とある鋭き針の物語

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準決勝戦 その1

「そんじゃあストレートからだ、いくぞ!」

「望むところ!」


「うおぉぉー!!!」

私たちは開幕から、お互いストレートを繰り出した。凄まじい力の乗った拳がぶつかり合う。その力は激しい衝突音と軽い衝撃波を伴って、観客にも伝わっていく。

どうやら力ではこちらが上回っているようで、少しづつ押していく。


「流石だ。力勝負では完全に負けてしまっているな。だが、これならどうだ?」

「おっと!?」

彼はその言葉と同時に力を抜いて拳をいなす。私の体勢が崩れたを見計らい、反対の腕でアッパーを繰り出す。
私は何とか体を捻り、その一撃をいなす。直撃してたら危なかっただろう。
私はひとまず距離をとった。反撃できないこともなかったが、あの体勢からの攻撃では彼に躱されてしまうと思ったからだ。


「あれを耐えきるとは。やるようになったな!」

「それぐらいできなきゃ邪神には勝てないよ。」



「そんじゃ、本番に入るか。」

その言葉と同時に、ライトの動きが変わる。狼人特有のフットワークに切り替わり、先程まであった隙が消え失せる。


「この連撃を防いでみろ。おるぁぁぁ!!!」

そして、ライトは連撃ジャブを繰り出す。凄まじき速度で拳を出しているにも関わらず、重心がブレない。反撃する隙もなく、防戦一方となってしまう。しかも、今の私の機動力ではとても対処し切れない。

私はある一点で、完全に体勢を崩されてしまう。


「これで終わりだ。おるぁぁぁ!!!」

ライトは回し蹴りを繰り出す。完全に体勢を崩されている私には防ぐことができず、直撃してしまう。肋骨が数本折れ、かなりの勢いで吹き飛ばされる。

痛ってぇ、とか言いたいところだが、そんなこと言ってる暇なんてない。このままじゃ場外に出て終わりだ。
私はどうしようかと考える。一応案は出した。しかし、そこで考えついたものは、正直狂っていた。だけど、やらなきゃ終わる。


「くっ、こうなりゃやけくそだ!」


そして私はあろうことか、飛膜のない翼を土台に突き刺した。骨と肉だけの翼で私の全体重を受け止めた為、骨はバキバキに折れてしまったが、何とか最悪の事態を防ぐことができた。

 私が体勢を立て直し、血を吐いていた時、翼から妙な感覚がしたのに気づく。気になったのでちらっと見てみると、なんと、バキバキに折れてしまったはずの翼が元通りになっていた。いつも通りの針付きの翼である。しかも、どうやら他のみんなはこの事に気づいていないようだ。
現時点でこの現象についてはよくわからないが、試してみる価値はあるだろう。
私はまたも狂った作戦を思いつき、実行に移すことにした。


「今度は私の番だよ!」

「まだ立てるか、いいぜ。どっからでもかかってこい!!!」

まずは相手を誘い出すことからだ。
私は彼に向かって持てる力を出し切って急接近する。彼は何の躊躇もなく連撃ジャブを繰り出すが、何とか気合いで持ちこたえてみせる。


「これでも喰らえ〜!!」

そして私は、あえて大振りなハイキックを繰り出す。もちろん彼は、持ち前のフットワークで躱す。空を蹴った私の体が無駄に回り、どう見ても隙だらけな状態になる。でも、それでいい。


「そんなんじゃ隙を作るだけだぞ!!」

彼はその隙に合わせるように、ストレートを繰り出そうとする。しかしそこには、私が体を回すことで勢いを増していた翼があった。




ライトについて

 狼人族のボディビルダーで、引き締まった肉体が特徴的である。格闘施設内では先生的立ち位置にいる。
 戦闘面では狼人族の特徴であるフットワーク戦を主流とする。得意技の連続ジャブは隙を見せないだけでなく、肉体を無駄なく生かしている為、常人のストレート並みの火力を誇っている。
 鍛え上げた足による技も破壊力に優れているが、狼人族特有の噛みつき技の方が強い。

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