現実で無敵を誇った男は異世界でも無双する
陽翔の能力について.2
「できなかった...?」
エリーゼは怪訝そうな顔を浮かべている。
「うん。これから話すのは、俺なりの研究の結果と推測だけどいい?」
不確定な情報だから聞きたがらないかもしれない。と思っての確認だったが、どうやら杞憂だったようだ。
「聞かせてください。」
エリーゼは真っ直ぐに俺の目を見つめ返してくる。
「わかった。」
俺もエリーゼの目を見つめ返して、頷く。
「まず、俺の能力は分子の結合の強さをいじることができる事。っていうのは話したろ?」
エリーゼが頷く。
「でも、それは遍く範囲や対象に対して働く能力じゃない。」
「何らかの制限があるんですか。」
「そう。俺の能力は、俺は『支配領域』って名付けたんだけど、その範囲でしか使えない。」
「支配領域?」
支配領域は、現実で言うなら自分の存在感が相手に届く範囲、とでも言うべきだろう。ただそこにいるだけで、遠くに居ても相手の注意をひきつけてしまう範囲。だいたいこの『支配領域』の大きさは、外見とか、積んできた経験とかに左右される。多分、生きていれば、ふと美人やマッチョに目を引きつけられてしまった経験は、誰しもあるだろう。それは、相手の支配領域内に入ったから、というわけだ。
「うん。そしてその支配領域は誰もが持っている。大きさは人それぞれだけどね。普段は皆無意識に領域が広がらないようにしているんだけど、感情をむき出しにしたり、戦闘体制に入ったりすると、領域が広がる。」
怒っている人がいると、そこに自然と目が向いてしまうのはそのためだ。
「じゃあ、もしお互いが戦闘体制に入ったとすると、お互いの支配領域?は広がるんですよね。なら互いの領域が接触した場合はどうなるんですか?」
「さすがエリーゼ。いい着眼点だ。その場合、互いの領域がせめぎあって、結果的に上回った方の領域が広がる。強い人と戦うと『間合いを外される。』なんてことがあるけど、これは自分の領域が浸食されてしまって、普段と勝手が違う。そして訓練が出来ていないとその違いに引っ張られて攻撃に失敗する。ということの結果なんだ。」
だから、奇襲を『気配』を察知して回避。というのは案外難しくない。無意識に小さくしている領域を、相手が敵意をむき出しにすることによって広がった領域で浸食してくる。達人はそれに感覚で気付く。結果、相手の攻撃がくるのを知っていたかのように回避できるっていうわけだ。まあ、奇襲者が相当の手練れなら、領域を意識的に広げないようにする、なんてこともしてくるが。
「これでだいたい俺の能力はわかったかい?さっきは炎を空気の分子を結合させることによって作った壁ごと殴り飛ばして相手のブレスを防ぎ、針のような形に空気を強く結合させて、それを相手の喉と心臓があるであろう部位に突き刺したんだ。今回は相手が結構未熟だったからよかったけど、本当の強者相手はこうはいかない。もっといろんな策を使わないとね。」
俺の説明を聞いたエリーゼはしかし、まだ納得していないようだ。
「しかし陽翔様。そんなことができるのなら、相手の喉に空気の壁を作ってしまえば、相手を窒息死させることができるのでは?」
思わず俺は苦笑した。さっきから賢い賢いとは思っていたけど、これほどか。
「うん。その通りだ。でもそれはできない。その理由は、支配領域とは別の、『絶対領域』っていう、絶対に浸食できない領域が別にあるからなんだ。」
「絶対領域...?」
「そう。それはどんなに強い存在感を持ってても浸食できない。生物が生きている限り、その生物の周りの一定の範囲は絶対不可侵になる。」
これは現実ではパーソナルスペースと呼ばれている。他人を絶対に入れたくない空間のことだ。そう感じるのはもしかしたら、無意識の生存本能なのかもしれない。
「なるほど。分かりました。ありがとうございます。」
エリーゼは納得したようで、そう俺に礼を言ってきた。
「じゃあ、今度はエリーゼの眼について教えてもらえる?」
「わかりました。」
そして俺はエリーゼから眼の能力について聞いた。エリーゼ曰く、相手の目を見ると感覚的に相手の性格がわかるらしい。ただし一瞬見ただけではダメで、相手と目を数秒合わせる必要がある。
「だったら最初助け起こした時にも数秒感俺の目を見ただろ?あの時慌てて謝ったのはなんでだ?」
俺の質問に対してエリーゼは悲しげに目を伏せて答える。
「陽翔様。私は奴隷だったのです。私にわかるのはその人が人に優しいかどうか。だから、人には優しくても、その人が奴隷に対して優しいかどうかはわかりません。個人差はあっても、人にとって奴隷とは家畜のような存在で、この世界では奴隷に優しくするほうが異常なのです。だから、直感で優しい人間だとはわかっても、それが私のような奴隷にまで向けられているかがわからない以上、私からすれば恐ろしいことに変わりはないのです。」
