境目の物語
6人隊の大仕事その1
5日前……
(立場上)ギルドマスターである青髮の少年は、火山に向かうべく南門につく。彼は狼人の商人をメンバーに引き入れるために、竜人の山里で依頼をこなすそうだ。
そしてそこには、同メンバーである6人隊の姿もある。彼らはもちろん、少年を見送りに来ていた。
「それじゃ、そっちも頑張れよ!」
少年は手を振りながら、笑顔で声援を送る。それからくるりと向きを変えて、街道へと駆け出した。
その走りはあまりに速く、あっという間に距離が開いていく。時間にして10に達する頃には、彼らの視界から消えていた。
「もう……見えなくなりましたか」
「相変わらず速いっすね」
あっという間に離れていく少年を見て、ヘキサは呆気にとられて言葉をもらす。そこにランドの共感を受け、さらに感傷的なった。
しかしいつまでも止まってはいられない。ヘキサは気持ちを切り替えるように、手をパンッと合わせた。
「では、我々も始めましょう」
「はい!」
隊長の指示に、他5名は一斉に応える。部隊だったころに培った協調性は、姫を混ぜても変わらない。
彼らにも目的がある。ギルドを発展させるための、重要な依頼が待っている。
それをこなすために、ヘキサは先頭を進む。そして残りの一同も、彼の後を追うのだった。
彼らがたどり着いた場所は、巨大なオークション会場。
世界最高規模のオークション会場と呼ばれるこの場所は、交易街の中心部に存在している。
その位置からも人通りは多く、近辺に露店を構える商人も数が多い。そのためこの会場は平時であっても、街一番の活気に満ち溢れていた。
しかしそれでも、今日の活気に勝ることはない。なぜなら今日この場所では、あらゆる土地から集う商人が自慢の品を競売する最大規模の祭り、競売祭が開催されるからだ。
「皆さん、ここのようです」
彼らは依頼書を確認しながら、舞台の裏手にある大きな建物に足を踏み入れる。そこは商品を一時的に保管する、倉庫の役割をもっていた。
中に入ると、さっそく依頼主の集団5人と出くわす。その中でも先頭に立つ、緑のシノビ装束を着た老人が、両腕を広げて6人隊の皆を歓迎する。
「ようこそ諸君。私が依頼主のディルだ。今回の件も引き受けてくれたこと、感謝しているよ」
「こちらこそ契約の話を進めていただけること、喜ばしく思っています」
ヘキサは代表として礼の言葉を投げかけて、頭を深く下げる。合わせて後ろの5人も頭を下げると、ディルと名乗った男は嬉しそうな笑みを見せた。
「ほっほっほ、なんと礼儀正しい。さすがは小王国ゼトが誇る第6部隊。変わり者を束ねるヘキサ君の力量は、こうも伝播するのだね」
「あなたは我々の部隊をご存知なのですか!?」
「何を今さら。私たちIBCの情報網を侮ってはならんよ」
部隊の内情という機密情報を知られていたことに、驚きを隠せないヘキサ。しかしこの老人は、さらっと流してみせた。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
言い終えると彼は振り向き、集団のひとりを手招く。組織の一員とは思えないほどラフな服を着こなした青年は、笑顔を見せてから前に出た。
「紹介しよう。彼が君らに預ける駐在員、」
「どーも、ジャズ・エトランゼだ。能力は【律動領域】、よろしく頼む」
紹介するディルと入れ替わり、青年は名乗り上げる。その口調や雰囲気は服装と同じく、粗雑で気楽な印象を放っていた。
しかし彼は、出だしから突拍子もない。ヘキサは首を傾げてディルに尋ねる。
「彼はいったい……それに駐在員とはなんでしょうか?」
「わかりやすく言えば、君らの行動を間近で観察して、契約を結ぶに値するかどうかを判断する役職の者だよ」
「なっ!?」
青年の立ち位置を明かされて、ヘキサ思わず身構える。それは後ろの5人も同じだ。
そんな彼らを見て、ディルとジャズは笑い声を上げる。後ろの3人も、笑みを隠しきれずにいた。
「そう身構える必要はない。私たちが見たいのは態度ではないのだよ」
「それに俺は駐在員だが、実のところただの肩書きにすぎない。俺はあんたらと、仲良くやっていきたいのさ」
本音を打ち明けながら、ジャズはヘキサの前に出る。そして右手を差し出した。
「ヘキサさんの利き手は、右で合ってるよな。さあ、まずは握手からだ」
「は、はい……」
ジャズに言われて恐る恐る、ヘキサも右手を差し出す。手を先にとったのは、当然ながらジャズだ。
