境目の物語
レヴィアタン
『死にたくないならばこの俺、レヴィアタンに宝を捧げていけッ!!!』
水竜は荒々しい声を上げた。乗組員たちはあの日を思い出し、恐怖に震えた。
ラグたちにとっては違った。水竜が放つ威圧感は、アマゾンのものとは系統が違っていた。単純な強さで言えば、呪いを使ったアマゾンの方が上だった。
なによりも、ラグとリティ、ザイルにとっては、全くの別物。喉元に黒い逆鱗を見るなり、察しがついていた。
「あんたは何者だ!」
ラグが真っ先に問う。水竜は鼻で笑う。
『レヴィアタン、今そう言ったはずだ。怖くて聞けなかったか?』
「違う、そうじゃない。あんた、中身は竜人族なんだろ! 喉の逆鱗がそう言ってるぞ」
『……っ!?』
きっぱり言い放たれて、水竜はたじろいだ。
『チッ、ザイルの入れ知恵か? まあいい。所詮は人間、この身体の相手じゃない』
舌打ちして、適当に理由づけて、水竜は心の乱れを取っ払う。そして、
『今一度聞くチャンスをやる。ザイル、その鞄の中身を置いていけ。セイレーン号の船長、ザイルの宝を引き渡し次第港に帰れ。さもなくば、こうだ!』
言うと同時に、水竜の尻尾が海から顔を出した。尻尾はラグとリティに向けて振り下ろされる。
ふたりは飛び退いて、スローモーな一撃を躱す。しかし標的を失った尻尾が叩きつける先は、セイレーン号の船体だ。尻尾は手すりを叩き割り、船を大きく揺らした。
「うおっ、しまった!?」
「いや、心配しなくてもいいラグレス君。これくらいセイレーン号は耐えてみせる。航海の守護もあるんだ。だから船の心配よりも先に、あの水竜を!」
トールシップは真剣な眼差しで頼み込む。船体にはまだ致命傷はなかった。揺れる船も守護に守られて横転を逃れていた。
ラグは力強く頷き、すぐに仲間たちに合図する。
「よし、行くぞみんな! 俺たち境目トラベラーズが、水竜を倒すんだ!!!」
「「「おーッ!!!」」」
鬨の声、それぞれをマークしている海賊を撥ね除けた。さらにジャズは一歩先に出て展開する。
「そんじゃ早速、律動領域!」
いつものリズムリージョン。全員が自身の、そして水竜の律動を感じる。
多対一。境目トラベラーズの戦いが幕を開けた。
「先鋒は僕らに任せてよ!」
「私も続きます、兄さまも一緒に!」
「もちろんです姫さま!」
真っ先に戦車を出すアル、専用の武器を携えたヘキサとノナ。3人ともが砲門をそろえて放つ。
「喰らえ魚野郎、サンダーキャノン!」
「奮発するよ、ペンタボルトッ!」
「これが新型です、ヘキサブラスト改!」
砲撃が雷を迸らせ、突き刺さったボルトが激しく炸裂し、砲剣から放たれる強力な熱波が炸裂した部位を焼き焦がす。
しかし、水竜は怯まない。
「ブラストではダメですか……っ!?」
「ペンタボルトでもかすり傷だけなの!?」
「あの見た目で弱点雷じゃないの!?」
『効かねえ、しょぼい、弱えんだよ! お返しの激流砲だ!』
お返しとばかりに口を開き、水の力を集中させる。海水も取り込んで放たれるは、物量に特化した水魔法だ。
「させるか、衝盾ッ!」
「力を貸そう、風帯-盾!」
「受け流します、氷壁!」
風の盾で勢いを殺し、氷の壁が二つに割る。正面を守り、割れた二つは航海の守護が守る。通させない。
魔法を防ぎ切ったところで、リティが声を上げる。
「みんな聞いて。竜人に宿ってる竜には炎が効かないが基本なの。雷は効くはずだけど、でも属性相性的に考えたら……」
「水に刺さる風属性が有効。鱗の鎧を重撃で飛ばして肉を斬る、だろお嬢さん」
「ええ!」
リティの情報に、ジャズの知識。聞いた途端、ラグとハヤテマルの顔がパッと明るくなる。
さらに「それと……」と続けようとするリティだが、言うよりも先に、飛び出す2人。タイとランド、肩を並べるのは少し意外なペアだ。
