境目の物語
未開の土地、三竦みの試練
翌日。
雨は上がり、露が朝日を反射して煌めく。昨日とはとって代わっての良好な天気だ。
「十文字槍も装備完了。縛ってたわけじゃないけど、あまり使ってない弓を持って行くのは違うよな」
「うんうん、やる気充分だね。私とグルは足手まといだろうから、ここに残らせてもらうよ」
〔皆さん、頑張ってください〕
「ああ、それじゃあ行ってきます」
非戦闘の2人を置いて、カルーグ領を出立した境目トラベラーズ。彼らはほどなくして右翼の先端にたどり着いた。
軍隊を通すべく架けられた石橋。川を挟んだその先に見える森。
「この橋、苔や蔦だらけで、長らく使われていないようですね」
「人の気も、魔物の気もねぇなんて、気味悪いとこだな」
「潮の香りがつよい。この川は川の水のみでなく、海の水も混ざっている?」
「あの先が未開の土地……?」
周りの様子を伺いながら一行は、ほとんど使われず荒れた橋を渡りきった。
最後の1人が渡り切ったその時、突然、空気感が変化する。空がほのかに緑を帯びる。まるで別世界に迷い込んだようだ。
《よくぞいらっしゃいました。私たちが守護する未開の土地へ》
「「「っ!?」」」
頭の中に直接響き渡る。ラグはすぐに声をあげる。
「誰だ!」
《私は土地神、神遣い。永らくこの土地を護ってきた者のひとりです》
「土地神!? まさか50年前のはあんたが?」
《50年……そうですね。あのような使いの者どもに、神聖なるこの土地を得る資格などありません。私たちは資格なき者を拒みます》
土地神を名乗る声の主は、穏やかな声で、しかし厳格な態度で言う。次いで、一行に問いかける。
《あなた方はどうでしょう。ここに来た目的は一般の術師のように私たちですか? それともこの土地ですか? そして土地を求めるのなら、その理由は何ですか?》
ギルドマスターであるラグは、誠心誠意をもって答える。
「俺たちはこの未開の土地を手にするために来た。この土地を手に入れて、俺たちのギルドを創るんだ!」
声の主は少しの沈黙ののち、フッと鼻で笑う。
《それは必ずしもこの土地でなければならないのですか? ギルドを創るだけならば、国の中でも良いのではありませんか?》
「そ、それは……」
ラグは言い返せなかった。いや、そんなこと考えていなかった、と言う方が正しいのかもしれない。
だから代わりに我道さんが答える。
『それは違うな。私たちは第2の故郷を求めている。皆も覚えているだろう、あの地下街で語り合ったギルドにかける理想を。理想を集結したそのギルドは、すなわち第2の故郷となる。国という他人の領土で実現できるはずがないだろう』
「そうか、そうだったな。目的はギルドだけじゃない」
「みんなの夢を叶える場所だったわね」
「……?(おいらが加入する前にそんな話があったのか?)」
約1名取り残されていたが、ともかく、境目トラベラーズの意志が一点に集結する。
《第2の故郷……そうですか。理由としてはやや弱いですが、いいでしょう。あなたにこの土地を唯一無二の場とする意志があるのなら、私は資格を与えましょう》
声の主は言う。
次の瞬間、空気が変わった。重苦しさが増大し、森がざわめく。
なによりも、
「『「うぐっ!?」』」
ヘキサ、ノナ、ランド、ゴルド、アル、タイ、そして我道さんの7名が、よろめいて膝をついた。全員とも手で頭をおさえていた。
「な、何が起こった?」
《試練を開始したのです》
「「「っ!?」」」
7名が苦痛に顔を歪める中、声の主は開始を言い渡す。
《もうこの喋り方もいいでしょう。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇》
「霊獣族の言葉!? 頼むリティ」
「うん、任せて。えっと今さっきのは、《これよりは神霊として、相対しましょう》」
喋る言葉が変化し、またいつかのようにリティが訳す。
《「◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇」》
