空を舞う鳥は夢を晴らす

ノベルバユーザー222490

飛行機お料理教室

空を駆ける戦闘機一つ。黒く塗られ図太く、無骨。プロペラを4枚持ち大きな馬力を持つエンジンが積まれる機首。前から見ると分かる片翼三つずつの筒。長く大きな羽にはどの国とも取れないマークが付く。そして、機体に垂直に着く尾翼にも同じようなマークがついている。星でもなく、丸でもない。勾玉のような形のマークがついている。しかし、どの国にも属してはいない。とある組織に属する兵器だ。名前をキャット。かつてUSA、アメリカが用いていた機体であるF6Fを改造して、今の敵に対応しようとしている。ただし、敵がもってくる機体は多い。これはあくまで一つの方に対応しただけだ。それでも、この大きな夜空を舞う黒塗りの彼は見ているものに信頼感を与える。もっとも下に見える雲は厚く下からこの演舞を見ることは出来ない。それを思うと通信使であり、管制である早坂彩月は残念に感じていた。どうしてこんなに綺麗な舞を自分以外は見られないのかと。他の人にも見て欲しいと望んだ。ただ、この命がかかった勝負も音無水槻が勝つことを知っているからこそ安心していられる。そう思う。音無はこの部隊に入ってから6か月ほどではあるが、コンピューターの支援と常にサポートする早坂の力もあってか優れた戦績。中身のない無人戦闘機には負けることはないと分かっている。それは自分の力以外にも音無が優れた飛行士であることを示す。ただし、余裕があるとはかぎらない。舞っている当人たちは悠長に考えている場合ではない。相手の先を読むことに精いっぱいだ。限られた視界のなかで敵の翼の向きを見る。機首を無理やり動かしでもしなければまっすぐすすむはず。自分より大きな孤を描く敵の進行方向が分かれば自分が次に撃つタイミングも読める。となれば、そこに導くだけの方法をコンピューターに問う。そして、旋回中という機体の腹をさらすようなタイミングで違う敵に来られては困るのだ。だからこそ、レーダーとしての管制がある。3回目のループもう少し頭を上げれれば敵は自分の射線に入る。入れば当たる。それが12.7ミリ機関銃の優秀さ。相手は死を覚悟する。AIに死の概念はないが。スコープを覗き込む。敵は入った撃てば墜ちる。音無はそのトリガーを引く。12.7ミリ機関銃6門がぱっと輝き、死のフラッシュを照らすと、撮られたその機体は火がついたと思えば瞬く間に広がり飛行不可状態となる。バキッと音が鳴るように翼が折れ徐々に燃え広がる機体が落ちる様は不死鳥の死を思い浮かばせた。一瞬の射撃チャンスをものにしたまま機首が平行に近いことを確認してから、音無は作戦についてたずねる「目標とのズレは?」「ほぼないです。そのまま進んでいけば右手に見えるかと」「……」しばらく進み蒼い空を飛ぶ燕は遠くの黒い羽虫の存在を認識した。目には見えていないが、彼の飛行機にはレーダーという優れた探知機能を持つ。今の時代に木製の飛行機などありえないと考えられているからこそ役に立つ存在。羽虫の姿が徐々に分かりやすくなってくると燕は急降下のための準備をする。徐々に高度を得ていき一旦下を見るために翼を回してコックピットを下に向ける。本来であれば非常に恐ろしい光景だ。ただ、音無には体を震わせるような怖さはもうない。最近は恐怖感をうすれさせる大きな要因があるために気にはならないのだ。それは、大きな雲があることで高度がいまいちわからないことと、墜落しかけても正しい判断で機体操作をしてくれるだろうという期待がある。クルリと回転して眺める頭上(下に見えているはずの羽虫ども)に音無は餌を確認。その反転した状態から重力とエレベーターを用いて一気に機首を上にもちあげる。(三人称視点で見てみると機首は下に向いている)重力に従って降りていく姿はもはや燕よりも鷲のようだったがしかし、鷲といえど空中の敵を捕まえるのは難しかろう。ここは、海鳥ということにしよう。彼らは飛行物体をも喰う。敵を貫通して自らの口に収めるのはそっくりではないだろうか。射線にとらえた今晩二匹目の餌を12.7ミリの弾薬がほどよく穴を穿ちたべごろを作り出す。どれだけ固い肉でも包丁で叩いたあとには柔らかいものだ。火であぶってあげればその肉はやわらかいだけでなく肉汁のしみたうまいものとなる。