「風もとい斬属性なら、オイラの爪が火を吹くぜ!」
「ランドエスケープも準備完了、鱗は俺の大剣でやるっす。ゴルドさん、投げてもらってもいいっすか!」
「ええ、ちょうどリハビリも終わったところです。喜んで!」
ゴルドはランドを抱えて投げ飛ばす。タイは自力で踏み込んで飛び出す。
息が揃っているのは律動領域のおかげか、それとも相性がいいのか。
「パワーブレードッ!」
ランドの大剣が首の鱗一枚を斬り飛ばし、
「コークスクリューだオラッ!」
タイの捻りを利かせた爪が隙間から外皮を貫き、肉を抉る。
『……ッ、こいつら!』
軽く血を流しながら一度身を引き、水竜は首を振り回した。
ランドは当たるより前に能力で船に戻る。タイは鉤爪を巧みに扱って、水竜の巨体に張り付いた。
「へへっ、こりゃいい」
『ば、ばかな!? ネズミごときがなぜ』
「おいらはただの鼠じゃねえ、窮鼠だ! この背の焼痕を見ろ、そして刻み込め。シザークロス!」
交差する両爪。バッテン印に裂ける肉体、飛び散る鮮血。
水竜の身体を蹴って離脱するタイと入れ替わるように、ハヤテマルとラグが飛び込む。
「ハヤテマル、あれ行こう!」
「承知!」
「「閃裂斬ッ!!!」」
合わせて空を斬る2人の刃。放たれた2つの斬撃波が傷口の奥で風刃の嵐を巻き起こし、深くを抉り裂く。
ここまで来ると、巨体の水竜でも看過はできない。血をどろどろと流しながら、苦痛の叫び声を上げながら、嵐の海に沈んでいく。
しかし、頭が沈んでからほんの数秒。
『これで終わると思ったか!!!』
「「なっ!?」」
水面を走る2人はかち上げるように、再び水竜が顔を出した。
ハヤテマルとラグは飛び上がって躱しながら、船上に転がり込む。それから水竜の方を向く。
「なんと頑丈な」
「いや……違う、あの傷口」
ラグが指差す。
先ほど思い切り傷つけた部位は、水をまとっていた。まとった水で、急速に再生していた。
『はあ、はあ、そうだ……こんくらいどうって事ない。海域は俺の領域だ。水神さまの領域だ!』
「水神……!」
言い終える頃には傷も完全に癒えて、水竜は身体を船底に打ちつける。
一瞬船が水面から持ち上がった。何人かの海賊は海に投げ出され、乗組員たちは必死で船にしがみつく。ラグたちは互いを支え合って振り落とされないようにするばかりだ。
誰もうかつに動けないまま、水竜はさらに大海嘯を巻き起こして船を揺さぶる。
『ははは、やっぱおまえたちは所詮人間。足の踏み場がなければ対峙する事だってできやしない。宝を譲る気がないなら、このまま海の藻屑と化しやがれ!』
身体をうねらせて、セイレーン号の周りを2周。十分に加速したクチバシで強襲する。
その時だ。
「竜体ッ!」
とっさに手すりを蹴って、リティが飛び出した。
黒い渦をまとって、竜の姿へと変わった。
水竜の頭部ほどの体躯で、しかし秘められた剛力で、襲いかかるクチバシを抱きかかえる。
まるで達人の技だった。数日前まで歩くだけで精一杯と語り、以降の進展も言わずにいたリティが今、翼の力で踏ん張り、その強襲を受け止めてたのだ。
『ひっ!?』
閉じられた口の隙間から低い声色の悲鳴が漏れた。水竜本人の恐怖感の表れなのだろう。次の展開を悟ってしまったがゆえに、竦んで動けなくなっていた。
しかしリティは、そっと両腕を離す。ものにした翼を動かして、適当な距離をとった。
水竜は声色を戻して言う。
『こ、怖くないぞ。俺は怖いもの知らず、俺は水神、俺は海賊団のリーダーレヴィアタンだ。たとえ相手がかつてこの竜を殺した暴君だとしても俺は……』
しかし、
「もうやめて! やめてよシルドラ君!!!」
リティの叫び。再び水竜が硬直した。