その言葉が終わると、それ以降は何も聞こえて来なくなった。その代わりに、森の奥から強い気配が放たれた。
動ける者たちはすぐに構えたが、何かが襲いかかってくる様子はなかった。気配は微動だにしない、奥で待ち構えているようだ。
確認してから武器を納めると、すぐに膝をついた仲間のもとに寄った。
「大丈夫かみんな?」
「いきなり頭痛がしたっす」
「けどこんくらい、問題ねぇ」
ランドやタイに続いて、他もゆっくりと立ち上がる。顔色は優れないが、頭痛を引きずる様子はなかった。
しかし次に、ランドが地面に手を当てながら違和感を口にする。
「あれっ、できない? 地点が設定できないっす。ランドエスケープが使えないっす」
ハッとしたように、他も自分の能力を試みる。
「……くっだめだ、おいらの濃煙幕がでねぇ」
「これは……やはり、剛体が使えません」
「僕のもダメみたいだ。まあヒムロは動くみたいだから、あんまり関係ないけどね」
「私のシリンダが作成できない?」
「大変ですわ兄さま。ボルトが作れなくて、作成済みのは2本しか持ち歩いていないのに」
次々に混乱の声が上がった。頭痛を被った全員が、能力を発動できなくなっていた。
そんな時、
「それは結界の影響さ」
ジャズが言う。
「ラグ君、君は知っているだろう。封印の事は」
「シール……ああ、あの魔人が使ってきたやつ。くらうと能力とかを封じられるんだ」
「それってもしかして私も……あっほんとだ。あの時みたいに鰐尾竜の声が聞こえなくなっちゃってる」
「「えぇ……」」
遅れて気づくリティの反応には、思わず苦笑いするラグとジャズ。しかし笑っていられるほど、空気は軽くない。
「これは、ここから一番近くにいる土地神の結界だ。概念系の能力は影響を受けにくいが、能力系の能力は使えないと思った方がいいかもしれない。ハヤテマルはどうかな」
「む、私の風帯は蓄積した力でも動く。それにここは風が良い、問題無しだ」
「なら良かった。幸いこの結界は封印と違って、魔法への影響は少ない。苦しいとは思うけど、頑張ってくれよ」
そう言うとジャズは、一歩後ろに下がった。背後にあるのは橋だ。
「ジャズ? なんで下がって」
「残念だけど俺はこの先、協力する事はできない」
「「「えっ?」」」
ジャズの物言いに、誰もがその声を漏らした。ジャズは言いにくそうに顔をしかめるが、しかし次には、いつになく真剣な表情をした。
「君たちには、悪意をもって伏せていたことが2つある。1つ目はラグ君とお嬢さんに。ランド少年など6人隊のみんなにはすでに言ってるんだけど、俺ことジャズ・エトランゼはIBCから派遣された駐在員だ」
「「駐在員?」」
ラグとリティは、言いながらランドたちの方に顔を向ける。
「ジャズさんの言う通りっす。ジャズさんはIBCから派遣された駐在員として、協力してくれてたっす。すべては俺たち境目トラベラーズがIBCと契約を結ぶに値するギルドか見極めるために」
「説明ありがとうランド少年。監視されていると分かって一緒にいたくはないだろう。だからランド少年の友達として、溶け込ませて貰ったのさ」
「そうだったのか。でもそれがなんで」
「焦るのはまだ早いさ」
ジャズは右手で2を表しながら、続ける。
「こっちが本題。2つ目はここにいる全員に、実は俺は、君たち境目トラベラーズご一行の仲間ではない」
「「「っ!?」」」
思わず身構える彼らだが、ジャズは「待て待て」と手を横に振る。
「べつに仲間でないからと言って、敵というわけでもない。実際俺は君たちの事を友達だって思っているよ。要は、俺はIBCのジャズであって、境目トラベラーズの一員ではないということ」
「なんだそう言うことか。またまたややこしい言い回しを」
「それが悪意ってものだろ。実を言うと駐在員を担うにあたって、俺自身もIBCと契約を結んでいる」
「ジャズ自身にも契約があるのか?」
「駐在員も歴とした仕事だからね。でそれは、ギルド完成まで間接的に君たちをサポートする事。裏を返せば、ギルドの設立に直接関わる物事に干渉してはならない、という事でもある」
思い出して欲しい。