なるほど。奴隷という存在は、人という定義に含まれないから、エリーゼの目には奴隷に優しいかどうかはわからない。と。確かにそれは仕方ないかもしれない。エリーゼは俺のことを優しいといったが、俺だってアリを殺したりしたことはある。さっきドラゴンという知性を持った存在も殺した。本来なら極悪な存在として定義されて然るべきだろう。しかし実際は違う。そもそも、他を害さずに生きられる物など、少なくとも俺は知らない。だとすれば、必然、優しいか否かは、
『人に対してどのような態度か』
で判断される。
「辛いことを言わせてごめんよ。でもそれならなぜ今は俺に気を許してくれているんだ?」
俺には純粋な疑問だった。結局、これでは俺がエリーゼに優しいかなんてわからないだろう。と思ったのだが、
「私は、先述の通り、嘘を見抜く力もあります。これも感覚的なものなんですが。そして陽翔様は先ほど、私を害するつもりはない、とおっしゃいましたよね。その言葉に嘘はありませんでした。今まで受けていた扱いが扱いでしたから、私からすれば、それで十分だったのです。」
と、苦笑を浮かべながら言った。
(害されないだけで十分、か...。)
確かに今までもっと酷い目にあっていたのだから、そう思ってしまっても仕方ないのかもしれない。だが━━━
「エリーゼ。」
俺はエリーゼの頭に優しく手を乗せ、エリーゼを安心させた時と同じように、ゆっくり、微笑みながら話しかける。
「俺は当然ながら、お前のことを同じ人間だと思ってるし、もう大切な友人だとも思ってる。だから、君に害を加えたりしない。君が嫌がるようなことはしない。だから君も、もっと俺のことを信頼してくれ。もう、苦しい思いはさせないから。」
もう、エリーゼは十分に苦しんだはずだ。これからは、彼女の平穏は俺が守ってやる。絶対に、彼女に生まれてきてよかった、と感じさせてやりたい。そう思っての発言だったが、エリーゼは━━━
「...ッ!」
一瞬顔を真っ赤にしたと思ったら、また涙を零し始めてしまった。何かやらかしてしまったのだろうか。と焦りはじめる俺に、彼女は、泣きながらも輝かんばかりの笑顔を浮かべて━━━
「ありがとう...!陽翔様。これから末永く、よろしくお願いします...!」
と言ったのだった。それにもちろん俺は
「ああ!こっちこそよろしくな!エリーゼ!」
と笑って答えた。
(あれ?末永くってなんか変じゃね...?)
エリーゼは怪訝そうな顔を浮かべている。
「うん。これから話すのは、俺なりの研究の結果と推測だけどいい?」
不確定な情報だから聞きたがらないかもしれない。と思っての確認だったが、どうやら杞憂だったようだ。
「聞かせてください。」
エリーゼは真っ直ぐに俺の目を見つめ返してくる。
「わかった。」
俺もエリーゼの目を見つめ返して、頷く。
「まず、俺の能力は分子の結合の強さをいじることができる事。っていうのは話したろ?」
エリーゼが頷く。
「でも、それは遍く範囲や対象に対して働く能力じゃない。」
「何らかの制限があるんですか。」
「そう。俺の能力は、俺は『支配領域』って名付けたんだけど、その範囲でしか使えない。」
「支配領域?」
支配領域は、現実で言うなら自分の存在感が相手に届く範囲、とでも言うべきだろう。ただそこにいるだけで、遠くに居ても相手の注意をひきつけてしまう範囲。だいたいこの『支配領域』の大きさは、外見とか、積んできた経験とかに左右される。多分、生きていれば、ふと美人やマッチョに目を引きつけられてしまった経験は、誰しもあるだろう。それは、相手の支配領域内に入ったから、というわけだ。
「うん。そしてその支配領域は誰もが持っている。大きさは人それぞれだけどね。普段は皆無意識に領域が広がらないようにしているんだけど、感情をむき出しにしたり、戦闘体制に入ったりすると、領域が広がる。」
怒っている人がいると、そこに自然と目が向いてしまうのはそのためだ。
「じゃあ、もしお互いが戦闘体制に入ったとすると、お互いの支配領域?は広がるんですよね。なら互いの領域が接触した場合はどうなるんですか?」
「さすがエリーゼ。いい着眼点だ。その場合、互いの領域がせめぎあって、結果的に上回った方の領域が広がる。強い人と戦うと『間合いを外される。』なんてことがあるけど、これは自分の領域が浸食されてしまって、普段と勝手が違う。そして訓練が出来ていないとその違いに引っ張られて攻撃に失敗する。ということの結果なんだ。」
だから、奇襲を『気配』を察知して回避。というのは案外難しくない。無意識に小さくしている領域を、相手が敵意をむき出しにすることによって広がった領域で浸食してくる。達人はそれに感覚で気付く。結果、相手の攻撃がくるのを知っていたかのように回避できるっていうわけだ。まあ、奇襲者が相当の手練れなら、領域を意識的に広げないようにする、なんてこともしてくるが。