『そ、その声……もしかして、リティ姉ちゃん?』
リティ姉ちゃん。その一言で、竜のリティは顔を上げた。頬が緩んでいた。
「やっぱりシルドラ君だったんだ。ええ、そうよ。だから、もうやめにして」
『…………』
提案して、水竜は口を噤んだ。
リティは先に竜体を解いた。同時に出した浮遊板に乗って、水竜と目線の高さを揃えた。
水竜は、赤く光る眼でリティをじっくりと眺める。そして10数秒の後、その身を水流に変えた。
水竜の形を保った水流。その背中あたりから、ひとりの竜人が姿を見せる。
海賊を象徴するようなパイレーツコートと、片目を隠す眼帯。水神の尻尾を縮小したような青い鱗と銀色の尻尾、海の色をした髪の毛。
水流の水竜に乗る竜人の少年、シルドラ。彼は片手を首に添えながら、水上の浮遊板に乗るリティと対峙した。
(ryトピック〜水竜について〜
一生のほとんどを水中で暮らす竜。レヴィアタンのような水生の蛇竜だけでなく、がっしりした胴体と鰭が特徴となる鰭竜や、より魚と類似している魚竜もこれに含まれる。特殊な枠組みに属する竜は、たとえ水生であっても含まれない。
元より水竜というのは、地上の竜が入り込めない水中に生活圏を広げた竜であり、地上での記録はほとんどない。おかげで神話にもほとんど登場しておらず、今どれだけの種がいるのか、またどのような進化を遂げているのかも未知のままである。
そんな水竜だが、基本的には水属性の力に長けており、巨体で魚を食らうことで知られる。個体によっては水魔法の発展である回復系に精通していたり、あるいは炎や雷などまったく別の属性を使いこなす場合もある。
耐性面についても差が激しく、通常の枠組みの竜では最も振れ幅が大きい。そもそも陸上の生物とは縁を持ちたがらない竜なので、下手に関わり合わないことが一番の対処策と言えるだろう。
水竜は荒々しい声を上げた。乗組員たちはあの日を思い出し、恐怖に震えた。
ラグたちにとっては違った。水竜が放つ威圧感は、アマゾンのものとは系統が違っていた。単純な強さで言えば、呪いを使ったアマゾンの方が上だった。
なによりも、ラグとリティ、ザイルにとっては、全くの別物。喉元に黒い逆鱗を見るなり、察しがついていた。
「あんたは何者だ!」
ラグが真っ先に問う。水竜は鼻で笑う。
『レヴィアタン、今そう言ったはずだ。怖くて聞けなかったか?』
「違う、そうじゃない。あんた、中身は竜人族なんだろ! 喉の逆鱗がそう言ってるぞ」
『……っ!?』
きっぱり言い放たれて、水竜はたじろいだ。
『チッ、ザイルの入れ知恵か? まあいい。所詮は人間、この身体の相手じゃない』
舌打ちして、適当に理由づけて、水竜は心の乱れを取っ払う。そして、
『今一度聞くチャンスをやる。ザイル、その鞄の中身を置いていけ。セイレーン号の船長、ザイルの宝を引き渡し次第港に帰れ。さもなくば、こうだ!』
言うと同時に、水竜の尻尾が海から顔を出した。尻尾はラグとリティに向けて振り下ろされる。
ふたりは飛び退いて、スローモーな一撃を躱す。しかし標的を失った尻尾が叩きつける先は、セイレーン号の船体だ。尻尾は手すりを叩き割り、船を大きく揺らした。
「うおっ、しまった!?」
「いや、心配しなくてもいいラグレス君。これくらいセイレーン号は耐えてみせる。航海の守護もあるんだ。だから船の心配よりも先に、あの水竜を!」
トールシップは真剣な眼差しで頼み込む。船体にはまだ致命傷はなかった。揺れる船も守護に守られて横転を逃れていた。
ラグは力強く頷き、すぐに仲間たちに合図する。
「よし、行くぞみんな! 俺たち境目トラベラーズが、水竜を倒すんだ!!!」
「「「おーッ!!!」」」