俺が席を外していた時はどういう時だったか。逆に共にいた時は、どういう時だったか。
言われてラグたち一行は、釈然とする。
「俺が直接サポートしてきたのは君たちという友であって、境目トラベラーズという組織ではない。そしてここから先は境目トラベラーズの戦いだ」
「だから共に戦うことはできない、か」
こくり、と微笑みながらジャズは頷く。
「もちろん、俺は境目トラベラーズのギルドが完成するまでの間、契約に基づいてサポートさせてもらう。本当のお別れはもっと先の話さ。だから今は、君たちの力で勝ちをもぎ取ってこい」
「……わかった。いろいろ助けてくれてありがとう、ジャズ」
ラグは振り向いて、ジャズに背を向けた。髪の尾がなびき、向かい風の吹く森と向き合った。
『ああラグ、進む前に一ついいだろうか。どうやら私は先ほどの頭痛で不安定になってしまったらしい』
「また我道さんは……それって休めば治るのか?」
『おそらく時間をおけば、戦える程度には調律できるだろう。すまないな、どうやらここの土地神というのは、私の知らないものをいろいろと隠し持っていたらしい』
「他に休んでおきたいやつはいるか?…………いないな」
ヘキサ、ランド、カイ、アル、ゴルド、ノナの6人隊。ハヤテマル、タイ、そしてリティの計9名は、ラグの呼びかけに力強く頷いた。
「それじゃ、行くぞ!」
「「「はい!!!」」」
戦う者、10名。先頭のラグに続くようにして、彼らは森の奥へと足を踏み入れた。
(ryトピック〜未開の土地その1〜
双翼大陸の東に位置する、人のものでも魔物のものでもない土地。双翼大陸とを隔てるのは20mの川のみだが、双翼大陸とは別の大陸であると歴史書に記されている。しかしその理由を詳細に記録した媒体は、現在には残っていない。
現在は50年前に建てられた橋のみが双方を繋いでいる。もちろんこの土地に用がある者にとって20mの川は障害になり得ないが、良くも悪くも橋のおかげで土地への侵入は楽になっている。
雨は上がり、露が朝日を反射して煌めく。昨日とはとって代わっての良好な天気だ。
「十文字槍も装備完了。縛ってたわけじゃないけど、あまり使ってない弓を持って行くのは違うよな」
「うんうん、やる気充分だね。私とグルは足手まといだろうから、ここに残らせてもらうよ」
〔皆さん、頑張ってください〕
「ああ、それじゃあ行ってきます」
非戦闘の2人を置いて、カルーグ領を出立した境目トラベラーズ。彼らはほどなくして右翼の先端にたどり着いた。
軍隊を通すべく架けられた石橋。川を挟んだその先に見える森。
「この橋、苔や蔦だらけで、長らく使われていないようですね」
「人の気も、魔物の気もねぇなんて、気味悪いとこだな」
「潮の香りがつよい。この川は川の水のみでなく、海の水も混ざっている?」
「あの先が未開の土地……?」
周りの様子を伺いながら一行は、ほとんど使われず荒れた橋を渡りきった。
最後の1人が渡り切ったその時、突然、空気感が変化する。空がほのかに緑を帯びる。まるで別世界に迷い込んだようだ。
《よくぞいらっしゃいました。私たちが守護する未開の土地へ》
「「「っ!?」」」
頭の中に直接響き渡る。ラグはすぐに声をあげる。
「誰だ!」
《私は土地神、神遣い。永らくこの土地を護ってきた者のひとりです》
「土地神!? まさか50年前のはあんたが?」
《50年……そうですね。あのような使いの者どもに、神聖なるこの土地を得る資格などありません。私たちは資格なき者を拒みます》
土地神を名乗る声の主は、穏やかな声で、しかし厳格な態度で言う。次いで、一行に問いかける。
《あなた方はどうでしょう。ここに来た目的は一般の術師のように私たちですか? それともこの土地ですか? そして土地を求めるのなら、その理由は何ですか?》
ギルドマスターであるラグは、誠心誠意をもって答える。
「俺たちはこの未開の土地を手にするために来た。この土地を手に入れて、俺たちのギルドを創るんだ!」
声の主は少しの沈黙ののち、フッと鼻で笑う。
