澄み渡った青空へ――

ノベルバユーザー222490

第六話 見知らぬ本

 私はね。思うんだ。 特殊ならば特殊なりのルールがあるんだって。 それは慣習とか言う風に言うけれど、 それは一種の文化でもあるの。 だから、誰でも作ることは出来るの。 ならさ、新参でも……容量踏まえればたやすいよね?

 2246年の冬の事。主軸より12年前の事 太陽が優しい光をその円卓の上にそそぎ、わずかに冷たい風が心地よく感じる春へ近づく冬の終わり。 その地面には常緑の草が生え、枯れることはなく。 周りに座る6人の者の冷めきった心にうるおいを与えず。 彼ら六人組はいつもにこやかに笑いあう。 ひときわ小さい子供が言う。「一旦、僕に装置が効くようにしてください。少し上界へ行ってみようと思うんです」 対し、「理由はすでに把握している。そろそろだと思っていた。行くがよい。代償は大きいが、お前が得られるものを大きいことを願おう。」「感謝します。それでは、皆さまお元気で。」 そういって、彼の姿は消え、座っていた椅子は消滅し、机は小さくなり、5つの椅子の隙間は埋まり、 世界が縮小したかのように縮んだ。 5人のための円卓だ。
 2258年春下旬に戻る。時間にして、16時。 子供たちの活動時間は始まる。 場所は図書館、静寂せいじゃくな空間の下。
 本探しの巻。 本を探そうといって、図書館に来たはいいものの成果は上がっていなかった。 お姉ちゃんと僕はすでに予想済みで、もしかしたら、万一、の可能性に賭けていた。 予想通りに報われないあたりに悲しさを覚えたりは……しない……うん。 片っ端から漁るお姉ちゃんと、検索をかけてみる僕と、なんとなくで見ていくブローディア。 図書館は元から静かとはいえ、殊更ことさら冷たい静かな空間となっているようにも感じられた。 いらだちを押し隠していたらもうすこし暑く感じたかもしれない。 けれど、諦観ていかんでもって見ているからこそ、 探せば探すほどだんだん希望が潰えていくような、 そんな感覚は、褪めるさめるように感じたのかなと、推測する。 そういうどうでもいいような空気を察しながら、本探しは一時中断された。「一旦休憩しよっか。疲れたし。」 本日四回目な休憩のはじまり。 またの名を、 おしゃべり会ともいう。
 議長、わたくしこと、僕、シェフレラ。 以下、ルピナス、ブローディア。 3人会議と言えば、恰好つくかな。 会話の鯉口こいくちを切るのはお姉ちゃんだった。「私は引き続いて絵本を探してみたけど、どれもハズレだよ。」 お姉ちゃんは疲れることなく、むしろ楽しそうな表情で言う。 面白かったんだね。よかったね。「僕がさがしたのは文字いっぱいの本だけど。疲れたよ。みつからない~」 どさっと机にのびる僕。 上からさりげなくお姉ちゃんの手が伸びてきているのが嬉しい。 ……さわっ。 ――さわさわ 髪をすこし挟んで手の平が左右に動く。 ゆっくり、優しく、ふんわり……と。 机の上でうつぶせになりながら幸せを感じる僕の顔はだれも見てないと思う。 ふわっ……僕の感情が落ち着いてそのまま眠りの世界に沈み込みそうになる。 永遠に思えたその時間、実際は1分に満たないと思う。 こんな表現になったのは僕のされたいことだったから。 少し伸び過ぎた僕の髪を手で梳いてくれた。 やわらかい手が髪をひっかけて少し痛むけれど 少しだけ動いた僕を手のひらで感じたのかな、 手を浮かせてもう一度梳きはじめる。
「おつかれさま。フレラ」 上から優しく声がかかる。 そっと離れていく手がなんだか嫌で首を傾けて上を向こうとして やめた。「こっちでも探したのはいいけどなかったね。写真集でもあればよかったんだけど……」 申し訳なさそうにつぶやいていた。「やっぱり、ないよね……」 お姉ちゃんが同意する。僕も同感。「そういえば。」 そんな風に切り出して言う。「不思議な物見つけたんだ。何だかわかる?」 僕らに尋ねた。 そっと出したものは、四角い黒い何か。「僕は、分からないかな。ブローディアは分かります?」「多分これは……」 僕とお姉ちゃんの手におえない物をブローディアなら分かるらしい。 