境目の物語

(ry

守護獣からの誘い

 翌日。
 少し早く目覚めた俺とリティが、テントから出て伸びをしていると、乗組員のひとりが訪ねてきた。船長が話をしたいとのことだ。
 きっと依頼関係の話だろう。俺とリティはすぐに港の建物へ。今回は受付うけつけではなく船長室で、トールシップ船長に迎え入れられた。

「早朝にお呼びしてすまない。おはよう、ラグレス君とリティさん」
「「おはようございます」」

 まずは挨拶。それからすぐに、俺は尋ねる。

「ところで話って言うと、やっぱり実力がついたかどうかってやつか?」
「いやいや、その事ならこちらはもう任せる気だ。君たちのことは港から観察させてもらったし、実はもう出港準備を進めているところなんだよ」
「本当か!? よっしゃ!」
「やったねラグ!」

 知りたいことを一番に知れて、肩の荷がおりるようだった。俺のせいで引き受けることすらできないんじゃないかって心配してたから、喜びのあまりリティと抱き合った。
 しかしこれはあくまでも俺が聞きたかったこと。呼び出した船長の本題はまた別にあり、

「それでなんだけど、実は守護獣さまの方で少し問題があってね」
「「えっ」」

 「問題」のひと言で、一瞬肝が冷える。
 まさか3日間の努力と関係ないところで詰んだんじゃないかと。俺たちがそんな反応をするものだから、船長は慌てて言葉を続ける。

「あ、深刻な話ではなくてね。どうやら守護獣さまが、先に君たちふたりに会いたいって。お願いしてきたんだよ」
「なんだそういうことか。よかった」
「私てっきり出港出来なくなっちゃったのかと思ったわ」

 最後まで説明されると、俺たちが思い込んでいるほど深刻な問題ではなかった。安心して胸を撫で下ろした。

「というわけで、君たちには守護獣さまと会ってきてもらいたいんだ。急かしはしないけど、完了し次第出港すると約束するよ」
「ああ、それならさっそく行ってくる!」

 俺たちはすぐに返事して、この辺りの地図を受け取る。そしてすぐに、俺たちは港を飛び出した。





 歩くこと数時間。
 砂浜のおとなしい魔物の脇を通り、たまに水走りでリティの泳ぎと並走したり、気の向くままに西へ進んでいると、砂漠地帯を越えて緑の見える海岸にたどり着いた。
 視線の遠く先には霧掛かった広大な森林も見えた。あの日、ヘキサたちの戦車に追われながらも森を目指した時のことを思い出す。

「もしかしたらあれ、俺が森の内から外へ出るために通ったあの森かも」
「広大な迷いの森……だっけ? すっごい高い木。海と同じでとっても広そうね」

 リティと話しながら、森での出来事が懐かしくなってくる。
 まあ、良い出来事ではなかったけど。わけもわからず右腕を持っていかれて、バケモノ軍団に襲われて、なんなら頭までかじられるような、どれも良い出来事ではなかったけど。
 だけど今回そんな魔境に用はない。地図に従って歩いていると、数分で目立った入り江にたどり着いた。

 そこは港付近にはない、自然の岩石に囲まれた場所で、隙間から流れ込んだ波と吹き込んだ風が、静かな音色を奏でる。もとより砂漠と比べて攻撃的な魔物が少ない海岸線だが、ここは海の男が安全を確保している港と同じくらい、魔物の気配がなかった。
 安全を確かめた上で、周囲の景色を見渡してみると、洞穴ほらあなが一つ。地図につけてもらった印の場所と一致している。

「守護獣ってのはあの中にいるっぽいな」
「そうみたいね」

 確認し合っていると、ふとした時洞穴の中から、パーンッ! と痛快な音が奥から響いてきた
。何事かと驚くが、聞こえてきたのはその音一つだけ。

「リティは他に何か聞こえたか?」
「うんん、でもきっと守護獣さんの音だと思うよ。だって……」

 リティが再度耳を澄ましていると、それなりに間を置いてもう一つパーンッ。
 身体や楽器から鳴るようなものではなく、たぶん武器による音だけど、かといって戦いの音は聞こえない。リティの耳でもそうだったらしい。

