地高く咲く火の華

ノベルバユーザー222490

地高く咲く火の華

子供たちは灰色にそまる空を見なかった。黒い影が空高くを通り過ぎ、地表に火薬の花を咲かせて通った。黒い煙がそろりと立つ。そこにいた人たちはきっと地面に散った身体全体でその火を見ただろう。悲しみを生む花火。本当は今日上がるはずだった綺麗な花火は上がらなかった。前回も、前々回も。延期すると言って結局出来なかった。許されなかった。花火大会なんて娯楽は許されない。火薬は皆接収された。そもそも扱うことは出来なかった。だから……花火は見れなかった。
そもそも、私の家は代々花火の職人だった。私がなれば……15代目のハズだった。だから、今日の花火もお父様が上げてくれるはずだった。去年……去らなければ。この世を。病気で死んで、戦争が始まっていて、もう、火薬を使うことが禁じられて。思い出すと、きっと私の代で終わりね……暗い気持ちで胸がいっぱいになる。もう見れない事、もう作れない事、もう……引き継げないということ……すべてが悲しかった。天国にいるお父様たちに申し訳なかった。私をちゃんと育てて、この身をちゃんと預かってくれた、お父様に。私がすべき女性としての仕事よりお父様が大切だと言って教えてくれた花火の作り方、そんなことを教えて、結局生きのびる方法を教えてくれなかった。けど、私はそんなお父様が嫌いではなかった。いつもあの人はごめんね、こんなことを教えて。でも、きっとこの技術は君の心に教えてくれるはずだから。って言って、技術を手渡していた。お父様が今までに作った花火はどれも美しく華やかでとても自分には作れないなと諦めていた。教えられているさなかに諦観に浸ってしまっていた。今更になって、そんな諦めてきたツケが回ってきたとでも言いたいのだろうか。そして、あざ笑うかのようにお父様達が花火を上げてきた空を空から、人を殺すため、建物を崩すため、戦争を終わらせていくためといって、汚い、穢れた火の玉を秘めた塊が落とされた。まるで、私たちが空に花火を打ち上げるように彼らは空からソレを打ち下げた。もう、私は生きていけないのだろうか。ただ、生きるだけ生きるしかないのか。あの時、病気で苦しんだ父は言っていた。闘いはさ、生き残った方が勝ちなんだよって。そして、死んでしまったのだから、悲しい以外に何といえばいいのだろう。もし、言うなら皮肉だね。お父様。と、言うのかな。そうなるなら、きっと盛大に花火を打ち上げて天高い所から天高くに上がった花はきっと弔いの華になったはずなのに、そうはならなかった。上がらなかった。せいだ。全て、この戦いのせいだ。憎むように空を見上げて、もしかしたらそれがお父様に見えてしまってるかもしれないと思って。結局目を下げて地面に目線を向けて目から漏れ出た雫が地面に散って、小さな水の華を地面低くに咲かせた。もう、どうしようもないじゃない。また、諦めようとした。そうしたら、きっとお父様は最後まで失敗してもやり続けた方が勝ちなんだよって。正義と言えるんだよって。失敗と成功、どちらもやり続けたものに与えられて、きっと、正しいものを持ってきてくれるんだよって。そう、私を諭してくれるかもしれない。なんて思って、今度は水で潤む目を空に向けて、頑張るよってはり切った気がした。私は。私は……私はっ!!!