「これでだいたい俺の能力はわかったかい?さっきは炎を空気の分子を結合させることによって作った壁ごと殴り飛ばして相手のブレスを防ぎ、針のような形に空気を強く結合させて、それを相手の喉と心臓があるであろう部位に突き刺したんだ。今回は相手が結構未熟だったからよかったけど、本当の強者相手はこうはいかない。もっといろんな策を使わないとね。」
俺の説明を聞いたエリーゼはしかし、まだ納得していないようだ。
「しかし陽翔様。そんなことができるのなら、相手の喉に空気の壁を作ってしまえば、相手を窒息死させることができるのでは?」
思わず俺は苦笑した。さっきから賢い賢いとは思っていたけど、これほどか。
「うん。その通りだ。でもそれはできない。その理由は、支配領域とは別の、『絶対領域』っていう、絶対に浸食できない領域が別にあるからなんだ。」
「絶対領域...?」
「そう。それはどんなに強い存在感を持ってても浸食できない。生物が生きている限り、その生物の周りの一定の範囲は絶対不可侵になる。」
これは現実ではパーソナルスペースと呼ばれている。他人を絶対に入れたくない空間のことだ。そう感じるのはもしかしたら、無意識の生存本能なのかもしれない。
「なるほど。分かりました。ありがとうございます。」
エリーゼは納得したようで、そう俺に礼を言ってきた。
「じゃあ、今度はエリーゼの眼について教えてもらえる?」
「わかりました。」
そして俺はエリーゼから眼の能力について聞いた。エリーゼ曰く、相手の目を見ると感覚的に相手の性格がわかるらしい。ただし一瞬見ただけではダメで、相手と目を数秒合わせる必要がある。
「だったら最初助け起こした時にも数秒感俺の目を見ただろ?あの時慌てて謝ったのはなんでだ?」
俺の質問に対してエリーゼは悲しげに目を伏せて答える。
「陽翔様。私は奴隷だったのです。私にわかるのはその人が人に優しいかどうか。だから、人には優しくても、その人が奴隷に対して優しいかどうかはわかりません。個人差はあっても、人にとって奴隷とは家畜のような存在で、この世界では奴隷に優しくするほうが異常なのです。だから、直感で優しい人間だとはわかっても、それが私のような奴隷にまで向けられているかがわからない以上、私からすれば恐ろしいことに変わりはないのです。」
なるほど。奴隷という存在は、人という定義に含まれないから、エリーゼの目には奴隷に優しいかどうかはわからない。と。確かにそれは仕方ないかもしれない。エリーゼは俺のことを優しいといったが、俺だってアリを殺したりしたことはある。さっきドラゴンという知性を持った存在も殺した。本来なら極悪な存在として定義されて然るべきだろう。しかし実際は違う。そもそも、他を害さずに生きられる物など、少なくとも俺は知らない。だとすれば、必然、優しいか否かは、
『人に対してどのような態度か』
で判断される。
「辛いことを言わせてごめんよ。でもそれならなぜ今は俺に気を許してくれているんだ?」
俺には純粋な疑問だった。結局、これでは俺がエリーゼに優しいかなんてわからないだろう。と思ったのだが、
「私は、先述の通り、嘘を見抜く力もあります。これも感覚的なものなんですが。そして陽翔様は先ほど、私を害するつもりはない、とおっしゃいましたよね。その言葉に嘘はありませんでした。今まで受けていた扱いが扱いでしたから、私からすれば、それで十分だったのです。」
と、苦笑を浮かべながら言った。
(害されないだけで十分、か...。)
確かに今までもっと酷い目にあっていたのだから、そう思ってしまっても仕方ないのかもしれない。だが━━━
「エリーゼ。」
俺はエリーゼの頭に優しく手を乗せ、エリーゼを安心させた時と同じように、ゆっくり、微笑みながら話しかける。
「俺は当然ながら、お前のことを同じ人間だと思ってるし、もう大切な友人だとも思ってる。だから、君に害を加えたりしない。君が嫌がるようなことはしない。だから君も、もっと俺のことを信頼してくれ。もう、苦しい思いはさせないから。」
もう、エリーゼは十分に苦しんだはずだ。これからは、彼女の平穏は俺が守ってやる。絶対に、彼女に生まれてきてよかった、と感じさせてやりたい。そう思っての発言だったが、エリーゼは━━━
「...ッ!」
一瞬顔を真っ赤にしたと思ったら、また涙を零し始めてしまった。何かやらかしてしまったのだろうか。と焦りはじめる俺に、彼女は、泣きながらも輝かんばかりの笑顔を浮かべて━━━
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