互いの両手が握られて、ジャズのリードで上下に振る。その動きが止まったころには、手ががっちりと握られた。
それにより双方の間には、付け焼き刃ていどとはいえ、友好関係が刻まれていた。
「ありがとう、それでいいぜヘキサさん。少しは肩の力も抜けたようで、ほっとしたぜ」
「そうですか? 私はまだあなた方の空気についていけてないと思うのですが」
「しばらく共にすればすぐ慣れるさ。それに後ろのカイ、ゴルド、アル、ノナ、それからランド少年。仲良くしたいのは君たちも同じだ。改めてよろしく」
「おいっ!」
友好関係を深めるために、ジャズは5人にも同じように手を差し出す。しかし、しれっと彼らの名を並べる言動には、驚かずにいられなかった。
それぞれが「なんで知ってるんだ!」の意味合いでツッコミを入る。それをジャズは、先ほどと同じように笑った。
「はははっ。知ってるんだよ、俺たちIBCはな。だから伸び悩んでることでも、なんでも質問してくれ。最適な答えを出してやるからよ」
意気揚々と喋り、自信満々な態度で告げる。
彼は流れるように出入り口へ移動すると、ディルに言葉を投げかけた。
「ボス、あとのことは俺に任せてもらってもいいよな」
「いいとも。期待しているよ、ジャズ君」
その了承と共に、今度は6人隊の手を引く。
「さああんたら、ついて来な。競売祭での仕事は、俺がみっちり教えてやるからさ」
そうして彼らは、ジャズに振り回されるままにこの建物を後にした。
残ったディルと3人は、互いを見合わせて肩をすくめた。
「何もなければいいのだけどね」
「まったくです」
彼らは皮肉を呟く。それから祭りの準備をと、それぞれの作業に取り掛かった。
今日はとても暑い1日になりそうだ。
(ryトピック〜IBCについてその1〜
【Information  Business  Company】……頭文字を取ってIBC。代表取締役のディル率いる、謎の情報取引会社。
その組織構成、従業員の数、さらには行動目的までも公にならない。そもそも普通に生活している分には、関わることすらないらしい。
唯一、多くの人に知られているのは、【情報取引連盟】。ギルド間での依頼情報の共有を目的とするこの組織は、ほとんどのギルドで契約が結ばれているようだが……
(立場上)ギルドマスターである青髮の少年は、火山に向かうべく南門につく。彼は狼人の商人をメンバーに引き入れるために、竜人の山里で依頼をこなすそうだ。
そしてそこには、同メンバーである6人隊の姿もある。彼らはもちろん、少年を見送りに来ていた。
「それじゃ、そっちも頑張れよ!」
少年は手を振りながら、笑顔で声援を送る。それからくるりと向きを変えて、街道へと駆け出した。
その走りはあまりに速く、あっという間に距離が開いていく。時間にして10に達する頃には、彼らの視界から消えていた。
「もう……見えなくなりましたか」
「相変わらず速いっすね」
あっという間に離れていく少年を見て、ヘキサは呆気にとられて言葉をもらす。そこにランドの共感を受け、さらに感傷的なった。
しかしいつまでも止まってはいられない。ヘキサは気持ちを切り替えるように、手をパンッと合わせた。
「では、我々も始めましょう」
「はい!」
隊長の指示に、他5名は一斉に応える。部隊だったころに培った協調性は、姫を混ぜても変わらない。
彼らにも目的がある。ギルドを発展させるための、重要な依頼が待っている。
それをこなすために、ヘキサは先頭を進む。そして残りの一同も、彼の後を追うのだった。
彼らがたどり着いた場所は、巨大なオークション会場。
世界最高規模のオークション会場と呼ばれるこの場所は、交易街の中心部に存在している。
その位置からも人通りは多く、近辺に露店を構える商人も数が多い。そのためこの会場は平時であっても、街一番の活気に満ち溢れていた。
しかしそれでも、今日の活気に勝ることはない。なぜなら今日この場所では、あらゆる土地から集う商人が自慢の品を競売する最大規模の祭り、競売祭が開催されるからだ。
「皆さん、ここのようです」
彼らは依頼書を確認しながら、舞台の裏手にある大きな建物に足を踏み入れる。そこは商品を一時的に保管する、倉庫の役割をもっていた。
中に入ると、さっそく依頼主の集団5人と出くわす。その中でも先頭に立つ、緑のシノビ装束を着た老人が、両腕を広げて6人隊の皆を歓迎する。
「ようこそ諸君。私が依頼主のディルだ。今回の件も引き受けてくれたこと、感謝しているよ」
「こちらこそ契約の話を進めていただけること、喜ばしく思っています」