ふと横を見て、誰かがいるのに気付いた……いや、ずいぶん前から考え出すまえに気付いていたけど、無視していただけ。いまになって考えると結局のところなんとなく泣きそうになったのを隠しただけに過ぎない、のだろうなって、思った。きっとこんな表現も、私のイメージ。想像なのだ。バカみたいって、とっても小さな声を空に浴びせかけた。
そして、泣きやむのを待つかのように静かに沈黙していた大人は言う。「君は、あの花火職人の娘さんかい?こんなところに居ては危ないと、思うよ。」心配……か。「大丈夫、私はちゃんとあの嫌な大きい鳥のこと、ちゃんと見てたから。」「……」「そんなことより、早く防空壕に入って!すぐにまた来るはずだから、お嬢ちゃん。どこにあるかぐらいは分かるだろう!?黙祷……終わったら早く来るんだ。」
そして、私の手を引いて駆け出した。地面の中の穴へと。暗闇は……嫌いなんだけど……ね。と、思う私がいた。どうしても、戦争なんて言う言葉は現実味がなかった。ただ、人が死んでることと、花火が作れない事と、政府が怖いってことだけは分かった。それと……私の……なお父様が……いないことだけ。
「ついたっ……ッハァ……!?大丈夫かい!?」再びその人は私に声を掛けた。「大丈夫。なにも怖くないよ」落ち着いて返す。この人……は誰だろう。あまり見ない人……なんだか、あわただしい人ね。お父様みたいに皆落ち着いているわけじゃないのね……。洞窟のような防空壕に入って一番に彼は「一人生存者がいた、から、連れてきたんだ。空いてるか!?」そう叫んだ。「こっちが空いてる。ここに連れてきてくれ。」そう声が返ってきた。きっと、彼と同じような男の人だろう。「分かった。後はお願いするっ!私は、ほかにいないか確かめてくる!」そうして、走り出した。助けに……いくのね。そう思った。勇敢な人……
「そこでぼーっとしてないでこっちに来てくれないか。一応そこは通路なんだ。邪魔になる。」すこし険の入った声で言われた。殺伐としてる……余裕がないということね。「……」黙ったまま、そこに向かった。「よし、けがはないようだな?」「ん。大丈夫……です。」思わず敬語になる。どうしてか圧力を感じた……からだろうか。気迫……といったものだっけ、と思い出す。「よし大丈夫だな。」「腹は……減ってないか?」小声でそういわれた。きっと腹の音でもなっていたのだろう。聞こえなかったけど。「多分……減ってない。」そう返した。「……そうか、このおにぎりはいらないということだな?」そういって白い塊を取り出す……おなか減った。確実に。「いや、食べる。食べさせてください。」久しぶりの食糧……普段は気にしないこともあったけど、実際に食べ物があるとおなかがすいてしまう性質たちなのだ。……ずいぶんと優しい人。「ほかに何かいるものあるか?」きっと私の顔はそれほどまでに悲壮感に満ちていたのだ。だからくれたのかなと、思った。「お嬢ちゃんの顔色がずいぶんと悪いものだから…………が……だのかと思っ……」最後のほうは小声で聞こえなかった。多分……何かに気付いて抑えたのだろうけど……なにが聞きたかったのかな。でも、こういうときに反応すると余りよくないと、お父様の反応から覚えてたから、なにも言わないことにした。そして改めて思う。何が……ほしいか。「私は……はなび……いや、火薬がほしい」無意識だった。火薬……なんてあっても花火は作れない……のに。「……火薬……?はじめに言った言葉は……そうかっ!花火か!」どうやら気づいてしまったらしい。「うん……」「もしや、お前さんは……あの花火職人の娘か?えらく静かだから、不思議だとは思ったが、なるほどそういうことか。良く見ればあの髪が長いのも目の形も似てるな。そりゃ、親子だからか。って、髪が長いのは女の子だからか。あの人は特別伸ばしていたからな……」「……私の父を良く知ってくれている人……なの?」「そりゃもちろん知っている。あの二年前の5年前の花火大会。見に行ったからな、両国の花火大会には。あそこで最優秀だと言われたのはお前さんの父の花火だったろう?」弱15歳の私が……丁度10歳だったときの花火大会……まだ、花火の作り方なんてほとんど知らなかった。「うん……」「……もしかして、花火が作りたいのかい?その年齢で?」まるで不思議がるように驚かれた。「習ってきたから。」当然だというように私は返した。あのお父様に習っているのだ。と言えばきっと、この無意識からでた言葉をひっこめずに済むかもしれないから。そう思って。……本当はきっと、無意識に願って、諦めていたことを現実に出来るかもしれないから。じゃないのかなと、思い直した。自分のことも自分でわからない。まだ、何も……お父様以外から学んでいない……「そうか……さすがは広瀬さんだ……お名前は?」「火乃……」「……そうか、じゃあ、火乃ちゃんかな。」おい、お前気安く人の名前を呼んでるんじゃないよ、人の娘に手を出すのはよくないぞー独身めー!と外輪から声がかかる。……意外と殺伐していたのは気のせいのよう……今まで見ていたらしい。……わずかに思う。趣味が悪い。