《それは必ずしもこの土地でなければならないのですか? ギルドを創るだけならば、国の中でも良いのではありませんか?》
「そ、それは……」
ラグは言い返せなかった。いや、そんなこと考えていなかった、と言う方が正しいのかもしれない。
だから代わりに我道さんが答える。
『それは違うな。私たちは第2の故郷を求めている。皆も覚えているだろう、あの地下街で語り合ったギルドにかける理想を。理想を集結したそのギルドは、すなわち第2の故郷となる。国という他人の領土で実現できるはずがないだろう』
「そうか、そうだったな。目的はギルドだけじゃない」
「みんなの夢を叶える場所だったわね」
「……?(おいらが加入する前にそんな話があったのか?)」
約1名取り残されていたが、ともかく、境目トラベラーズの意志が一点に集結する。
《第2の故郷……そうですか。理由としてはやや弱いですが、いいでしょう。あなたにこの土地を唯一無二の場とする意志があるのなら、私は資格を与えましょう》
声の主は言う。
次の瞬間、空気が変わった。重苦しさが増大し、森がざわめく。
なによりも、
「『「うぐっ!?」』」
ヘキサ、ノナ、ランド、ゴルド、アル、タイ、そして我道さんの7名が、よろめいて膝をついた。全員とも手で頭をおさえていた。
「な、何が起こった?」
《試練を開始したのです》
「「「っ!?」」」
7名が苦痛に顔を歪める中、声の主は開始を言い渡す。
《もうこの喋り方もいいでしょう。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇》
「霊獣族の言葉!? 頼むリティ」
「うん、任せて。えっと今さっきのは、《これよりは神霊として、相対しましょう》」
喋る言葉が変化し、またいつかのようにリティが訳す。
《「◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇」》
その言葉が終わると、それ以降は何も聞こえて来なくなった。その代わりに、森の奥から強い気配が放たれた。
動ける者たちはすぐに構えたが、何かが襲いかかってくる様子はなかった。気配は微動だにしない、奥で待ち構えているようだ。
確認してから武器を納めると、すぐに膝をついた仲間のもとに寄った。
「大丈夫かみんな?」
「いきなり頭痛がしたっす」
「けどこんくらい、問題ねぇ」
ランドやタイに続いて、他もゆっくりと立ち上がる。顔色は優れないが、頭痛を引きずる様子はなかった。
しかし次に、ランドが地面に手を当てながら違和感を口にする。
「あれっ、できない? 地点が設定できないっす。ランドエスケープが使えないっす」
ハッとしたように、他も自分の能力を試みる。
「……くっだめだ、おいらの濃煙幕がでねぇ」
「これは……やはり、剛体が使えません」
「僕のもダメみたいだ。まあヒムロは動くみたいだから、あんまり関係ないけどね」
「私のシリンダが作成できない?」
「大変ですわ兄さま。ボルトが作れなくて、作成済みのは2本しか持ち歩いていないのに」
次々に混乱の声が上がった。頭痛を被った全員が、能力を発動できなくなっていた。
そんな時、
「それは結界の影響さ」
ジャズが言う。
「ラグ君、君は知っているだろう。封印の事は」
「シール……ああ、あの魔人が使ってきたやつ。くらうと能力とかを封じられるんだ」
「それってもしかして私も……あっほんとだ。あの時みたいに鰐尾竜の声が聞こえなくなっちゃってる」
「「えぇ……」」
遅れて気づくリティの反応には、思わず苦笑いするラグとジャズ。しかし笑っていられるほど、空気は軽くない。
「これは、ここから一番近くにいる土地神の結界だ。概念系の能力は影響を受けにくいが、能力系の能力は使えないと思った方がいいかもしれない。ハヤテマルはどうかな」
「む、私の風帯は蓄積した力でも動く。それにここは風が良い、問題無しだ」
「なら良かった。幸いこの結界は封印と違って、魔法への影響は少ない。苦しいとは思うけど、頑張ってくれよ」
そう言うとジャズは、一歩後ろに下がった。背後にあるのは橋だ。