ヘキサは代表として礼の言葉を投げかけて、頭を深く下げる。合わせて後ろの5人も頭を下げると、ディルと名乗った男は嬉しそうな笑みを見せた。
「ほっほっほ、なんと礼儀正しい。さすがは小王国ゼトが誇る第6部隊。変わり者を束ねるヘキサ君の力量は、こうも伝播するのだね」
「あなたは我々の部隊をご存知なのですか!?」
「何を今さら。私たちIBCの情報網を侮ってはならんよ」
部隊の内情という機密情報を知られていたことに、驚きを隠せないヘキサ。しかしこの老人は、さらっと流してみせた。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
言い終えると彼は振り向き、集団のひとりを手招く。組織の一員とは思えないほどラフな服を着こなした青年は、笑顔を見せてから前に出た。
「紹介しよう。彼が君らに預ける駐在員、」
「どーも、ジャズ・エトランゼだ。能力は【律動領域】、よろしく頼む」
紹介するディルと入れ替わり、青年は名乗り上げる。その口調や雰囲気は服装と同じく、粗雑で気楽な印象を放っていた。
しかし彼は、出だしから突拍子もない。ヘキサは首を傾げてディルに尋ねる。
「彼はいったい……それに駐在員とはなんでしょうか?」
「わかりやすく言えば、君らの行動を間近で観察して、契約を結ぶに値するかどうかを判断する役職の者だよ」
「なっ!?」
青年の立ち位置を明かされて、ヘキサ思わず身構える。それは後ろの5人も同じだ。
そんな彼らを見て、ディルとジャズは笑い声を上げる。後ろの3人も、笑みを隠しきれずにいた。
「そう身構える必要はない。私たちが見たいのは態度ではないのだよ」
「それに俺は駐在員だが、実のところただの肩書きにすぎない。俺はあんたらと、仲良くやっていきたいのさ」
本音を打ち明けながら、ジャズはヘキサの前に出る。そして右手を差し出した。
「ヘキサさんの利き手は、右で合ってるよな。さあ、まずは握手からだ」
「は、はい……」
ジャズに言われて恐る恐る、ヘキサも右手を差し出す。手を先にとったのは、当然ながらジャズだ。
互いの両手が握られて、ジャズのリードで上下に振る。その動きが止まったころには、手ががっちりと握られた。
それにより双方の間には、付け焼き刃ていどとはいえ、友好関係が刻まれていた。
「ありがとう、それでいいぜヘキサさん。少しは肩の力も抜けたようで、ほっとしたぜ」
「そうですか? 私はまだあなた方の空気についていけてないと思うのですが」
「しばらく共にすればすぐ慣れるさ。それに後ろのカイ、ゴルド、アル、ノナ、それからランド少年。仲良くしたいのは君たちも同じだ。改めてよろしく」
「おいっ!」
友好関係を深めるために、ジャズは5人にも同じように手を差し出す。しかし、しれっと彼らの名を並べる言動には、驚かずにいられなかった。
それぞれが「なんで知ってるんだ!」の意味合いでツッコミを入る。それをジャズは、先ほどと同じように笑った。
「はははっ。知ってるんだよ、俺たちIBCはな。だから伸び悩んでることでも、なんでも質問してくれ。最適な答えを出してやるからよ」
意気揚々と喋り、自信満々な態度で告げる。
彼は流れるように出入り口へ移動すると、ディルに言葉を投げかけた。
「ボス、あとのことは俺に任せてもらってもいいよな」
「いいとも。期待しているよ、ジャズ君」
その了承と共に、今度は6人隊の手を引く。
「さああんたら、ついて来な。競売祭での仕事は、俺がみっちり教えてやるからさ」
そうして彼らは、ジャズに振り回されるままにこの建物を後にした。
残ったディルと3人は、互いを見合わせて肩をすくめた。
「何もなければいいのだけどね」
「まったくです」
彼らは皮肉を呟く。それから祭りの準備をと、それぞれの作業に取り掛かった。
今日はとても暑い1日になりそうだ。
(ryトピック〜IBCについてその1〜
【Information  Business  Company】……頭文字を取ってIBC。代表取締役のディル率いる、謎の情報取引会社。
その組織構成、従業員の数、さらには行動目的までも公にならない。そもそも普通に生活している分には、関わることすらないらしい。
唯一、多くの人に知られているのは、【情報取引連盟】。ギルド間での依頼情報の共有を目的とするこの組織は、ほとんどのギルドで契約が結ばれているようだが……
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