そして、さっと「さすがに花火の材料はないんじゃないかな。……特に火薬。」「色となる部分ならうちにあるから……」と、どこからかかかった声に応える。「ようは火薬だけか。だがなぁ…そもそも火薬なんて持ってる方が珍しいし……なにしろ持ってても回収されちまうからなぁ。」隣から聞こえた。……そう、回収されたのだ。誰がもってるというのだろう……「……もしかすると、兵隊さんの兵器からとれるかもしれない……」また一方で遠慮がちに声が上がる。兵器……から……?「そうだな、それが出来たら兵器の有効利用ってやつだな!」快活な声が聞こえた。「でも、どこからとってくるの?」また一方で聞こえてくる心配そうな声。「もらえばいいんじゃないのか?」隣からね。「……そう簡単にもらえるの?大事な兵器でしょ?」臆病とののしられた子供の声。「貰えないなら盗めばいいんあだよォ」乱暴に響く。ただえさえ、主張しようとする大きな声、地面の中のドームに声は響き、拡散し、やがて、何もわからない混沌になるまで時間はなかった。治めることのできない引火の連鎖。口から出る衝撃破はお互いに干渉し合う。結論。爆発は終わった後に煙がたてば何もなかったようになる。「兵器づくりならうちらがやってる。そこから盗み取るぐらいなら問題はないはずだよ」少し高めの声が凛と響いて、場を定めた。「そこのお嬢ちゃんごめんね。騒がせた原因は君だけど、勝手に騒いだのは俺らだ。とりあえずだ、彼女についていくといい。」わずかに煙がのこる地面に出てきたときには、さっきまで外まで漏れるような音どころか何もなかったかのように静まり返って、人間味を感じさせない空間だった。「さ、いくよ」と、言って私の手を引くその人の顔は見えず。何を考えてるのは分からなかった。ただ、私は「ごめんなさい」といっただけ。何に謝った?騒がせたこと。それだけなの?……手間を掛けさせることも。自分に問題をぶつけて、その人から考えをずらした。「いいわ、気にすることじゃない。彼らが大人気ないだけよ。」慰めるような、それでいて棒読みのような声が上から降り注ぐ。何もしゃべることがないけど、何か言わなければならないような沈黙が広がる。きっと、すこしでもしゃべればその波紋は広がってくれるはずなのに、きっかけとなる小石は水面に吸い込まれずに、そのまま私の手の中のまま。相手から、その人から何かを話しかけてくれることに期待した。あるいは、もう、すぐそこに迫る小さい灰色の建物が工場であることを。「着いたわ。ここが工場。よかった、残ってて。あなたの願いこと。かないそうね?」「うん。」小さかった。予想より。話しかけてくれたことと、着いたことですこしの嬉しさに顔を赤くさせる。息切れもあった。本来夏場。建物があまり残ってないこの町、日陰なんてほとんどのこらず。細い黒い煙以上に火の光を遮るものはなかった。暑い……お互いの口から洩れる。おおきな日陰に入れたのはいいものの、その凶悪な光の線はもうすでに工場内を外から熱し、暑く感じさせた。「私達が作っていたのはいろいろあるけど、きっとそのなかでもあなたが使うのにいいのは手榴弾ね」「しゅりゅー……だん?」聞いたことのない言葉。きっと爆弾の名前なのね、わずかにかわいく感じた。「そう、手榴弾。引き金を引いて、爆弾を投げたら数秒後に爆発するの。人を、ばらばらに……爆発するものだから火薬が入ってるわ。これで、出来ると思うの。」そういって、しゅりゅーだん固い装甲に覆われた何かなるものを手渡された。火薬の塊……かな。「出来ると……思う。ありがと。」「う、うん。まぁ、気にしなくていいわ。ほら、帰りましょ。いつ爆弾がふってくるかわからないわ」「分かった。戻ろう」ふと空を見上げるとあの黒い影が再び通るのが見えた。大きな不気味な影。あれもまたたくさんの火薬球を下に落とすのだろうか。そして、即座に察する。また、ここが焼けるのだと。「上、何かいるよ」その人に上に向かせてその存在に気付かせた。命の危険を。「爆撃……機っっ!!?」その人はとてもあわてはじめ。私の手を握る。「走って、あそこまで戻るよっ!?そうじゃないと……私達は死ぬわ」落ち着いたような、あわてたような口調で言う。そして、また、あの時みたいに手を引かれて走った。別に何かに追いかけられているわけでもないのに。私達はまた逃げて、駆けてる。もう少し、あそこに入り込めば大丈夫だからって、私に声を掛けてくるその人の顔はすでに見えない。遠くから爆発音が聞こえるとよりその手の力は強く、速く足を動かすようだった。対して私はそう変わらなかった。爆薬の恐ろしさを知らない事じゃない。けど、何もかも漫然としているように感じた。生き残れば勝ちというけど、それは、そのあとに何かあると期待できているからこそなんだよって、思ってる。終わったら、それはただの終わりで。その後にまだあるはずないんだって。花火は咲き終わったらその後はただ落ちるしかないんだって。
