境目の物語

(ry

6人隊のお祭り騒動

 街の中心部から波動が放たれた直後、デザートワームたちが猛威をふるい始める。その内のたった1匹にすぎないミミズの猛攻に、6人隊は壊滅の危機に瀕した。

 ヘキサとゴルドは再起不能に陥り、ランドは獅子と三つ巴で転がりすぐには動き出せない。
 そんな中、足がすくんでしまったノナを救える隊員は、カイを除いて他にいない。

「それくらいわかっています!」

 カイは魔法を唱え、氷塊を撃ち込んだ。
 しかしただでさえ高い氷属性耐性。その上に暴れ回るミミズの体は、貫通力に優れたそれすら弾き飛ばしてしまう。

「くそっ、やはり私には止められない。母なら……母なら、氷の巨人で受け止めるというのに!」

 カイは悔しそうに地団駄を踏む。しかしその瞬間、どういうわけか彼の周りに冷気が漂い始めた。

《氷人は守護者。友を護らんとする意志次第で、いかようにも発現できる》
「っ!?」

 カイの耳に、演技感に溢れる女性の声が聞こえた。その音は次の瞬間、ミミズの巨体が地に打ちつけられる轟音にかき消されてしまう。
 だがカイはその声を信じる。

「(友を護らんとする意志……)私はこれ以上、誰も死なせてはならない。ランドやアルさん、ゴルドさんも。隊長も、そしてノナ姫さまも!」

 カイは決意を示しながら、左腕を前に突き出す。そして迫る怪異に向けて、言い放つ。

氷人フリーズゴレムッ!!!」

 その瞬間、彼の左掌から質量の塊が飛び出す。

 氷のレンガで構成された、巨大な左腕。それはまさしく、フリーズゴレムの腕だ!

「行っけぇッ!!!」

 扱いはわからなくとも、カイは全身全霊を込めて腕に指示を送る。
 冷気に包まれた豪腕は、ミミズの頭部を掴む。そしてその勢いを、どうにか抑え込んだ。

「ぐうぅっっ!!!」

 だが勢いを殺しても、ミミズの暴走は止まらない。その巨体を振り回されるたび、ゴレムを形作るレンガが少しずつ剥がれ落ちてしまう。

「やはりこの形態、不完全なのですか!?」

 力を集中させながらも、カイは歯を食いしばる。だがその時、

「いいやそんなことはない!」

 否定の言葉とともに、ジャズが勢いよく飛び出した。

「いくぜ狂狼バーサーカー!」

 彼が叫ぶと共に、突き出した右足に光の粒子がまとわりつく。次の瞬間それは狼を彷彿させるような形状を取り、同時に現実離れした加速を生み出した。

 そして直撃。

 デザートワームの胴部は大きくへこむ。さらにその体は、空高く打ち上げられた。



 舞い上がるミミズとは対照的に、ジャズは急降下して着地する。彼が駆け寄るのと同じように、カイも駆け寄っていた。

「悪いなカイ。俺としたことが、律動領域の解除に手間取って遅れちまった」
「いえ、大丈夫です。それよりも今のは?」
「あれの説明はまた今度。今は目の前の敵に集中しようか」

 さらっと霊術の話を流し、ジャズは宙を指差す。
 舞い上がるミミズは、それでも負けじと牙を向けている。まだ戦闘不能とはいかないらしい。

「カイ、氷人が完成するかはあんたの意志次第だ。やれるな」
「はい、ここで成功させなければ、部隊は全滅ですから」

 きっちり言われて、カイは再び決意を固める。その様子に少し微笑むジャズは、次にランドの方へと視線を向けた。

「ランド、動けるか!」
「はいっす!」
「今からカイの氷人であいつを止める。俺たちはその隙を攻めようか」

 ランドは指示を受けると、ゴルドを看ているアルに何かを伝える。それから大剣を担ぎ、ジャズの隣へと駆けつけた。

「さあ行こう!」





 降下を始めたデザートワームは、絶妙なバランス感覚で6人隊に狙いを定める。砂上ではないと言え、急襲の精度は変わりないらしい。
 そんなミミズを迎え撃つのは、左腕を掲げたカイだ。

「母さんのフリーズゴレムと、みんなを護りたこの思いを合わせて……こうだ。氷人フリーズゴレムっ!!!」

 カイはイメージを口に出し、氷の魔法を解き放つ。冷気は彼の周りを覆い、次の瞬間打ちあがる。

 今度のそれは根元からレンガを積み重ね、空高く登っていく。まるで彼の背後に宿したように、フリーズゴレムの体が形成されていく。そして

「これは……!」

 カイは驚きの声を上げる。
 組み上がったそれには、残念ながら下半身が不足している。けれども巨大な体と両腕、そして威圧感を放つ頭部が、その力強さを物語っていた。

「これならできる! フリーズゴレム、やつを受け止めろ!」
「コオオォォォーーッッッ!!!」

 カイはさらなる自信をもって、氷人に命令を下す。遥かに大きな氷の巨人は、口を大きく開けて雄叫びを響かせながら、両腕を構えた。
 対するデザートワームは、体を地面と垂直にする。全体重を一点に集中させて、レンガの装甲を叩き割る気だ。