鬨の声、それぞれをマークしている海賊を撥ね除けた。さらにジャズは一歩先に出て展開する。
「そんじゃ早速、律動領域!」
いつものリズムリージョン。全員が自身の、そして水竜の律動を感じる。
多対一。境目トラベラーズの戦いが幕を開けた。
「先鋒は僕らに任せてよ!」
「私も続きます、兄さまも一緒に!」
「もちろんです姫さま!」
真っ先に戦車を出すアル、専用の武器を携えたヘキサとノナ。3人ともが砲門をそろえて放つ。
「喰らえ魚野郎、サンダーキャノン!」
「奮発するよ、ペンタボルトッ!」
「これが新型です、ヘキサブラスト改!」
砲撃が雷を迸らせ、突き刺さったボルトが激しく炸裂し、砲剣から放たれる強力な熱波が炸裂した部位を焼き焦がす。
しかし、水竜は怯まない。
「ブラストではダメですか……っ!?」
「ペンタボルトでもかすり傷だけなの!?」
「あの見た目で弱点雷じゃないの!?」
『効かねえ、しょぼい、弱えんだよ! お返しの激流砲だ!』
お返しとばかりに口を開き、水の力を集中させる。海水も取り込んで放たれるは、物量に特化した水魔法だ。
「させるか、衝盾ッ!」
「力を貸そう、風帯-盾!」
「受け流します、氷壁!」
風の盾で勢いを殺し、氷の壁が二つに割る。正面を守り、割れた二つは航海の守護が守る。通させない。
魔法を防ぎ切ったところで、リティが声を上げる。
「みんな聞いて。竜人に宿ってる竜には炎が効かないが基本なの。雷は効くはずだけど、でも属性相性的に考えたら……」
「水に刺さる風属性が有効。鱗の鎧を重撃で飛ばして肉を斬る、だろお嬢さん」
「ええ!」
リティの情報に、ジャズの知識。聞いた途端、ラグとハヤテマルの顔がパッと明るくなる。
さらに「それと……」と続けようとするリティだが、言うよりも先に、飛び出す2人。タイとランド、肩を並べるのは少し意外なペアだ。
「風もとい斬属性なら、オイラの爪が火を吹くぜ!」
「ランドエスケープも準備完了、鱗は俺の大剣でやるっす。ゴルドさん、投げてもらってもいいっすか!」
「ええ、ちょうどリハビリも終わったところです。喜んで!」
ゴルドはランドを抱えて投げ飛ばす。タイは自力で踏み込んで飛び出す。
息が揃っているのは律動領域のおかげか、それとも相性がいいのか。
「パワーブレードッ!」
ランドの大剣が首の鱗一枚を斬り飛ばし、
「コークスクリューだオラッ!」
タイの捻りを利かせた爪が隙間から外皮を貫き、肉を抉る。
『……ッ、こいつら!』
軽く血を流しながら一度身を引き、水竜は首を振り回した。
ランドは当たるより前に能力で船に戻る。タイは鉤爪を巧みに扱って、水竜の巨体に張り付いた。
「へへっ、こりゃいい」
『ば、ばかな!? ネズミごときがなぜ』
「おいらはただの鼠じゃねえ、窮鼠だ! この背の焼痕を見ろ、そして刻み込め。シザークロス!」
交差する両爪。バッテン印に裂ける肉体、飛び散る鮮血。
水竜の身体を蹴って離脱するタイと入れ替わるように、ハヤテマルとラグが飛び込む。
「ハヤテマル、あれ行こう!」
「承知!」
「「閃裂斬ッ!!!」」
合わせて空を斬る2人の刃。放たれた2つの斬撃波が傷口の奥で風刃の嵐を巻き起こし、深くを抉り裂く。
ここまで来ると、巨体の水竜でも看過はできない。血をどろどろと流しながら、苦痛の叫び声を上げながら、嵐の海に沈んでいく。
しかし、頭が沈んでからほんの数秒。
『これで終わると思ったか!!!』
「「なっ!?」」
水面を走る2人はかち上げるように、再び水竜が顔を出した。
ハヤテマルとラグは飛び上がって躱しながら、船上に転がり込む。それから水竜の方を向く。
「なんと頑丈な」
「いや……違う、あの傷口」
ラグが指差す。
先ほど思い切り傷つけた部位は、水をまとっていた。まとった水で、急速に再生していた。
