要がある。Cランクの冒険者ならば単独で撃破可能。

E       ・・・Eランクパーティーが準備を怠らず討伐に向かう必要がある。Dランクの冒険者ならば単独で撃破可能。

の内、Aランクです。」

ちなみにパーティーのランクは、そのパーティーメンバーの最低ランクにあわせて決定されるらしい。

「え?それってやばくね?」

攻略難易度A。つまり最低Aランクの実力を持つやつがしっかり準備した上で4人必要ということだ。俺は冒険者登録をまだしていないため、どのランクかわからない。しかし、最高がSランクで、Aっていうのはその次なのだから、この世界でもかなり強い人間に分類されるはずだ。ここは1度撤退した方が───

「ちなみにさっきの黒龍様の攻略難易度はSSです。」

え?あれがSS?確かにそこそこ強かったけど。そこまで苦戦することなく俺1人で倒せたアイツがSS?

「マジか...!」

意外とこの世界の人々は弱いのだろうか。と勝手な思考に入り始めたとき、ガラスが割れるかのような破砕音と共に

「きゃあっ!」

という悲鳴が聞こえてきた。

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