その物体をいじり始める。 何か分かったらしく。 黒い物体の表面を指でなぞって模様を書いてる……? ――すぅっ 実際には音なんてなかったけど、あえてつけるならこんな感じ 白い四角い透明なものが静かに出てきた。 展開されたとうめいな形のサイズは大体大きな本くらい。 もし、実物だったらきっと、持った瞬間に手が落ちそうになることだろう。 大きくて重そうな、透明だけど見える本。「こんな風に使うんじゃないかな。」 そうして、ブローディアが差しだしたその本にこわごわと触れる。 触れようとして、結局見た目通り触れることは出来なかった。 僕がそれにおっかなびっくり対応してる間にお姉ちゃんは黒い方を手に取り、虚空で手を滑らせた。 それと一緒にページがめくれていくのが見えた。 ぱらぱら。 音はない。 ページがめくれるのが止まった。「ッ……?もしかして?」 一ページ戻して、虚空を再び叩く。「これかな。」 開かれたページを見て驚く羽目になる。「やたら色の薄い海……じゃなくて、空なんだよね?」 確認を取る僕にブローディアはこう言う。「その通り。あったね。」 にやにやと笑いながら、視線を合わせてきた。 む、嫌らしい。「これが本物なの?何だか気味悪いわね。あらかじめ見てみると。」 何だか青っぽいのがまるで……そう、白がかった海みたい。 でも、一体何の本だったのかな。「この本ってもともと何のためのなんだろうね」 題名を見ると……? 題名はなかった。「この本の名前とか、用途が分からないね。」 ちょっといーい?と目で尋ねる僕に応えて その黒いのを手渡してくれた。 パラパラと捲るページは中身がさっき見たときは分からなかったのに、今は分かる。 もしかして、読んでる人以外は覗き見出来ないってことなのかな。 見せてくれるなら別みたいだけど。 さっと流していくページの中身がほとんど見えてないけど、見えてる気がしたのは、そういう機能があるのか。 どうなのか。 ……結局何もわからない。「ブローディアなら、何かわかるんじゃないですか?」 黒いのを押し付けてみる。「まぁ、しかたない。」 受け取ったブローディアは同じようにパラパラとページを捲る。 じーっと見る節はない。けど、何かを探しているかのようだった。目が真剣だった。ぼんやりとしているような目。 全体を、雑に見る時のそれだ。 いったん戻って、もう一回捲る。 そして、留める。 向きをうまく変えて此方に見せてきた中身は、空じゃなかった。 それは、何やら線がいっぱい書かれた絵。 名前を地図というもの。 大きく描かれた島と、その次のページにはもっと全然違う所と思われる地図。 ブローディアはこれを「全世界の地図だよ、これは。」 全世界と呼んだ。「私たちが住むのって、ここ?」 お姉ちゃんが指さしたのは前のページに書かれた大きな丸っぽいソレ。 僕たちの知識上にしかない島という言葉。 もしかすると、知らないとか、信じてないとか、分らないという人すらいるかもしれない概念。 これを知っているのは僕らが海岸を良く訪れているから、まだ理解できるってことに過ぎない。 この場所だけが、この世界と思う人も多いんだと思う。 だから、島なんて言葉を知らなくていいんだって。 そういっていたのを聞いたことがある。「多分ね。この本の真ん中に置かれてるから。そうなんだと思う。」 一旦黒いソレを机の上に置かれる。 机に置かれると透明っぽいものが広がっていく。 ぱばばっと広がり、机一面が覆われた。「な、なにこれェッ!?」 驚きの声を隠せなかったのは、僕だけじゃないみたい。 広がっていくその不思議な質感。透明な膜。 その膜は机の端にまで広がって……少しはみ出る。 そのまま伸びていくのかと思うと、逆にちょっと縮んで机の表面上の中にしっかりと納まる。ふれーむいん。 広がると机に密着し…… 徐々に絵が描かれ始める。 それはさっき見た絵。「世界地図」なるもの。右に大きな逆△二つ、左に長方形と、逆△が2つ。下の方に楕円が一つ。そんな感じ。 細かく見るといろいろ描かれているみたいだけど。気にするところじゃない。「世界地図って、この場所以外のこと……なんですよね?」「その通り。ここの外の場所だ。ここがどんな場所にあるかは覚えてないというか、知らないけどな。」 そんなふうに返ってきた。