「ジャズ? なんで下がって」
「残念だけど俺はこの先、協力する事はできない」
「「「えっ?」」」
ジャズの物言いに、誰もがその声を漏らした。ジャズは言いにくそうに顔をしかめるが、しかし次には、いつになく真剣な表情をした。
「君たちには、悪意をもって伏せていたことが2つある。1つ目はラグ君とお嬢さんに。ランド少年など6人隊のみんなにはすでに言ってるんだけど、俺ことジャズ・エトランゼはIBCから派遣された駐在員だ」
「「駐在員?」」
ラグとリティは、言いながらランドたちの方に顔を向ける。
「ジャズさんの言う通りっす。ジャズさんはIBCから派遣された駐在員として、協力してくれてたっす。すべては俺たち境目トラベラーズがIBCと契約を結ぶに値するギルドか見極めるために」
「説明ありがとうランド少年。監視されていると分かって一緒にいたくはないだろう。だからランド少年の友達として、溶け込ませて貰ったのさ」
「そうだったのか。でもそれがなんで」
「焦るのはまだ早いさ」
ジャズは右手で2を表しながら、続ける。
「こっちが本題。2つ目はここにいる全員に、実は俺は、君たち境目トラベラーズご一行の仲間ではない」
「「「っ!?」」」
思わず身構える彼らだが、ジャズは「待て待て」と手を横に振る。
「べつに仲間でないからと言って、敵というわけでもない。実際俺は君たちの事を友達だって思っているよ。要は、俺はIBCのジャズであって、境目トラベラーズの一員ではないということ」
「なんだそう言うことか。またまたややこしい言い回しを」
「それが悪意ってものだろ。実を言うと駐在員を担うにあたって、俺自身もIBCと契約を結んでいる」
「ジャズ自身にも契約があるのか?」
「駐在員も歴とした仕事だからね。でそれは、ギルド完成まで間接的に君たちをサポートする事。裏を返せば、ギルドの設立に直接関わる物事に干渉してはならない、という事でもある」
思い出して欲しい。
俺が席を外していた時はどういう時だったか。逆に共にいた時は、どういう時だったか。
言われてラグたち一行は、釈然とする。
「俺が直接サポートしてきたのは君たちという友であって、境目トラベラーズという組織ではない。そしてここから先は境目トラベラーズの戦いだ」
「だから共に戦うことはできない、か」
こくり、と微笑みながらジャズは頷く。
「もちろん、俺は境目トラベラーズのギルドが完成するまでの間、契約に基づいてサポートさせてもらう。本当のお別れはもっと先の話さ。だから今は、君たちの力で勝ちをもぎ取ってこい」
「……わかった。いろいろ助けてくれてありがとう、ジャズ」
ラグは振り向いて、ジャズに背を向けた。髪の尾がなびき、向かい風の吹く森と向き合った。
『ああラグ、進む前に一ついいだろうか。どうやら私は先ほどの頭痛で不安定になってしまったらしい』
「また我道さんは……それって休めば治るのか?」
『おそらく時間をおけば、戦える程度には調律できるだろう。すまないな、どうやらここの土地神というのは、私の知らないものをいろいろと隠し持っていたらしい』
「他に休んでおきたいやつはいるか?…………いないな」
ヘキサ、ランド、カイ、アル、ゴルド、ノナの6人隊。ハヤテマル、タイ、そしてリティの計9名は、ラグの呼びかけに力強く頷いた。
「それじゃ、行くぞ!」
「「「はい!!!」」」
戦う者、10名。先頭のラグに続くようにして、彼らは森の奥へと足を踏み入れた。
(ryトピック〜未開の土地その1〜
双翼大陸の東に位置する、人のものでも魔物のものでもない土地。双翼大陸とを隔てるのは20mの川のみだが、双翼大陸とは別の大陸であると歴史書に記されている。しかしその理由を詳細に記録した媒体は、現在には残っていない。
現在は50年前に建てられた橋のみが双方を繋いでいる。もちろんこの土地に用がある者にとって20mの川は障害になり得ないが、良くも悪くも橋のおかげで土地への侵入は楽になっている。
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