 そして
 
「コオオォォォーーッッッ!!!」
『キシャーーッッッ!!!』

 声を張り上げる双方が、激しく衝突する。巨大なミミズは肩に噛みつき、氷人は大きく体勢を崩される。だが、

「!!!!!」

 冷気を放つ両腕が、ミミズの体を抱き抱えた。

 本来この技は獲物に死を与える抱擁だが、耐性に阻まれた今はそこまでいかない。だが足止めとしての役割は、十分に果たした。

「ランド、ジャズさん、今です!!!」
「いくぜランド! 飛び上がれ!!!」
「行くっす!!!」

 カイが声を張り上げ、2人は同時に飛び上がる。足りない高さは氷人の肩を踏み台にして補い、双方はデザートワームの上空へと位置取った。

「ランド、急襲を決めるが、一撃では足りない。そこで君には、ここで能力を発動してもらう」
「えっ? ここ上空っすよ!?」
「それがいいんだ。さあ早く!」

 急がせるジャズの指導を受けて、ランドは空に能力の杭を打つ。目には見えないが、その位置は正確に記憶された。
 さらにジャズは指示を出す。

「よしそれでいい。武器を構えろ」
「こうっすね」
装纏霊術そうじんれいじゅつ、狂狼!」

 言われた通り大剣を構えると、ジャズはまたも不思議な術を唱える。するとそれと彼のククリに、狼を彷彿とさせるそれがまとわりついた。

「さあ振り下ろしだ!」
「えいっ!!!」

 そしてノリに合わせて、2人は同時に武器を振り下ろす。直撃、ランドには理解不能な加速が存分に発揮され、デザートワームに叩きつけられる。


 ドンッッッ!!!!!


 鈍重な音。
 デザートワームの胴体に風穴が開き、大量の血が噴き出た。だが一撃ではまだ足りない。

『シャーーッッッ!!!』

 デザートワームは悲鳴を上げながらも、さらに暴れ回る。抑え込んでいるフリーズゴレムも、段々と押さえが効かなくなってきた。
 その状況も、ジャズは見越している。彼は畳み掛けるように、ランドに指示を出す。

「ランドエスケープだ!」
「えっ! ……ああ! わかったっす!!!」

 その時ようやく、ランドは意図を理解した。

「ランドエスケープ!!!」

 ランドの発動に合わせて、2人は瞬間移動する。
 彼らが向かうその座標はどこだ? そう、デザートワームの頭上だ!

「こんな使い方が……」

 自らの真下で暴れる怪異を見ながら、ランドは思わず感嘆の声をもらす。

 ランドは能力を帰宅以外に使ったことがなかった。いや使えるという考えすら持ち合わせていなかった。
 そんな彼にとってこれは、言わばカルチャーショック。彼を成長させる、大きな一歩だった。

「これでトドメにしようか、ランド!」
「もう一度叩き込むっす!!!」

 終わりを告げるジャズの合図に、ランドは阿吽の呼吸で返事と身構えを行う。2人の体は、すぐに急降下を始める。

 そして


ドンッッッ!!!!!

 二度目の急襲は外皮を貫き、臓腑を弾き出す。
 彼らの全身全霊の二撃目は、確実に致命傷を負わせた。

『キシャーーァ……』

 暴走していたデザートワームの声は、明らかに弱々しいものになる。
 ジャズとランドの2人は着地してすぐ、カイの側で警戒に入る。

 しかしその必要はなかったらしい。

「大丈夫、私のフリーズゴレムで十分です」

 カイは大きく息を吐きながら告げる。フリーズゴレムの維持状態は限界すれすれだったが、弱った敵の足掻きを防ぐ力は残っていた。

『シャーァ…………』

 その叫びと共に、デザートワームから全ての力が抜け落ちる。そしてその体躯がヒモのように垂れ下がった時、この怪異の生命活動は完全に停止した。




(ryトピック〜バルカン姉妹について〜

 驚異的な視力のせいで小虫の気持ち悪さに憂鬱を覚える姉、ガンナーのバルカン。超常的な聴力のせいで国中の音に憂鬱を感じる妹、レンジャーのイコライザ(通称ライザ)。
 2人は第6部隊所属の遠距離担当であり、常に部隊から危機を遠ざけていた人物でもある。常に2人でくっついていたため、百合ゆり姉妹と呼ばれることも。

 姉妹はかつて勇者パーティの一員として旅をしたことがあり、回復役が不在の中いっさい危険に陥ることなく魔王都市の手前にたどり着いた経歴を持つ。
 しかし決戦前夜、イチャつく2人の間に勇者(男)が入り込む。百合に割り込んだ彼は、同パーティの戦士に処刑されたのだった。

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