『はあ、はあ、そうだ……こんくらいどうって事ない。海域は俺の領域だ。水神さまの領域だ!』
「水神……!」
言い終える頃には傷も完全に癒えて、水竜は身体を船底に打ちつける。
一瞬船が水面から持ち上がった。何人かの海賊は海に投げ出され、乗組員たちは必死で船にしがみつく。ラグたちは互いを支え合って振り落とされないようにするばかりだ。
誰もうかつに動けないまま、水竜はさらに大海嘯を巻き起こして船を揺さぶる。
『ははは、やっぱおまえたちは所詮人間。足の踏み場がなければ対峙する事だってできやしない。宝を譲る気がないなら、このまま海の藻屑と化しやがれ!』
身体をうねらせて、セイレーン号の周りを2周。十分に加速したクチバシで強襲する。
その時だ。
「竜体ッ!」
とっさに手すりを蹴って、リティが飛び出した。
黒い渦をまとって、竜の姿へと変わった。
水竜の頭部ほどの体躯で、しかし秘められた剛力で、襲いかかるクチバシを抱きかかえる。
まるで達人の技だった。数日前まで歩くだけで精一杯と語り、以降の進展も言わずにいたリティが今、翼の力で踏ん張り、その強襲を受け止めてたのだ。
『ひっ!?』
閉じられた口の隙間から低い声色の悲鳴が漏れた。水竜本人の恐怖感の表れなのだろう。次の展開を悟ってしまったがゆえに、竦んで動けなくなっていた。
しかしリティは、そっと両腕を離す。ものにした翼を動かして、適当な距離をとった。
水竜は声色を戻して言う。
『こ、怖くないぞ。俺は怖いもの知らず、俺は水神、俺は海賊団のリーダーレヴィアタンだ。たとえ相手がかつてこの竜を殺した暴君だとしても俺は……』
しかし、
「もうやめて! やめてよシルドラ君!!!」
リティの叫び。再び水竜が硬直した。
『そ、その声……もしかして、リティ姉ちゃん?』
リティ姉ちゃん。その一言で、竜のリティは顔を上げた。頬が緩んでいた。
「やっぱりシルドラ君だったんだ。ええ、そうよ。だから、もうやめにして」
『…………』
提案して、水竜は口を噤んだ。
リティは先に竜体を解いた。同時に出した浮遊板に乗って、水竜と目線の高さを揃えた。
水竜は、赤く光る眼でリティをじっくりと眺める。そして10数秒の後、その身を水流に変えた。
水竜の形を保った水流。その背中あたりから、ひとりの竜人が姿を見せる。
海賊を象徴するようなパイレーツコートと、片目を隠す眼帯。水神の尻尾を縮小したような青い鱗と銀色の尻尾、海の色をした髪の毛。
水流の水竜に乗る竜人の少年、シルドラ。彼は片手を首に添えながら、水上の浮遊板に乗るリティと対峙した。
(ryトピック〜水竜について〜
一生のほとんどを水中で暮らす竜。レヴィアタンのような水生の蛇竜だけでなく、がっしりした胴体と鰭が特徴となる鰭竜や、より魚と類似している魚竜もこれに含まれる。特殊な枠組みに属する竜は、たとえ水生であっても含まれない。
元より水竜というのは、地上の竜が入り込めない水中に生活圏を広げた竜であり、地上での記録はほとんどない。おかげで神話にもほとんど登場しておらず、今どれだけの種がいるのか、またどのような進化を遂げているのかも未知のままである。
そんな水竜だが、基本的には水属性の力に長けており、巨体で魚を食らうことで知られる。個体によっては水魔法の発展である回復系に精通していたり、あるいは炎や雷などまったく別の属性を使いこなす場合もある。
耐性面についても差が激しく、通常の枠組みの竜では最も振れ幅が大きい。そもそも陸上の生物とは縁を持ちたがらない竜なので、下手に関わり合わないことが一番の対処策と言えるだろう。
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