ただ考えて手を引かれるままにされていた時。その時だった。後のさっきまで居た建物は粉砕する音を聞いた。「なんで……そんな近くに!?」思わず叫びだした、その人は「いや、大丈夫。このまま走ればきっと……きっと生き残れる。希望持って!だから。もっと速くっ!!」まるで、悲鳴のように叫んだ。歩いているときは近かったような道が走ると長い……長く遠くたどり着けないような錯覚さえ感じてしまった。私も爆弾に巻き込まれてしまうのかな……思わず小さくつぶやいたその言葉はより強く握る手という形で返ってきた。聞こえてたんだ……と思う私を横目にただ、ひたすら「入口」に向けて走る。手を振る人が見えた。心なしか引かれる速さが上がって、私の足が回らなくなる。すでに息が上がってる。肺もほとんど機能してない。ただ、引かれるままに。導かれて私は。たどり着いた。「B29だっ!爆弾が降ってる、早くここを閉めないと!」入ってすぐに悲鳴のようにまた叫ぶ。声が響いて耳に反響して反芻する。ガシャンとおりるドア。私の右手に握られた丸い物体手榴弾を見つめる人。「それで作れそうかい?」と聞かれた。多分……大丈夫。と答えて「それじゃあね。今まで有難うね、皆。」そう言い残して私はその防空壕を去り家に向かった。
――――数刻後私は家に帰り次第なんとなく皆に言ったことを守らないといけない気がして。それにしたがって花火を作ることにしていた。もう二度と見れないと思っていた火の色を見れるかもしれない。そういった希望もあった。花火……か。父が一生懸命にしていたこと。私が教わったこと。その位しか私には関係のないことだけど。もし希望を抱くものとしてはそれ以外にないだろうなとも思った。私の生きる意味。そう思うと笑いが込み上げる。私が大事と思えるのは自分で見つけたことじゃなくて。誰かからのもらい物……自分で見つけたことじゃないということに。また一方で思う。もしこんなことを言ったとしたら。それがお父様が聞いていたとしたら。きっと、意味を見出したのは君だ。なんて、言うのかな。そう、思っても面白かった感謝の意味でもこめて、色を付けてこの爆弾空高くに放り投げたらいい色見せてくれるかな。だから、この固い装甲はきっと本来は破片で傷を与えるためなのだろうけど、とすると、一回解体してから色となるものを詰め込まないといけないのかな……。――ゴォォォォォ――「っ!?」特大の扇風機が耳元でなるような低い響きに席を立ち、外を見る。何かが落ちてくるようにも見える…………あの、大きい黒い鳥……?……爆弾を落とす……あれが?家の……真上……に。目の前が真っ白になった。走らなきゃ。って前の記憶から思い出す。手元の爆弾と何かの色になる金属。それだけもって家から駆けだす。あの鳥がどれだけの威力を持ってるは分からないけど、逃げ出さないといけないという本能に従った。きっとそれが正しかった。家をでて離れたころにはソレが屋根から突っ込んで爆発していた。
「色……つくれなくなちゃったか……」「手元には加工のできない二つの金属。……嫌気がさした。もう。君たちのことは嫌いだよ。バーカ。とことん生物的に邪魔してくれて。いい迷惑だよ。私は、精々自由に生き残らせてもらうよ。心の中で毒を吐いた。人がせっかく意気込んだところで邪魔するなんてね。はぁ。こんな爆弾も。もう、使えないわ……そうして、引き金を引いて上に放り投げる。高く。高く。どうせなら、あの憎たらしい鳥さんに届けとねがって。いまに思えば、さっき通っていた奴が落ちてきたのかな。なんて思いを馳せる。うえに飛んで行った爆弾は私の頭のはるか上で爆発して、小さな破片をあたり一帯にまき散らす。火薬と黒い破片の花火が私の真上で散った。汚い花火が咲く。
きっと、おそらく。初めて意識して出来ただろうその花火爆弾は天高くから見ればそれは空高くではなく、地面高くくの花火だったのかな。なんて。赤いような、青いような。黒く見える空に煙を立ててその花は咲いた。価値にして全くない。最高に駄作の華。それでも、気持ちを散らすには十分で、意気込むには満足出来た。生き残る価値。見出したよ。そう思ってひとまず、上から降ってきた破片をかわすことに専念した。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品