丁度燃料タンクがあるところに穴が開いたのかもう一斉射で油を塗った焼夷弾が燃料タンクに入って徹甲弾がさらに穴を大きくする。餌から漏れ出した体液に焼夷弾が火をつけるとぱっと光って夜空で花火を咲かせた。そのまま喰い終えた残骸は雲の中に吸い込まれていった。そして、まだ敵は居る。ただし、一回目は対戦闘機砲火をさせないままに出来たが、一旦下まで行ってしまうと速度はあるものの、次の敵をやり終えたときに完全に速度を失いかねない。「周囲に敵対反応はこれ以外ないか?」「大丈夫です、ありません。敵であれば下からの突き上げで問題無いでしょう。その子の武装ならやれます」「了解。次の敵もいけるな。失速状態でのサポートは任せるぞ」敵を貫いて加速している機体を次の敵をみすえつつゆっくりと機首を持ち上げて空中分解を防ぐ。そしてその速度を使い高度へと変換していく。目標のカモには距離600mある。けど、当たるだろう。大体どこら辺に飛ぶかの目測はついているし、そのアシストも利用すれば余裕だった。パパパッと撃っ手出た火花に引火するかのごとくカモに火がつき夜空を照らす。もっとも高いかどうかは分からないが、高価なキャンプファイヤーには違いないと音無は思う。「あと何機?2機見えるけど全部やるのか?」「もちろん。生きて返すな。だそうです。機械に命はありませんけどね。」「望むところ。弾薬的には大丈夫そうだ。」「では、頑張ってください。」さっきの一機をしたから突き破ったまま死骸の上空でしばしまつこと5秒ほど。エンジンを切りプロペラの回転は徐々にゆっくりになっていく。空中で機体は固定されたように留まり、翼の先端から白い煙が漏れ出す。翼をなめらかに行く気流が乱れているのだ。完全に速度が消える少し前からラダーを入れて機首を右へ右へと動かそうとすると重力に引かれて、落ちていく。機首が下に向いたのを感じ取るとエンジンをもう一回叩き起こしてスロットルを上げた。「これがハンマーヘッドってやつか。一人でやりきるには少々恐ろしいな」失速していく感触は身体がふわりと浮きながらも背中から落ちていくのだ。建物から突き落とされた時のそれを味わうことになる。ただし、空気は感じることはないが、飛行機ならもろに墜落してもおかしくない。落ちていく機首を次の敵が通るであろう目標地点に向ける。「これで3機目……」射線を遮ろうとする影に容赦なく弾をぶつけ、両翼を叩き斬る。弾が交差するその前に機体中心を通りこして翼に叩き込まれた3つ掛けるおおよそ10の弾薬は敵に切り取り線をつけその後に続いたさらなぬ弾が切り落とすこととなった。両翼を失い揚力を失くしたソレはくるくるとたんぽぽの綿毛が空に舞い、降りていくようなかわいさを持っていたのかもしれない。下を見通すことのできない音無には想像で敵の末路を補完するしかない。そして、敵の末路よりも次の的当てをしなければならないのだ。最後の敵を横目にさっき墜ちた塊にそって降下しスピードをつけてから機首を上げ始める。無理に上げては翼が折れかねない。が、そこまでキャットはやわらかくないことも知っていた。ラダーで機首を斜めに持ち上げ旋回。その行く先は敵の片翼を視界に入れる位置。ここでも敵からの防衛機銃が来ることはない。ここまで末端の機械にはそこまでの装備を積んでいない。視界に入れればすでに敵は死んだに等しい。射線はすでに当たっている。ありったけ機銃を叩きこんで敵の燃料を薪にキャンプファイアーである。もはや見るまでもない。汚い敵の死に面なんぞ見るものではないという面倒くさがりの言い訳を用いて早急に離脱する。「任務完了。だな?」「はい、完了です……帰投してください」プチッっと音が鳴り、2秒ほどのノイズが入る。「お話しがあります。あのですね、撃墜していただく分にはけっこうなんですけど、しっかりと敵が落ちるのを確認してください。そして、機銃が届かない場所に早急に行くこと。こちらからは確認することができないのですけど、独り言、例えば……『まぁいいか』とかしっかり聞こえてますし、レーダーで金属物の移動は見えてます。死体に撃たれて死んだら情けないでしょう!?そんなことで落ちたら救えないですからね。お願いしますよ。」ツーっと音が入ってまたしばらくのノイズの後、音が消えた。

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