「まぁ、でも。大体の場所の名前とか、特徴は分かるよ。」 そういう。名前を憶えてないくせに。「僕に関することを覚えてないだけ。もちろん、すぐちかくの事だけどね。それ以外の常識とか、基本的なことは覚えているよ。」 基本的な事に外の世界は入るのかな。 ……まぁ、全然違う所から来た風だったし、分かるのかな。 きっとそういうことなんだ。 うん。「この、絵の事を地図っていうの?」「そうだよ。これは、ただの絵じゃない。すべて意味を持ってる。」 全て……?意味を持つ。「きっと、この地図がまだ機能があるなら……」 そう言って、透明な膜を触り始めた。ブローディアの手が行く先は左上の隅。 すーっと指を滑らせていくと、上から何かが引き出されてきた。 表示されたそれは、縦にズラりといろいろ書かれている。 かんとりーねーむ。 でてぃーる。 あんど、そー、おん。 ……なにこれ。「それはなんですか?」「これは……あれ?読めない?」 知らない言葉っぽいですし。「知らない言葉は読めませんね。」「そうだよね。それぞれ、国の名前、詳細、その他。」「くに?」 くに、という考えは多分ここにはない。「この島もきっと国の一つだよ。この島を操る人と、はたらく人がいるからね。」 ……。 お姉ちゃんを横目に見るが、軽く首をふっている。 理解して……ない。「他の国はどこにあるの?島の外?」「この海の外にあるはずだよ……残ってればね。」「……そう。」 これ以上は聞く必要がなかった。 そう思う。「この海の外かぁ。」 お姉ちゃんがつぶやく。興味があるのかな。「じゃぁさ。ここってなんていうの?知ってる?」 おもむろに地図を指さす。僕らとはどんな関係があるかもわからない所。 お姉ちゃんが指さしたのは左上の方。ぎざぎざした模様の部分。いろんな線が枠の中に書かれているように見えた。「これは、ヨーロッパ。全部は覚えてない……かも。どうだろう。ヨーロッパっていう大陸の……名前?かな。多分」 記憶はあやふやらしい。でも、覚えていないというよりは、忘れている……?あまり、関心事ではなかったのかな。「じゃぁ、ここ!」 次に指さすのはもっと下の方のおおきな楕円。「オーストラリアだね。こういう国の名前とかってやっぱ知らないの?」 ブローディアからすると常識らしいけど。「習わないし、国なんてものも分からないもん。ましてって言ったってさっぱりだよ。」 同感。「そういうのも習わないんだ。……なんだか、井の中の蛙だね。」 大海を知らず。されど空の深さを知る……ね。 空なんて、見えさえしなくて、餌を与えられてるだけかもしれないのに。「そうですね。僕らはブローディアが知ってる事をほとんど知らないです。」
 その時、ちょんちょんと肩をつつかれた。 ……ああ、なるほどね。えーっと。「井の中の蛙っていうのはね。他の多くの事を知らないってこと。」 こくりとうなずいてる。分かった……のかな。
「とりあえず。大きな収穫は得たね!」 お姉ちゃんの切り出し。「そうだね。色々知れたよ」 僕の返し。「今日はここらへんで帰る?」 ブローディアの提案。「いいと思いますよ。」「そうしよ!頭痛いや。あはは」 双方の賛成より、提案。可決される。


 その時ばかりは無事に家に戻れた。 でも、私は知ってる。彼らは知りすぎてる事。 多分、シェフレラはそのことに気付くだろう。もし、幽かかすかに聞こえた金属音を聞いていなかったとしても。 いや、金属音なんて気にならなかったかもしれない。 島には工場が林立して、常に金属音を外にだしている。 聞こえるわけもない。頼りになるのは彼の見た目らしくない頭だけ。 回避できる可能性はないだろうな…… 二面性はあるときは二つの選択肢を生むけれど、たかが二つごときでは対して変わらない 悲しいかな。かわいそうな子達。

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