「行ってみよう、ラグ」
「そうだな」

 俺たちは波と風の音に混ざる、その痛快な音に注意を払って進む。俺の目で視界を確保して、リティの耳に死角を任せて。
 静かな洞穴に時折響くその音は、どうやら修練の音のようだ。
 ある程度均一なタイミングで音が4回聞こえると、次は倍以上の間を置いて、また4回。一定の周期があるこの修練は、なんだろうか。

 進むたび、徐々に近くなる響き。音を頼りにしていれば分岐路に戸惑うこともなく、進んだ先で俺たちは、そこそこの広さがある空間にたどり着いた。

「ここは……」

 自然にできた大空洞。壁の割れ目から差し込む金色の日光。海と面して、流れ込む海水。
 俺の視界に入るその光景は、まさしく入り江の秘境だった。

 そして、間近で聴こえる、弦の音。続いて鳴り響く、パーンッという的中の響き。
 音の方を見ると、人為的に作られた土壁。取り付けられた霞的かすみまとに、2本の矢が刺さっていた。

 弓だ、弓の修練だ。そういえばあのギルドでも弓を使う人は何人かいたし、弦の音は聴いた事があった。
 しかし、音の重さが違う。我道さんが使ってたあの弓の形をした破壊兵器のことはこの際無視するとして、俺がギルド勤めしてた時聴いた音とは何もかも違っていた。

 記憶を探っていると、さらに1発パーンッ。張られた的紙を破って、3本目の矢が痛快な音を響かせた。

 ハッとする。記憶にないなら見て確認しろと、俺は射手の方を見る。そして、息を呑んだ。
 金色の長髪を垂らした、一切衣服を身にまとっていない女性。身の丈を軽く越える長弓にも驚くところだが、しかし本当に驚くのはそこではなく、下半身。

 視線を下げると、彼女の下半身には足の代わりに、6本の触手が生えていた。




(ryトピック〜海岸(α南東)の魔物その1〜

【シェルミミック】平均Lv.20

 砂浜に転がっている、人ふたりがぎゅうぎゅう詰めで入れるサイズの2枚貝の魔物。幼体は海の浅瀬で育ち、十分成熟すると浜に上がって地上の獲物を待ち伏せする。
 近づいた者に微弱な神経毒性の息を吐きつけて、動きが鈍ったところを丸呑みにすることが得意。特に幼体時の天敵である鳥類はよく成体に捕食されており、ある種の逆襲だとも言われている。

 一般人にとっては十分危険なのだが、魔物や武器を持った人間には敵わない。むしろ成体がたまに隠し持っている高価な真珠を求めて、冒険者に狩られることもある。


【レイジーウミウシ】平均Lv.-

 砂浜でたまに見かけるウミウシの魔物。怠そうに動く姿を見ると、こちらまで怠くなってくる……
 というのがこの魔物の得意能力。周囲一帯の生物をダルダルオーラで満たし、怠け者ワールドをつくるのが彼らの夢である。

 なおそれ以外は全くの無害であるため、遠くに逃すなりして対処すればいい。間違っても綺麗だからと自宅で飼ってはならない。

【ビーチゴブリン】平均Lv.105

 ゴブリンの中では優良個体の青色であり、双翼大陸を代表する魔物の一角。なのだが、この個体は沿岸部でのアウトドア生活に魅入られた存在であり、本来の生息地を外れて遊びに来ている。
 各地の沿岸部に現れてはテントを構えて、釣りにバーベキューとエンジョイしまくり。しかし決して間違えてならないのは、彼らはフレンドリーではないということ。
 もとより人と敵対関係にある彼らは、人から接触されればすぐさま正当防衛。原種青ゴブリンと違って武器は釣り竿などのアウトドアグッズだが、身体能力は同等であり、並の冒険者でも晩ごはんにされてしまう危険がある。
 幸いにも狙って人を襲うことはないので、領地に侵入されたなどの大きな理由がない限りは、接触しないことが肝心である。

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